温かいシャワー
世界は平和に向かっている。主人公の幸せを祈ろう!
「これ、どうすればいいんですか?」
私は困惑しながら尋ねた。
冬夜さんが私に飴をくれた。白色の飴だ。今まで見たこともないような飴だった。
「小山君、準備してくれ。しばらくここに泊まってもらう」
「泊まる?」
私はベッドから立ち上がった。
「どうしてですか?」
すると彼は怒ったような笑みを浮かべた。
「あの魔術師狩りが俺たちを生かしておくと思うのか? お前、この家より安全な場所があると思ってるのか、馬鹿!」
彼は怒鳴った。
「それと一応言っておくが、お前が持っているその飴は魔道具だ」
私の視線は手の中の飴へ向かう。
魔道具を見るのは初めてだった。
「食べたら存在感が消えたりするんですか?」
私が思いついた可能性の中で、一番あり得そうなものだった。私たちは魔術師狩りであるサンティーノから身を隠している。昨日の戦いでも、なぜか魔法は彼に通用しなかった。だから隠れるための道具なら、魔力の気配を消すような効果があるのかもしれない。魔法には無限の可能性があるのだから。
冬夜さんは怪訝そうに首を傾げた。
「何を言ってるんだ?」
「え?」
「それ、歯磨き粉だぞ」
「歯磨き粉!?」
私の想像がすべて崩壊した。
歯磨き粉!?魔道具なのに!?
「まさか小山君、お前の親父って本当にろくでもない魔術師だったのか? 魔道具って聞いて、もっとすごい物を想像してたのか?」
彼は呆れたようにため息を吐く。
「行くぞ、ハイドリヒ」
二人は部屋を出ていった。
私は飴だけを残される。
「歯磨き粉……?」
私は呟いた。
魔道具と聞いた時はライオンを想像していた。だが実際に現れたのは猫だった。まさにそんな気分だった。
私は飴を口に入れる。そして噛む。
「本当に歯磨き粉だ……!」
味はまさしく歯磨き粉そのものだった。
――洗面所はどこだろう。
私は部屋を見回す。
扉が一つあった。
開けてみる。
「お風呂場だ」
私は中へ入った。
普通の浴室だった。洋風の造りで、タイル張りの床にバスタブがあり、歯を磨くための鏡もある。
私は泡を吐き出し、水で口をすすいだ。
それから顔を洗う。
冷たい水が気持ちいい。
頭がすっきりする。
夢じゃない。私は今、魔術師の家にいるのだ。
「お風呂に入ろうかな」
好奇心が勝った。
バスタブに入る体験をしてみたかった。
映画では何度も見たことがある。
でも実際に入ったことはない。
タオルもある。
冬夜さんも"自分の家だと思ってくつろげ"と言っていた。なら遠慮なく使わせてもらおう。どうせ隠れて生活するのだ。使えるものは使うべきだろう。それに、お風呂は普通のことだ。魔法とは関係ない。
「よし」
私は自分を励ました。
「ふぅ~、気持ちよかった」
私はタオルを身体に巻きながら浴室から出てきた。
お湯は温かく、とても心地よかった。
「すごくいい体験だったなぁ。緊張も全部吹き飛んじゃった。身体も軽いし、お肌もつやつや!」
私は自然と笑顔になる。
人生でも最高クラスの入浴体験だった。温かいお風呂は嫌なことを忘れさせてくれる。
「パーセリーが小山様のお着替えをお持ちしました!」
突然の声に私は悲鳴を上げた。
「きゃああっ!」
私は慌ててタオルを押さえる。
そこには今朝見たあのエルフが立っていた。
女性用の服を抱えている。
「勝手に入ってしまい申し訳ありません。冬夜様より、小山様へお渡しするよう命じられました」
パーセリーは主人の言葉を繰り返すように言った。
そして服をベッドの上へ置く。
男なのか女なのか分からない。声ですら判別できなかった。
「待って」
私が呼び止めると、彼は立ち止まった。
「はい?」
「パーセリー……」
「はい、小山様」
「あなたって……」
私は慌てて言い直す。
「い、いや、その……」
私は深呼吸した。
「男なんですか? 女なんですか?」
パーセリーは穏やかに答えた。
「小山様。私たちエルフは魔法から生まれた存在です。人間のような男女の性差はありません」
彼は続ける。
「ですが、パーセリーは一般的に男性として扱われています」
声は低くもあり、高くもある。男性と女性の声が混ざったような不思議な響きだった。
パーセリーは部屋を出ようとする。だが――
「ご、ごめんなさい……!」
私は慌てて謝った。
長い耳がぴくりと動く。
「私に謝罪ですか?」
「朝……蹴っちゃったから」
パーセリーは首を横に振った。
「怒っていません。パーセリーは主人の命令に従うだけです。私は冬夜家の使用人ですから」
私は恥ずかしくなって目を逸らした。
魔法生物、それもエルフと話すのは初めてだった。
「では失礼いたします、小山様。ご準備が整いましたら下へお越しくださいと冬夜様から伝言を預かっております」
そう言い残し、エルフの使用人は部屋を後にした。
私はベッドへ腰を下ろし、冬夜さんが用意してくれた服を見る。
着替え終えると、紫がかった青色のジャケットに白いブラウス、そしてショートパンツという格好になった。
「悪くないかも」
鏡を見ながら呟く。
意外と似合っていた。
「そろそろ行かないと。冬夜さんたちが待ってるだろうし」
私は苦笑する。
「自分のやりたいことを優先して、だいぶ待たせちゃったな」
もう一度鏡を確認する。
そして部屋を出た。
「えっ――?」
私は思わず声を漏らした。
扉の向こうに広がる光景は予想外だった。
階段がない。本当にない。
私は下を覗き込む。
「……っ」
足が震えた。当然だ。下へ続く道が存在しないのだから。どうやって降りればいいの?飛び降りたら怪我をする。下手をすれば骨だって折れる。
私はその場に立ち尽くした。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




