第三十一話 交錯
広間の戦闘は、止まらなかった。
通路から押し寄せるゴブリンの群れは減るどころか、むしろ増えているように見える。倒しても、次の個体がすぐに飛び込んでくる。通路の奥から押し出されるように、次々と広間へ流れ込んできていた。
足元で血が滑る。
剣がぶつかり、斧が振り抜かれ、矢が壁に突き刺さる。怒声と金属音が重なり合い、広間の中はすでにまともに声を通せる状態ではなかった。
カナトは短剣を握り直す。
頭の奥には、まだ鈍い痛みが残っている。さっきの魔法の連続使用が原因だと分かっていた。
魔法は使わない。
短剣だけで処理する。
踏み込んできたゴブリンの腕を弾き、首へ刃を差し込む。すぐ横ではグランが斧を振り下ろしていた。重い一撃がゴブリンの体を叩き潰し、そのまま押し返す。
だが押し返した先から、また別の個体が飛び込んでくる。
前にいた冒険者が後ろへ下がる。
その隙間へ、ゴブリンが入り込む。
広間の中で、人の位置が少しずつ変わっていく。
誰かが横へ押し出され、別のパーティが壁際へ寄る。最初に固まっていた冒険者たちの位置は、もうばらばらになっていた。
灰狼団も、その流れの中にいた。
ダインが盾で押し返していた場所から、いつの間にか距離が開いている。クレスの姿も、リアナの弓も、別の位置に見えた。
戦いながら、少しずつ離れていく。
ゴブリンが間へ割り込み、人の流れを押し広げていく。
そのとき、カナトの視界の端で誰かがよろめいた。
セラだった。
カナトから、一番近い位置にいる。
杖を握ったまま後ろへ下がろうとしているが、周囲はすでにゴブリンで埋まりかけていた。回復の光を使う余裕もなく、後退する場所もない。
セラが振り向く。
一瞬、カナトと目が合った。
その表情が変わる。
恐怖だった。
言葉は出ていない。
だが、目だけで分かった。
助けを求めている。
セラとカナトの距離は、それほど離れていない。だがその間にはすでに何体ものゴブリンが入り込んでいた。カナトのすぐ後ろにはグランがいる。さらに少し離れた場所で、リシアが戦線を押し返していた。
考えるより先に、体が動いていた。
カナトは短剣を握り直す。
足元を蹴り、ゴブリンの群れへ踏み込む。
正面の個体の腕を弾き、そのまま肩口へ刃を突き立てる。体を引き抜きながら横へ滑り、次の個体の足元へ刃を入れる。
崩れる。
その隙間を抜ける。
ゴブリンの群れの中へ、さらに踏み込む。
「おい!」
後ろでグランの声が上がる。
カナトがゴブリンの群れへ突っ込んだことに、そこで気づいたらしい。
「何して――」
言葉の途中で、ゴブリンが間へ割り込んだ。
振り下ろされた斧が一体を叩き潰す。
だがその先で、すでにカナトの姿は群れの奥へ入り込んでいた。
グランが舌打ちする。
「……くそ」
もう一体を斧で叩き飛ばし、前へ踏み出す。
カナトを追う。
その少し後ろで、リシアも状況に気づいた。カナトが咄嗟に動いたことを見て、剣を構え直しながら同じ方向へ踏み出す。
だがその瞬間、さらにゴブリンが通路から流れ込んできた。
群れが三人の間へ割り込む。
壁のように立ち塞がる。
カナトの背中が、ゴブリンの群れの向こうへ消えていった。




