政府と教会
選択や行動にはそれぞれ異なる結果と影響が伴う。それを忘れないで、まなか!君が同じ過ちを繰り返さないことを願っているよ。
冬夜さんが死んだ。私が知っていた魔術師が、目の前で殺された。そして彼を殺したのは――目の前にいるあの神父だった。
「お嬢さん。次はあなたの番ですよ」
その言葉と同時に――素早い動き。
「え?」
神父は笑っていた。
もう仕事は終えていたのだ。
次の瞬間、私の首から大量の血が噴き出した。何が起きたのか理解するより早く、私は首に手を当てる。そこには傷があった。深く、綺麗に切り裂かれた傷が。
膝から力が抜ける。
私は地面へ崩れ落ちた。
首から血が流れ続ける。
「お嬢さん!」
守護者の声が聞こえた。
そして――何かが砕ける音。
意識が遠のいていく。視界が暗くなり始める。その音の正体を、途切れかける意識の中で理解した。
私を守ると誓った老人が――怪物の神の手によって握り潰されたのだ。
「弘樹でないなら、お前を代わりに使うとしよう」
神父が呟く。養父の名前。小山弘樹。
私が……代わり?どういう意味なの?
もう目を開けられない。身体の熱が消えていく。冷たさが私を包み込み、闇がすべてを覆った。
「ここから離れるぞ!!」
聞き覚えのある声。
誰かが私の手を揺さぶっている。
「え?」
「人形みたいに突っ立ってるな! 走れ!」
「申し訳ありませんが、獲物を逃がすつもりはありませんよ。私は狩りが大好きなので」
私は現実へ引き戻された。
信じられない。何が起きているの?同じ会話。同じ状況。
私は周囲を見回した。
無意識に首へ手を伸ばす。だが傷はない。血も流れていない。おかしい。
冬夜さんは死んだはずだ。なのに目の前で生きている。まるで時間が巻き戻ったみたいに。
冬夜さんが腕を上げる。その動作――。私は知っている。次に何が起きるのか。
「駄目です!! それをやっちゃ駄目!!」
私は叫んだ。
突然の叫びに、冬夜さんも神父も驚く。
「はぁ!? 何を言ってるんだお前!」
冬夜さんが叫ぶ。
「違う! 五階位魔法を使おうとしてるんでしょ!? でも効かないんです!!」
サンティーノの蛇のような笑みが消えた。
「……どうしてそれを?」
彼が小さく呟く。
「ラインハルトを召喚してください!」
私は冬夜さんへ叫んだ。
「……そうか! その通りだ! 来い、ライン――!」
私は知っている。
次にサンティーノが何をするか。冬夜さんを撃ち殺す。ならば――防ぐしかない。私は天才でもない。冬夜さんのような優秀な魔術師でもない。サンティーノのような危険人物でもない。それでも――。
「どいて!!」
私は冬夜さんを突き飛ばした。
銃声。
サンティーノの二丁拳銃が火を吹く。だが弾丸は外れた。
神父は舌打ちする。どうやら冬夜さんを仕留めるために、あらかじめ装填されていた弾をすべて撃ち切るつもりだったらしい。
私はその計画を台無しにした。
「貴様……!」
その声には怒りと憎悪が込められていた。
「魔法が効かないなら、マナ強化を使ってください! 冬夜さん!」
私は叫ぶ。
冬夜さんは地面に倒れたまま、自分が生きていることに困惑していた。
「早く!!」
彼は歯を食いしばり、立ち上がる。
私もマナ強化は使える。けれど私は未熟だ。たとえ完璧に使えたとしても、あの神父と渡り合える保証はない。
「あなたは私の信仰にとって邪魔です」
神父が呟く。
そして一瞬で距離を詰めてきた。速い。想像以上だ。拳が私の顔へ迫る。だが――その前に冬夜さんが拳を打ち込んだ。骨が砕ける音。神父の腕から響いた。
サンティーノは数歩後退する。
「なっ……!?」
彼は信じられないという顔をした。
「マナ強化は魔法じゃない」
冬夜さんが言う。
「魔術師に最初から組み込まれている能力だ。人体の本来の力を引き出す技術。要するに、今の俺は格闘家並みの身体能力を持っている」
それもまた、私が冬夜さんへマナ強化を勧めた理由だった。私と冬夜さんを比べること自体が失礼だ。経験も技術も、マナ制御も遥かに上。だから身体強化の性能も段違いだった。
冬夜さんは拳を構える。そしてサンティーノへ殴りかかった。しかし神父は全てを回避する。逆に腹へ拳を叩き込み、顔面へ強烈な一撃を放った。
「模造品が本物に勝てるわけがありません」
そう言うと、サンティーノは制服の中から何かを取り出した。細長い一本の刃。短い柄のついた細剣だった。あんな物をどこに隠していたの?
神父はそれを投げる。
次の瞬間――激痛。
「っ!!」
刃が私の左腕を貫いていた。
私は自分の愚かさを理解する。二人の間に立っていたのだ。流れ弾ならぬ流れ刃を受けても不思議ではない。
私の左腕から、刀身が突き出ていた。
「もう十分だ」
澄んだ声が響く。
その瞬間、二人のミュトスの戦いが止まった。
「くそっ……!」
神父が悪態をつく。
いつの間にか、彼は三人の人物に囲まれていた。
「サンティーノ・フェーボ。ここは退くことを勧める」
ピーター・クラウチの声だった。
いつの間に?どうやって?
「異端者の言葉などで退くつもりはありません」
神父は即座に答える。
「我々は魔術師狩りを止めるつもりはない」
ならどうして助けに来たの?私たちは政府所属の魔術師じゃなかったの?
サンティーノは続ける。
「三勢力が締結した条約があります。我々は他勢力の活動に干渉できない。私はただ魔術師狩りという職務を遂行しているだけです」
「その通りだ」
ピーターは頷く。
「だがルールもある。ゲーム・オブ・ウォーにおいて被害を最小限に抑えることだ」
彼の声は冷静だった。
「すでに十分な被害が出ている。これ以上の大規模衝突は認められない。だから今日は退け」
瞼が重い。視界が霞む。
血を流し過ぎたのかもしれない。
世界が揺れる。そして私は――そのまま意識を失った。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




