重大な決断
みんなの視線はまなかに注がれている?! 彼女はどんな決断を下すのだろうか?! この戦争に参加するのか、それとも参加を拒否するのか?
「……は?」
それが、この話を聞いた私の率直な反応だった。
どういう意味だろう。私が、この……人とパートナーになる?
私は会話中ほとんど一言も発していなかった老人へ視線を向け、それからピーター・クラウチへと目を移した。
混乱していた。
彼が何を言っているのか理解できない。どうして私が――。
「君には荷が重い話だったかな。少し考える時間を取るといい」
彼はそう言った。
冬夜さんも驚いているようだった。
理解できない。なぜ?どうして私は超常の世界へ引きずり込まれようとしているの?
「どういう意味ですか?」
私はようやく問い返した。パートナーになるって何?それは関係のない戦争に無理やり参加させるのと同じじゃないの?こんな話を聞くのは初めてだった。私は人生で一度も魔術の世界に関わったことなんてなかった。――あの男が現れるまでは。小山弘樹。
ピーターは軽く咳払いをした。
「重大な話だ。怖いのも無理はない。だが誰かがその空席を埋めなければならない」
そう言って老人を指差す。
「君には、この英雄霊のパートナーになってもらいたい」
「でも、どうして私なんですか?」
私は問い返した。
「そうだ。なぜ彼女なんだ?」
今度は冬夜さんが口を開いた。
「彼女は見習い魔術師だ。呪文の知識なんて一つもない。できることといえば、マナで身体強化をする程度だ」
「それで?」
ピーターは平然と返した。
冬夜さんは歯を食いしばる。自分の意見を無視されたことに腹を立てているのか、それとも露骨に切り捨てられたことに怒っているのか。
「それに……彼女は子供です」
冬夜さんは続けた。
「こんな『ゲーム・オブ・ウォー』なんて秘密戦争に子供を送り込むべきじゃない。ミュトス同士の戦いがどこまで拡大するかも分からないんだ。彼女は見習い以下の魔術師なんですよ」
もっともな意見だった。
若者を殺し合いへ放り込むなんて、政府ではなくテロ組織のやることだ。
「では聞こう、冬夜京太郎」
ピーターは静かに言った。
「君の何が彼女より優れている?」
「……何?」
「一流の魔術師に育てられながら、その結果がこれだ。もし兄上が生きていたなら、自分の不注意で多くの人間を死なせた君を一族から追放していただろうな」
冬夜さんは何も言い返せなかった。
今日の惨事を突きつけられたからだ。
「発言してもよろしいでしょうか?」
その時だった。今まで沈黙を守っていた老人が初めて口を開いた。
ピーターは頷く。
「私は、このお嬢さんにあまり重荷を背負わせたくありません」
老人は穏やかに言った。
「彼女は普通の人間です。それに……マナ量も決して高くない」
そして静かに続ける。
「もし彼女が私の次の召喚者になるのなら、私は本来の力を発揮できないでしょう」
私は思わず安堵した。この人は分かってくれている。私は不適格だ。彼のような怪物に必要なのは優秀な魔術師だ。
「協会の魔術師を紹介していただけませんか?」
老人はピーターへ向き直った。
「あなたの部下でも構いません。あるいは、あなた自身でも」
ピーターは首を横に振った。
「残念だが、それは無理だ」
「なぜです?」
「私には果たすべき責任がある。部下たちも必要だ。優秀な魔術師を失う危険は冒せない」
老人は小さくため息をついた。
「あなたも召喚者だったのでしょう――十年前」
私たちは目を見開いた。
この人が?老人との契約を断ったこの男が?
ピーターは目を閉じる。
「あの頃は事情が違った」
静かな声だった。
「まだ若かったし、責任もなかった。愚かなことも数多くした」
「あなたが召喚者だったんですか?」
夜さんが尋ねる。
「そうだ」
ピーターは頷いた。
「だが当時の私は弱かった。私のミュトスは戦いの序盤で倒された」
信じ難い話だった。私ですら分かる。この人のマナは圧倒的だ。冬夜さんと私を合わせても届かない。いや、私を比較対象にすること自体が失礼なくらいだ。マナ量だけなら、この場で彼を上回るのは老人だけだった。
「今でも後悔している」
ピーターは低く呟いた。
「まさに災厄だった。日本は大きく変わった。数千人が死んだ」
その言葉を聞いた瞬間――十年前の地獄が脳裏に蘇る。悲鳴。苦痛のうめき声。焼ける肉の臭い。惨たらしく死んでいく人々。もしあの時……。もし誰かが――。
「それは戦争だったんですか?」
冬夜さんが尋ねる。
ピーターは頷いた。
「そうだ」
そして老人へ視線を向ける。
「あなたが生きていたとは驚きました」
「私もです」
老人は苦笑した。
「召喚とは、私の知るものとは少し違っていたようです」
「元の召喚者は?」
「ドラキュラと戦っている最中に死にました」
ピーターはゆっくりと私へ顔を向けた。
「小山まなか」
その声に、思わず背筋が伸びる。
「無理強いはしない」
彼は言った。
「この仕事を引き受ければ、政府は数百万の報酬を支払う。金銭面の心配は必要ない」
一拍置く。
「終身年金も、安全保障も約束しよう」
そして真っ直ぐ私を見た。
「この提案を受ける気はあるか?」
全員の視線が私へ集中する。
頭がぐちゃぐちゃだった。逃げ出したい。こんなの無理だ。でも――。
「もし私がこのゲームに参加したら……」
私は震える声で尋ねた。
「十年前みたいな災害は起きないんですか?」
もしあの時、誰かが止めてくれていたなら。私は彼と出会わなかったかもしれない。自由も人生も奪われなかったかもしれない。小山弘樹と。
「希望を与えるような嘘は言わない」
ピーターは静かに答えた。
「同じような災害が二度と起きないとは保証できない」
そして続ける。
「だが被害を最小限に抑えることはできる」
「……」
「この十年間、ゲームは続いていた。それでも今回ほどの大事件は起きていない」
私はその言葉を信じたかった。だけど、どうしても理解できない。なぜ私なの?なぜ私が戦争へ参加しなければならないの?それは私自身が決めることだ。この戦争に加わるのか。それとも普通の人生を選ぶのか。その選択は――まだ私の手の中にあった。
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