オファーを受け入れる
私の物語では、登場人物たちが必ず物語を継続できる選択肢を選ぶようにしています!
信じられなかった。
私は再びカフェにいた。すべてが同じだった。まるで何も起こっていないかのように。夢だったのだろうか?教会の人間と遭遇し、殺されるという一連の出来事を、私は夢に見ていただけなのだろうか。
「わたし……」
息が浅い。
全身から汗が噴き出していた。私は自分の身体を確認する。
腹部に傷はない。血も流れていない。痛みもない。
なら……あれは本当に夢だったのだろうか。
「慎重に選びなさい、小山まなか」
ピーターが言った。
同じ言葉。同じ提案。
どうしてだろう。
私はこの瞬間を、すでに経験したことがある気がする。これは――呪いの影響なのだろうか。
「小山くん、大丈夫か?」
冬夜さんの声が私を現実へ引き戻した。
「無理に決める必要はない。君の選択は尊重される」
老人も静かに言う。
あれは私の行動の結果だったのだろうか。
「わたしは……受けます」
気づけば、そう答えていた。
まるで目の前に表示された選択肢のボタンを押したような感覚だった。私の返答に、それぞれ異なる反応が返ってくる。どうやら、私が断ると思っていたらしい。
「よろしい。若き淑女よ。この剣に誓おう。私は最期の息を引き取るその時まで、あなたを守る」
老人は立ち上がった。
ピーターも頷く。その表情には、かすかな笑みが浮かんでいた。だが私は、彼の前にいると妙な居心地の悪さを感じる。
「よろしい判断だ、小山まなか。では、このミュトスがこの世界から消えてしまう前に儀式を行おう」
「儀式?」
冬夜さんが尋ねた。
「見ていれば分かる。彼と手を握りなさい」
老人が手を差し出す。私はその手を握った。……正直、少し恥ずかしい。ほとんど手を繋いでいるようなものだから。
「自分のマナコアに集中しなさい」
「マナコア?」
「そうだ」
マナコア。私は記憶を辿る。そうだ。魔術師にとっての心臓のようなもの。それがなければ魔法も、基本的なマナ操作も行えない。私の場合、マナコアは背中に存在している。人によって形成される場所は異なるらしい。
私は意識を背中へ向けた。
魔術師の身体は、普通の人間よりもずっと複雑だ。
マナコアへと繋がる神経を活性化させる。
すると体内をマナが流れ始めた。
「私の後に続いて唱えなさい」
ピーターが言う。
「我が全力をもって、汝を受け入れる」
「我が全力をもって、汝を受け入れる」
続いて老人が口を開いた。
「私は汝を新たなる契約者として受け入れる」
紫色の火花が走った。そして静かに消える。
「契約は成立した」
「え?」
これだけ?もっと複雑で大掛かりな儀式を想像していたのに。
こうして私は、このミュトスの召喚者になった。
『プレイヤー――小山真中を確認しました』
突然、声が聞こえた。
「きゃっ!」
思わず声を上げる。
目の前に画面が現れていた。
「見えているな?」
ピーターが尋ねる。
「システムだ。ミュトスを召喚した召喚者には必ず表示されるゲーム画面だ」
「ゲーム画面?」
「その説明は京太郎に任せよう」
あっさりと説明役を冬夜さんへ押し付けた。
「俺に!?」
「そうだ。私はこれで失礼する。君たちも早めにここを出ることを勧める」
そう言うと――彼の姿は消えた。
透明化したのか。それとも本当に消えたのか。私には分からない。魔術師として未熟な私には判断できなかった。店に入った時にピーターを迎えた女性店員も、いつの間にか姿を消している。
私は冬夜さんを見る。
「行こう」
私たちはカフェを後にした。
冬の冷たい空気が頬を撫でる。三鷹の夜道は静かだった。歩いているのは三人。私。冬夜さん。そして謎の老人。カフェを出てから誰一人として口を開かなかった。
「お前……なんでだよ!?」
苛立った声で沈黙を破ったのは冬夜さんだった。
「えっ!?」
「なんで引き受けたんだ!? 断るべきだっただろ!」
彼は苛立たしそうに髪をかきむしる。
「落ち着いてください、冬夜さん」
「落ち着けるかよ! このゲームも、この契約も、この超常の世界も、お前には関係なかったんだぞ!」
怒鳴る。
「お前は俺みたいな名門の魔術師の家系でもないのに! なんでだ!」
まさかこんな反応をされるとは思わなかった。
「受けなかったら……私は死んでいたから」
「は?」
冬夜さんは呆れた顔をした。
「何言ってるんだ。お前はただの女子高生だぞ。魔術の訓練も受けてない。政府の人間に殺される理由なんかあるわけないだろ」
「説明するのは難しいんです……」
あの光景をどう説明すればいいのか分からない。
「全部台無しだ。今のお前は敵だぞ」
「敵? どうして? 私たち同じ政府側じゃないんですか?」
彼は首を振った。
「確かに所属は同じだ。だけど今はライバルだ」
悔しそうに顔を歪める。
「魔術もろくに知らない未成年に年収数百万円を提示するとか、冗談だろ」
彼は叫んだ。
私の決断にかなりショックを受けているようだった。
「冬夜さん、一つ聞いてもいいですか?」
「言え。俺に不利益がない範囲なら答えてやる」
「あなたの……ミュトスはどこにいるんですか?」
恐る恐る尋ねる。
彼は信じられないものを見るような顔をした。
「そんなことどうでもいい! 金の亡者め!」
……呪いなのだろうか。
その時、老人が私たちの間に入った。
「若い娘に辛く当たるものではない」
穏やかな声だった。
「淑女に対して乱暴な口を利くのは美しくない。現代の若者は礼節を忘れているようだな」
冬夜さんは黙った。だが不満そうな表情は消えていない。
「大丈夫かね、お嬢さん?」
老人が私へ向き直る。
私は少し身を強張らせた。怖いわけではない。ただ、彼が持つ膨大なマナが私を緊張させるのだ。
「は、はい! 大丈夫です! 別に気にしてません! それと……まなかって呼んでください! ちゃんと名前ありますから!」
緊張のあまり変なことを言ってしまった。
老人は笑いもしなければ、呆れもしなかった。ただ静かに頷いただけだった。
……私、本当に馬鹿だ。
再び沈黙が訪れる。三人とも口を開かない。視線すら合わせない。
そして――
「っ!」
乾いた銃声が響いた。
パンッ――!
前と同じだ。本来なら私は血を流して倒れていたはずだった。だが――
「卑怯な手だな」
老人がため息をつく。
私を貫くはずだった弾丸は、彼の剣によって弾かれていた。
冬夜さんは信じられないという表情を浮かべている。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




