第二十六話 過密
一週間が過ぎていた。
ギルドの扉を押し開けた瞬間、以前よりも明らかに人の密度が増していることに気づく。掲示板の前には常に数人が張り付き、依頼書が貼られるそばから剥がされていく。見慣れない顔も多い。装備の新しい冒険者、まだ緊張の抜けない仮登録者らしき姿も混ざっていた。
受付に向かうと、リシアが顔を上げる。
「おはようございます」
「おはようございます」
事務的な挨拶のあと、彼女は淡々と続けた。
「最近、ダンジョン内の人口が増えています。第一層だけでなく、第二層以降も滞留が発生しています」
視線は書類のまま。
「通路での接触や、不意の横入りに注意してください」
「……増えてるんですね」
「ええ。依頼の消化速度も上がっています」
それ以上は言わない。警告はそれだけだった。
依頼を受け、ダンジョンへ向かう。
第一層に足を踏み入れた瞬間、空気が違うと分かった。前後に常に誰かの気配がある。少し進めば戦闘音が響き、止まることがない。ゴブリンが湧くたびに、どこかで金属音が鳴る。
三体を処理して息を整えようとしたところで、さらに二体が現れる。間隔が短い。倒しても、すぐ次が来る。
人が多いから回転が早い。そう考えれば説明はつく。
だが、戦闘の切れ目がない。
第二層へ向かう通路でも状況は似ていた。先行パーティが戦闘中で、少し距離を取って待つ。横道からも戦闘音が重なる。ゴブリンの数も、体感で以前より多い。
五体を処理し、壁際で短く呼吸を整える。だが落ち着く前に、また足音がする。
魔力の消費が、いつもより早い。
――押し出されているだけだ。
人が増えれば、湧きの偏りも起きる。そう自分に言い聞かせる。
通路の先で、見覚えのある装備が視界に入った。
蒼閃だ。
ライアスがこちらをちらりと見て、口元を歪める。カルネがわざとらしく声を落とす。
「また一人で潜ってるよ、あいつ」
ネルが肩をすくめる。
「相手にしてもらえないんだろ」
小さな笑いが重なる。
「そういうやつが調子乗って勝手に死ぬんだよな」
はっきり聞こえる距離だった。
三人はそのまま通り過ぎる。直接絡みはしない。ただ、背後に残るのは、軽い嘲りと笑い声。
胸の奥が、わずかに冷える。
足を止める気にはならなかった。言い返す理由もない。ただ、この場から早く離れたいという感覚だけが強くなり、自然と歩幅が広がる。
さらに奥へ進むと、同じ通路で何度もゴブリンと遭遇する。湧き位置が偏っているようにも感じる。戦闘が切れない。短時間での交戦回数が、確実に増えている。
処理はできる。
だが、休憩が取りづらい。
ポーチの中で魔石がある程度重くなっているのを確認し、今日はここまでにすることにした。これ以上粘っても、効率は落ちるだけだ。
地上へ戻ると、ギルド前も騒がしかった。精算待ちの列ができている。耳に入るのは、どこか浮ついた声。
「第一層混みすぎだろ」
「人が少ない層探して潜るらしいぞ」
「第二層も埋まり始めてるって」
「下の方が空いてるなら、そっち行ったほうが効率いいんじゃね?」
人を避けて、深く潜る。
そんな動きが出始めているらしい。
列に並びながら、ポーチの重みを確かめる。
人は増えている。
ゴブリンも増えている。
だが、その増え方がどこか落ち着かない。戦闘が途切れない感覚が、胸の奥にわずかな不安として残っている。
ただ――戦闘の間隔が、確実に短くなっている。




