表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記録されない落下者 ~世界の外側から来た存在~  作者: 黒谷レイ
異変

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

第三十二話 寸前

ゴブリンの群れへ踏み込んだ瞬間、視界のほとんどが緑色で埋まった。


通路から押し出されるように流れ込んでくる個体が、広間の中でぶつかり合い、互いを押しながら前へ前へと進んでくる。倒してもすぐ次が現れる。刃を引き抜く暇もなく、次の腕が伸びてくる。


止まれば、飲まれる。


カナトは短剣を握り直し、目の前の腕を弾いた。体勢を崩した個体の肩口へ刃を差し込み、押し倒す。そのまま体を滑らせて横を抜ける。血の匂いが強く、足元が滑る。だが足を止める余裕はない。


その奥に、セラが見えた。


杖を握り、必死に後退している。だが背後はもう空いていない。通路から押し出されてきたゴブリンが退路を塞ぎ、完全に囲まれかけていた。


距離は遠くない。


あと数体。


カナトはさらに踏み込む。


腕を振り下ろしてきたゴブリンの手首を弾き、そのまま懐へ潜り込む。刃を喉元へ押し込み、引き抜きながら横へ体を滑らせる。倒れた体を踏み越え、さらに前へ。


そのとき、セラと目が合った。


恐怖が浮かんでいる。


声は出ていない。


だが、その目だけで十分だった。


助けを求めている。


カナトはさらに前へ出る。


短剣で足元を払う。転んだ個体の背中を踏み越え、もう一体の首元へ刃を差し込む。血が噴き出し、視界の端が赤く染まる。その向こうに、セラがいる。


あと一歩。


その瞬間、ふと記憶がよぎった。


灰狼団と一緒に潜った日の戦闘だった。


ダインが前で盾を構え、クレスが横から斬り込み、リアナの矢が奥へ通る。その隙間を埋めるようにカナトが短剣を入れる。


その横で、セラが小さく息を吐いた。


「助かった」


回復の光を抑えながら、そう言っていた顔。


あのとき、確かに間に合っていた。


もう一度、短剣を振る。


目の前のゴブリンの肩口へ刃を差し込み、そのまま押し倒す。


距離は、あと一体。


届く。


その瞬間だった。


通路の奥から、さらにゴブリンが押し出されてきた。


新しい個体が一気に間へ割り込む。二体、三体、四体。まるで流れ込む水のように押し寄せ、カナトとセラの間へ壁のように立ち塞がる。


カナトは反射的に一体の腕を弾く。もう一体へ短剣を突き込む。だが横から別の個体が飛び込み、肩を押される。足が半歩下がる。


距離がまた開く。


セラの姿が、ゴブリンの向こうへ隠れた。


――届かない。


その背後で、グランは歯を食いしばっていた。


カナトが群れの中へ突っ込んだ瞬間から、斧を振り続けている。目の前の個体を叩き潰し、横へ弾き飛ばし、無理やり道を作る。


完全に突破するのは無理だと分かっている。


それでも、カナトの背中までは届かせる。


重い斧が振り下ろされ、ゴブリンの体が横へ吹き飛ぶ。


その一撃で、カナトの背後の空間が一瞬だけ開く。


だが、セラまでの道はまだ遠い。


さらにゴブリンが流れ込んでくる。


止まらない。


その少し後ろで、リシアも異変に気づいていた。


ゴブリンの流れだけではない。


空気が、わずかに震えている。


耳の奥で低い音が鳴る。


遠く、広間の奥の暗闇の向こうで、光が一瞬だけ走った。


リシアの背筋が凍る。


それが何か、理解してしまった。


「――伏せてください!」


叫ぶ。


その声が広間に響いた瞬間、カナトは何かが変わったことを感じた。


光が、視界の端で弾ける。


次の瞬間、背中に衝撃が落ちた。


そのまま地面へ押し倒される。


石の床が目の前に迫る。


何かが、強く光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ