三つ巴の戦い(5)
三つ巴の戦いが繰り広げられている!ドラキュラは倒れた!!老人とラインハルト、勝つのは誰だ?!
戦いは、ついに最高潮へと達していた。異世界から現れた三体の怪物による戦い。その中で最初に崩れ落ちたのは――ドラキュラだった。老人の聖剣によって斬り落とされた腕は、灰となって燃え尽きていく。あまりにも濃密な神聖力。あまりにも純粋な聖性。それは、彼が生涯で一度も味わったことのない激痛を与えていた。血液すら蒸発していく。
「貴様ァ……!!」
痛みで吐き気すら覚える。その声には、憎悪と怒りがはっきりと滲んでいた。三人の戦士による激突が極限へ達した瞬間、最も致命的な傷を受けたのは彼だった。
「失せろ」
冷たい声が響く。
毒のような冷徹さを含んだ声。――もうお前は必要ない。
そう言っているようだった。金色の王がドラキュラを殴り飛ばす。その衝撃は、弱った吸血鬼にはあまりにも重すぎた。ドラキュラの身体は戦場の外へ吹き飛ばされる。
ラインハルトの視線が、老人へ向けられた。
金色の戦士の顔には笑みが浮かんでいる。
「残ったのが俺たち二人だけとは、少々残念だな。楽しかったが……どうやら、そろそろ決着の時らしい」
彼は老人を指差す。
「一人は脱落した。次は――お前だ」
その黄金の瞳には、興奮が宿っていた。
目の前にいる強敵。こいつは何者なのか。どんな歴史的人物なのか。どうして、この老人はラインハルトの名を知らないのか。もしかすると、別の国の異世界英雄なのかもしれない。だからこそ、この傲慢で厄介な男の存在を知らなかった。
「もう一度、やろうじゃないか」
ラインハルトの手に、長柄の黒翡翠色の戦斧が具現化する。その柄は異様なほど滑らかで、しなるような柔軟性を持っていた。本来なら有り得ない構造だ。
彼は全力で戦斧を振り下ろす。対する老人もまた、全力で聖剣を振るった。
驚くべきことだった。本来、老人とは脆く、時間に弱い存在であるはず。だというのに、この老戦士はラインハルトの力に真っ向から渡り合っている。柄を握るその手には、一切の迷いがない。なぜ彼が“老いた姿”こそ最盛期として召喚されたのか――その理由がよく分かる。この肉体は完成されている。知恵と力、その両方を兼ね備えた姿。戦闘経験において、この老人はラインハルトを遥かに上回っていた。もしラインハルトの戦闘力が五十なら、老人は百。それほど大きな差がある。老人は、ただ一つ。ラインハルトの隙を見つければいい。その瞬間、首は胴体から飛ぶ。この戦いを決めるのは、たった一つの綻びだった。
「限界が近い……」
老人は小さく呟く。
この肉体にも限界がある。彼は老人だ。たとえこれが全盛期の肉体であろうと――いずれ限界は来る。肉体は、時間という存在には逆らえない。
「これをどう避けるか見せてもらおう!」
今度は短剣が彼の手に現れる。ラインハルトは構えた。この短剣が頭部を貫けば致命傷。皮膚を裂くだけでも勝負は決まる。
「勝つのは――俺だ」
ラインハルトは宣言した。王は叫ばない。怒鳴らない。常に冷静に、全てを受け止める。彼はこれまであらゆる障害を乗り越えてきた。そして今、この老人もまた障害の一つ。
だが――決着はつかない。完全な膠着状態。短剣は聖剣に弾かれ、粉々に砕け散った。
終わりの見えない決闘。互いが互いを完璧に打ち消している。ラインハルトは膨大な武器庫を持つがゆえに予測不能。それが彼を恐るべき存在にしている。対する老人は、戦争の知識と経験において遥かに上。だからこそ、ラインハルトの攻撃は全て見切られる。均衡。終わりなき決闘。
「悪くない」
ラインハルトは心底嬉しそうだった。長い年月を経て、ようやく価値ある敵と戦えている。
しかし、老人の感情は違う。彼は既に限界を迎えていた。もう、この男を止められない。彼は最初から、ほとんど魔力のない状態で戦っている。本来の力など使えない。切り札である異世界の遺産を発動するための魔力すら足りない。
二人の呼吸は荒く、浅い。受けた傷は、常人なら比較にもならないほど深刻だった。
老人は残された全ての力で再び剣を持ち上げる。これが最後。身体強化ではなく、残る全魔力を一撃に注ぎ込む。死を受け入れた一撃。
「なんとも、皮肉なものだ」
老人はため息を漏らし、最後の斬撃を放とうとした。
その時――
「待て、時空を越えし戦士たちよ!! どうか話を聞いてくれ!!」
二人の動きが止まる。
同時に、その声の主へ視線を向けた。そこにいたのは、間違いなく彼らと同じ異世界の戦士。まさか、この戦場に割って入るつもりなのか。
ラインハルトの表情が変わる。この乱入者は、戦いの空気を壊した。黄金の瞳には、冷酷さと殺意が宿っていた。
老人はまず目を擦った。長時間、剣を構え続けていたせいで腕が悲鳴を上げている。彼は疲弊しきっていた。この乱入者は、ある意味では救いだった。だが同時に――最後の一撃を邪魔した存在でもある。もし割り込まれていなければ、あの一太刀で相手を殺せていた。その男は――馬に乗っていた。まさかの展開だった。
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