最初のヒーロー
目の前に現れた黄金の英雄。彼は誰だ?彼は何者だ?黄金の英雄の召喚!
「どうやら、お前は全ての運を使い果たして俺を召喚したらしいな――我が新たな“ペット”よ!」
高笑いが耳に響く。
ぼやけていた視界が徐々に戻っていき――最初に目に映ったのは、傲然とした笑みを浮かべる、一人の男だった。
長い金髪。王族を思わせる黄金の瞳。もし“完璧な美”というものが存在するなら、こいつの肉体はまさに黄金比そのものだった。
身に纏っている衣装も普通じゃない。どこか古代を思わせる装束。首元には黄金の首飾りのような装飾品。肩には金の紋様が刻まれた赤いマント。胸元は大胆に露出され、鍛え上げられた身体が見えている。脚には黄金の鎧。両腕には二本ずつ金色の腕輪。
そして男は――愉快そうに笑っていた。
「お前……は……誰だ?」
俺が最初に口にしたのは、その言葉だった。
俺はもっと禍々しい何かを召喚したのだと思っていた。悪魔とか、怪物とか、そういう類いの存在を。だって、アーティファクトは巨大な怪物の皮だった。兄貴の日記には、“異世界の戦士の皮”だと書かれていたはずだ。
「……ん?」
男は不思議そうな顔で俺を見る。
「俺が誰かも知らずに、どうやって召喚した?」
低く響く声。
男らしさの塊みたいな声だった。
「質問に答えろ。召喚したのは俺だ。お前は何者だ? 誰なんだ?」
男は小さく笑った。
「お前の質問は、全部間違っている」
「……間違ってる?」
男は頷く。
「確かに、お前は俺を召喚した。だが、それだけで全ての答えは出ている」
意味が分からない。
「どういうことだ?」
「坊主、お前が本当に聞くべきだったのは――“なぜ俺がここにいるのか”だ」
「だったら、せめて俺の質問のどれかには答えろよ。俺は死んだ兄貴と同じ仕事に就くために、お前を召喚したんだ。その仕事は危険だったが……金にもなった。兄貴の日記には、“その仕事にはお前が必要だ”って書いてあった」
「なるほどな。つまり、お前は“魔導師”の仕組みすら理解していないわけか」
「魔導師?」
初めて聞く単語だった。こういう言葉って、アニメとか小説の中でしか聞かないイメージなんだが。
「よりにもよって、こんな弱者に召喚されるとはな」
さらっと失礼なことを言われた。
「まあ、安心しろ。恐れる必要はない」
男は口元を歪める。
「俺は“英雄の中の英雄”だからな」
パチン――と、男が指を鳴らした。次の瞬間、どこからともなく黄金の玉座が現れる。
「は……?」
現実とは思えない光景だった。
「お前……魔術師か?」
男は悠然と玉座へ腰を下ろす。
「魔術師? ……ああ、“魔導師”のことか?」
男は鼻で笑った。
「勘違いするな、愚か者。俺は“英雄”だ。魔術などという矮小な技術は使わん」
そう言うと、男は脚を組む。
「さて、次は俺が質問する番だ。お前は、一つずつ答えろ」
それにしても――こいつ、金を使いすぎだろ。24金なんて、普通ならとんでもない値段だ。なのに、この男はまるで空気みたいに身につけている。
「まず、今は西暦何年だ?」
「2026年」
男から放たれる雰囲気は異質だった。威圧感とは違う。もっと神聖で、どこか“神”に近い。怖くはない。だが、こいつにも“マナコア”がある。それだけは分かった。しかも、その内側を流れるマナは――圧倒的だ。
「2026年か……。俺が死んでから、84年も経ったのだな」
目の前の男が、かつてこの世界で生きていた“人間”だったことは常識だ。死後、異世界の戦士となった存在。それが、こいつ。
「84年前に人間だったってことは……待て。お前、第二次世界大戦で死んだのか!? どっち側で戦ってたんだ?」
男は静かに手を上げた。
その仕草だけで理解する。……ドイツ側の兵士だったのか。
その時だった。突然、目の前に光の画面が現れる。ホログラムのようなスクリーン。
『プレイヤー、遠矢京太郎を確認しました』
機械的な声が響く。
俺は周囲を見回した。だが、誰もいない。
「な、なんだ今の!? お前、聞こえたか!?」
「何の話だ? ……ああ、“認識”されたのか」
男は少しだけ興味を示した。
「お前、画面が見えているんだろう?」
俺は黙って頷く。
「退屈だな。実につまらん。どうやら“システム”が覚醒したらしい。質問があるなら、それに聞け」
男には見えていないらしい。画面には三つの項目が表示されていた。
『ステータス』
『プロフィール』
『終了』
俺は恐る恐る画面へ手を伸ばす。触れられる。ホログラムなのに、確かな感触があった。俺は“プロフィール”を選択した。次の瞬間、男の肖像と共に文章が表示される。
『かつて人類最初の古代文明を統めた王。伝説ではなく、実在した王。人類と共に歩んだ英雄』
「……は?」
言葉を失う。男は満足そうに笑った。
「褒めてやろう、凡人。ようやく俺が誰なのか理解したようだな」
男は玉座に腰掛けたまま、堂々と名乗る。
「俺は“英雄の中の英雄”――メスルクの王、ラインハルトだ」
信じられなかった。
俺は――異世界最初の王であり、最初の英雄を召喚してしまったのか!?
「質問がある」
「言ってみろ」
「なんでお前が“最初の王”なんだよ。兄貴の日記によれば、“異世界の戦士”の存在が明るみに出たのは第一次世界大戦の頃だろ? なのに、お前は第二次世界大戦で死んだんじゃ――」
ラインハルトは笑みを浮かべた。
「愚者は常に、答える価値もない愚問を口にする。だが同時に――あらゆる天才もまた、最初は愚者だった」
そして愉快そうに笑い出す。
「並行世界は、同じ時間軸の法則に従う必要がない。それこそが、“時”の神秘だ。過去、現在、未来――そんなものは、“時間”にとって何の意味も持たない。先に死んだ者が未来の人間として転生することもあれば、現代で死んだ者が古代へ転生することもある。全ては運命と宿命が導くままに流れていくのだ」
俺は次に、“ステータス”の項目を押した。……まるでゲームだ。なんで俺が、こんなものを見ているんだ?
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