第二十七話 異変
一週間後。
ギルドの混雑は、前よりもさらに濃くなっていた。掲示板の前には常に人が張り付き、依頼は貼られてから数秒で剥がれる。第一層だけではない。第二層の依頼も、以前より明らかに減りが早い。
受付に立つと、リシアが顔を上げた。
「本日は特に人が多いです」
事実だけを告げる声。
「第三層付近まで流れているという報告があります。通路の混雑に注意してください」
「第三層まで……」
「ええ。無理はなさらないように」
それ以上は言わない。
単独でダンジョンに入る。
第一層は、もはや常に誰かが戦っている状態だった。通路の先でも横道でも金属音が鳴り、ゴブリンの鳴き声が重なっている。湧き間隔も短い。処理しても、すぐ次が出る。
第二層に入っても密度は落ちない。むしろ増えている。待機している冒険者の姿があり、先行パーティの戦闘が終わるのを待っている。
通路の先で、斧の軌道が見えた。
グランだ。
こちらに気づき、軽く顎を上げる。
「今日は多いな」
「ええ。第三層まで人が流れているみたいです」
「一人で動くより、動きやすいだろ。下に行くか」
短い提案。
頷く。
二人で第三層へ向かった。
階段を降りると、空気が重い。ここまで来ても、人がいる。壁際で息を整えるパーティ、交戦中の二人組、通路の奥から聞こえる戦闘音。
「ここまで来るか」
グランが小さく呟く。
ゴブリンが湧く。
数が多い。倒しても、間隔が短い。切れ目がない。
戦いながら進むと、見覚えのある盾が視界に入った。
灰狼団。
ダインが盾で前を押さえ、クレスが横から斬り込む。セラが少し後ろで詠唱を続け、リアナが通路の奥を射抜いている。
交戦が一段落したところで、ダインがこちらに気づいた。
「お、来てたのか」
「今日は下も多いですね」
俺が言うと、ダインは苦笑した。
「第一層が詰まってるからな。流れてくる」
セラが静かに続ける。
「湧くまでの間隔、短くなってます。いつもより」
リアナが奥を見たまま言う。
「……数も多いですね」
クレスは小さく頷くだけだった。
さらに奥で、蒼閃の姿も見える。余裕のある動きでゴブリンを処理している。笑い声が一瞬響いたが、距離がある。
再び戦闘に戻る。
ゴブリンは途切れない。前から、横から、奥から。押し返す。崩す。斬る。
その最中。
足元に、違和感が走った。
小さな揺れ。
誰かが強く踏み込んだ程度の震動。
だが、止まらない。
もう一度。
さらにもう一度。
断続的に、地面が揺れる。
セラが顔を上げた。
「……地面、揺れてませんか」
ダインが足を止める。
ゴブリンの鳴き声が、下層側から重なって聞こえる。
一つではない。
いくつも。
重なっている。
揺れが、強くなる。
通路の奥から、土埃が舞い上がるのが見えた。
視界の先が、わずかに暗く動く。
一つじゃない。
ゴブリンロードの時とは違う。
塊。
圧。
さらに強い振動。
はっきりと、地面が揺れる。
誰かが叫んだ。
「なんだ、これ……!」
鳴き声が増える。
近づいてくる。
押し上げられている。
上へ。
第三層へ。
通路の奥が、黒くうねった。
空気が変わる。
何かが、来ている。




