三つ巴の戦い(1)
戦闘が始まった?!ラインハルトはどこだ?何が起こった?一体何が起こっているんだ?!この世界は狂っている!!
完全な静寂だった。音ひとつ聞こえない。正体不明の方法によって引き起こされた壊滅的な破壊。それによって、多くの警察官と人々が命を落とした。あの虐殺から生き残ったのは、たった二人。小山まなかと、東谷恭太郎とうや。だが、その二人ですら、自分たちが会話していた最中に、どうやってあれほど巨大な惨劇が起きたのか理解できていなかった。
「ここに、面白いものの気配を感じるな」
凍りつくような声が、半壊した校舎の中から響いた。一人の男が、建物の中から姿を現す。周囲には砂塵が舞っていた。何が起きているのか、誰にも理解できない。だが、その場には二人の男が立っていた。
校舎から現れた男は、人間の頭を片手に持っていた。それは学生の首だった。男はその首をワイングラスのように使い、切断された首筋から流れる血を飲んでいる。
その邪悪な男の髪は絹のように白く、赤い瞳は、赤月の夜のように妖しく輝いていた。その目は、彼が飲んでいる血と同じ色だった。彼が身に纏っているのは、ヴィクトリア朝の貴族を思わせる、黒く洗練された衣装。
その怪物は、優雅さと王者の風格に満ちていた。
そして、もう一人。そこには、非常に年老いた男が立っていた。かつての威厳に満ちたラインハルトの姿は、この戦場と化した地には微塵も残っていない。怪物と対峙するその男は、青白い顔、白髪、白い髭のせいで老人に見える。だが、その顔には皺ひとつ存在していなかった。彼は黒い毛皮のような外套を羽織り、その下には紫色のローブを着ている。
二人の戦士は、どちらも鎧を着ていない。武器すら持っていなかった。しかし、その姿だけで、人間ではないことは明白だった。特に、彼らの前に立つ怪物は。
「今夜は実に美しい夜だ。まさか客人に夕食を邪魔されるとは思わなかった」
怪物の言葉に、老人は冷たく鋭い声で返した。
「貴様のような怪物に、そもそも食事をする資格などない。――来い」
その声には、目の前の敵に対する冷酷な憎悪が込められていた。
「時は満ちた。さあ、血の宴を始めようじゃないか」
その声音は、聞く者の背筋を凍らせるほど冷たい。
だが、対峙する老人には通じなかった。
「くっ――!!」
男の目が見開かれる。目の前にいたはずの怪物が、一瞬で視界から消えたのだ。
「後ろだ」
声が背後から響く。
反応する間もなく、血を愛する怪物の拳が炸裂した。凄まじい衝撃。老人の身体は吹き飛び、校舎を突き破って外へ叩き出される。
「貴様など、私にとっては餌に過ぎん。私はドラキュラだ。貴様ごときが、私に敵うと思うか?」
信じられないほどの速度。ドラキュラは、吹き飛ばした男の目の前に、既に立っていた。
老人はゆっくりと立ち上がる。目の前の敵は、あまりにも強い。
「その名には聞き覚えがない。つまり、お前は未来の戦士か。少なくとも、私の時代にお前のような存在はなかった」
老人は警戒しながら答えた。
その言葉から、この老人もまた異世界の戦士であることが明らかになる。だが、その身体は普通ではない。それがドラキュラを困惑させていた。
「何を言っているのですかな、ご老体。貴方が人間でないことは明白だ。だが、その血の匂いは、我々のものではない」
男は無表情のままドラキュラを見つめる。感情がまったく読めない顔だった。
「できることなら、私もお前たちの同類ではないと願いたいものだ」
激突が始まろうとしていた。異なる時代の二人の戦士。異世界から来た者同士の戦い。
その瞬間――巨大なハンマーが、雷鳴のような轟音を立てながら、凄まじい速度で二人に向かって飛んできた。両者は瞬時にそれを回避する。老人にとっては紙一重だった。二人の視線が、持ち主の元へ戻っていくハンマーへ向けられる。それを投げたのは――ラインハルトだった。彼はハンマーを受け止めると、それは手の中で光となって消えた。
黄金の王の顔には、傲慢な笑みが浮かんでいる。
「私抜きで楽しむとは、死に値する罪だぞ。荒れ狂った獣が一匹だけかと思っていたが、まさかこの街に二匹もいるとはな。せいぜい、私を退屈させるなよ?」
外部からの乱入。これはもはや、二人の戦士の決闘ではない。英雄と怪物の戦いでもない。――三人の異世界の戦士による、殺し合い。
三者の中で誰が弱いのかを見極めるには、マナを感知するのが最善だ。老人はそう判断した。だが、希望はなかった。二人とも、ほぼ同等のマナ量を持っていたからだ。だからこそ、老人は一つの結論に至る。
「遠距離攻撃と武器を使うということは……近接戦闘は弱い」
そう判断した老人は、数多くの人間を虐殺し、喰らった怪物ドラキュラを無視し、ラインハルトへ向かって駆け出した。
「ほう、私を楽しませる気になったか!実に素晴らしい判断だ、愚かな老人よ!!」
ラインハルトは高笑いを上げる。次の瞬間、傲慢な戦士の手には、中国武器である戟――『方天画戟』が現れていた。
民家の屋根に立っていたラインハルトは、一気に跳躍し、距離を詰めてくる老人へ向かって飛び込む。その展開に、老人はわずかに驚いた。もしかすると、自分は相手を見誤っていたのかもしれない。
二人は猛烈な速度で距離を詰めていく。
果たして、その結末は――。そして、この老人の正体とは――。
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