表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記録されない落下者 ~世界の外側から来た存在~  作者: 黒谷レイ
次の一歩

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/49

第四十三話 モルディア旧坑

ダンジョンの入口の前には、すでに数人の冒険者の姿があった。装備を整える者、地図を確認している者、仲間と短く言葉を交わしている者。それぞれが準備を終え、順番に坑道の中へ入っていく。


 カナトは入口から少し離れた場所で立ち止まり、坑道の暗がりを見ていた。


 やがて背後から足音が近づく。


 振り向くと、グランだった。


 肩に斧を担いだまま、こちらへ歩いてくる。


「待たせたか」


「いえ」


 カナトは首を振る。


 グランはそのまま斧を軽く握り直した。


「今日は深くは行かねぇ。中層まで様子を見る」


「分かりました」


 カナトは頷く。


 この坑道には、すでに何度か潜っている。それでも、奥まではまだ行っていない。


「この坑道、何度も入ってるんですよね」


「ああ」


 グランは短く答える。


「だが奥までは行ってねぇ。蜘蛛の巣が増えるあたりから、面倒だって話をよく聞く」


 入口の奥に広がる暗い坑道を見ながら、カナトは小さく息を吐いた。


「前も潜ったときに思いましたけど、通路が多いですね。分岐も多い」


 グランはその言葉に頷く。


「採石場跡だからな。掘り方がバラバラだ。掘り進めた跡がそのまま残ってる」


 二人はそのまま入口をくぐり、坑道の中へ入った。


 内部は完全な闇ではなかった。壁や天井のあちこちに、小さな光が埋まっている。ぼんやりとした淡い光が、坑道の輪郭を浮かび上がらせていた。


 カナトは歩きながら、その光を見上げる。


「……やっぱりこの石ですね」


 手の届く高さにある石を見ながら言う。


「蛍晶石、でしたよね」


 グランも壁を見る。


「名前は聞いたことがある」


「リシアから聞きました」


 カナトは歩きながら説明する。


「この石、ほんの少しだけ周囲の魔力を吸うらしいです。その魔力が弱く光るから、こうして明るくなるって」


 坑道の奥まで、点々と光が続いている。


「完全な光源ってほどじゃないですけど、松明なしでも歩ける程度には明るいらしいです」


 グランは軽く頷いた。


「それは便利だな」


「ええ。坑道系のダンジョンではよくあるらしいです。逆に、この石がある場所は魔物も住みつきやすいって」


 説明を思い出しながら言う。


「光があると、動きやすいみたいで」


「なるほどな」


 グランは短く答え、前を見たまま歩く。


 通路を進んでいくと、ほどなくして洞窟ラットの群れが現れた。


 三体。


 グランが一歩前に出る。


「右のやつ、抜ける」


「足を崩します」


 カナトは短く言う。


 足元の土がわずかに沈む。


 ラットの体勢が崩れる。


 その瞬間、グランの斧が振り下ろされた。


 一撃。


 骨の砕ける音。


 残りのラットも短い時間で片付いた。


 グランは斧を肩に戻す。


「今のいいな」


 通路の奥を見たまま言う。


「足を崩してくれると、そのまま一撃入れられる。無理に振り直さなくて済む」


 カナトは少しだけ視線を逸らす。


「たまたまです。足場が崩せそうだっただけで」


「いや」


 グランは首を振った。


「戦いやすい」


 短い言葉だったが、評価ははっきりしていた。


 カナトは小さく息を吐く。


「そう言ってもらえるなら、続けます」


 二人はそのまま通路を進む。


 やがて視界が開け、広い空洞に出た。


 中央空洞。


 ここから複数の通路が枝のように伸びている。


 グランが周囲を見回す。


「ここは中心だ」


「前も見ました」


 カナトは頷く。


「だいたいここを通りますよね」


「ああ」


 短く答え、奥の通路へ足を向ける。


 採掘跡の通路は狭かった。洞窟ムカデが壁を這っている。


 グランが斧を振る。


 刃が天井をかすめる。


「狭いな」


「少し引きます」


 カナトが位置を調整する。


 ムカデが通路へ出る。


 斧が落ちる。


 静かに動きが止まった。


 さらに進む。


 小さな空洞に出ると、岩トカゲが二体、壁際に張り付いていた。


 グランが踏み込む。


 斧を横に振る。


 刃がトカゲの体を捉え、そのまま壁へ叩きつけた。


 鈍い衝撃が通路に響く。


 その直後、斧の刃が岩壁に強く当たった。


 硬い音が坑道に響く。


 グランの眉がわずかに寄る。


 斧を引き戻し、手の中で握り直す。


「……しまった」


 小さく呟く。


 ほんの一瞬、動きが噛み合わなかったようだった。


 少し遅れて、天井から細かい砂が落ちた。


 カナトが顔を上げる。


「……上」


 グランも視線を向ける。


 天井の岩が、わずかにずれていた。


 次の瞬間。


 重い音とともに岩が崩れ落ちる。


 通路が揺れた。


 土煙が広がる。


 二人は反射的に距離を取る。


 しばらくして、音が止まった。


 カナトが前を見る。


 さっき通ってきた通路は、岩でほとんど埋まっていた。完全ではないが、通るにはかなり崩さなければならない。


 グランが崩れた通路を見上げる。


 斧の柄で岩を軽く叩く。


 鈍い音が返る。


「崩せなくはないが……時間はかかるな」


 少し周囲を見渡し、別の通路へ視線を向ける。


「違う道を通れば戻ることもできる」


 そう言ってから、カナトを見る。


「どうする」


 カナトはポーチを軽く叩く。


 中にはさっきの魔石がいくつか入っているだけだった。


「……まだ少ないです」


 少し間を置いて言う。


「魔石もそんなに取れてないですし、もう少し進んでみたいです」


 グランはその言葉を聞いて、小さく頷いた。


「分かった」


 斧を肩に戻す。


「様子見だ。無理はしねぇ」


「はい」


 二人は崩落した通路から視線を外し、奥へ続く通路へ向き直る。


 少し進むと、通路はゆるく曲がり、その先に新しい空洞の気配が見えた。


 蛍晶石の光が、淡く広がっている。


 二人は言葉を交わすこともなく、その空洞へ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ