空白の日記
新たな始まり、そして全く新しい物語。この世界は魔法に満ちているのか、それとも秘密に満ちているのか?この世界では一体何が起こっているのか?
「どうやってこれを上まで運べばいいんだ……?」
俺は状況について考え続けていた。この巨大な抜け殻を上の階まで持って行く方法が、きっとどこかにあるはずだ。
「どうすればいい? わけがわからないぞ……」
棚の下に隠されていたこの秘密の部屋は、物置とはまるで違っていた。この部屋にあるのは――机と、この巨大な皮だけ。
「兄貴が手紙に描いていた絵から考えるに……これが、あいつの言っていた“アーティファクト”なんだろうな」
床は、その巨大な皮で埋め尽くされていた。
「……机?」
俺は勇気を振り絞り、机へ向かって歩き始める。
机は部屋の奥に置かれていた。そこへ辿り着くには、この皮の上を歩かなければならない。
「面倒な話だな……」
俺は机の前まで辿り着いた。
木製の机だ。
高級感はまるでない。木材もどこか安っぽく見える。その机の上には、一冊のノート……いや、日記帳のようなものが置かれていた。
「兄貴の日記か?」
俺はそれを手に取り、開く。
「なっ――!?」
思わず目を見開いた。
ページが――真っ白だった。
「時間の無駄じゃねえか……。あの兄貴が日記なんか用意しておいて、何も書いてないなんてな。やっぱり人間、大金を持つと最初に無駄な物を買うって本当なんだな」
日記帳には何も書かれていなかった。全てのページをめくってみたが、一文字すら存在しない。
「……秘密保持の術式でもかけたのか? 誰にも見られないように」
その日記帳は小さい。ポケットにも入る程度のサイズだ。だが、こんな真っ白な本に金を使うなんて、どう考えても無駄だ。
「……いや、待て。本当は何か書いてあるのか?」
俺は“秘密を暴く方法”を思い出そうとした。
そのとき――俺の視線が部屋中をさまよう。
「……は?」
違和感。この部屋、さっきより広く感じる。
いや、それより――
「階段がない……!?」
物置へ続いていたはずの階段が消えていた。状況が理解できない。何が起きている?疑問が次々と頭に浮かぶ。この世界は超常的なのか?
……たぶん、そうだ。じゃあ、それは誰にとっても当たり前のことなのか?いや、違う。この世界の“裏側”を知っているのは、ごく一部の人間だけだ。俺たちは何者なのか?簡単に言えば――魔法使いや魔術師に近い存在。遠矢家は、その隠された世界の中でも名門として知られている。
そして今――俺が、遠矢家の現当主だ。
「……この日記、ページを破ったらどうなる?」
兄が昔、秘密保持の術式について話していたことを思い出す。秘密保持術式は、他人から情報を隠すのに最適な術だ。だが、完璧なものなんて存在しない。術式にも必ず“穴”がある。
「試してみるか」
俺は最初のページを開き――勢いよく破った。だが、何も起きない。秘密も現れなかった。
「兄貴って、もっと真面目な人間だと思ってたんだけどな……。まさか、こんな悪戯っぽい趣味があるとは」
一つ目の仮説は失敗。二つ目は“水で濡らす”方法。だが、この部屋に水はないし、俺は水系の術も使えない。三つ目は――燃やす。
「火」
呪文を唱えた瞬間、手に持っていたページが炎に包まれた。紙は灰になる。
「やっちまった……」
イラつく。だから最初のページを使ったんだ。普通、最初のページから書き始める奴なんて少ない。たぶん重要な情報じゃない……はずだ。俺は日記帳を持ち上げる。
「特殊な言葉で解除されるタイプか? えっと……俺は遠矢京太郎だ」
――何も起きない。
「なんなんだよ、このクソ日記……」
そう言って、再びページを破ろうとした――その時。
「……っ!?」
日記帳に文字が浮かび上がった。成功した。
「やあ、弟よ。元気にしていることを願う。この日記は、お前に向けた俺からの最後のメッセージだ。だから、よく聞け」
俺はページをめくる。
「これからお前に伝える知識は、極めて重要だ。きっと驚くだろう。――並行世界は実在する」
……それは今更な話だ。ネットを見れば、誰だって並行世界の理論くらい知っている。私は漫画を読んだことがある。
それにしても兄貴、ページの使い方が無駄すぎる。たった数行のために、一ページ丸々使ってやがる。俺は次のページを開いた。
「そして、さらに衝撃的な事実がある。――“異世界”は存在する。剣と魔法の世界。魔剣を持つ騎士、魔術師、そして魔王。そんな御伽話のような世界が、現実に存在している。もっと重要なのは――“異世界転生”が本当だということだ」
異世界転生?あの“死んだ主人公がファンタジー世界へ送られる”っていう、あのジャンルか?
「多くの研究者は、“死後の世界”とは別世界への移動なのではないかと考えている。そして、我々の世界と繋がっている世界こそ、“異世界”だ。転生した人間は、その世界で役目を果たす。だが問題は、その後だ。もし、この世界で死んだ者が異世界へ転生するなら――異世界で死んだ者は、その後どうなる?」
俺はページをめくる。
「お前のために用意したアーティファクト。それは、ある“戦士”の遺物だ。その皮は――“異世界の戦士”の皮膚そのものだ」
――心臓が、一瞬止まった気がした。俺はゆっくりと床を見下ろす。つまり……これは。異世界の戦士の“皮”だというのか?
俺は息を呑みながら続きを読む。
「よく聞け、弟よ。あの戦士たちは危険だ。もはや、元いた世界の人間ではない。もし、お前が――」
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