第二十五話 同行③
数日後。
ギルド前に出た瞬間、いつもより人の気配が濃いと感じた。
掲示板の前は埋まり、依頼書を手に取る手が重なっている。見慣れない顔も多い。装備の新しい若い冒険者や、仮登録の札を下げた者の姿が目立つ。
ゴブリン討伐の依頼が、目につきやすい位置にいくつも貼られていた。
その横を抜け、ダンジョンへ向かおうとしたところで声がかかる。
「カナトさん」
振り向くと、セラが立っていた。水色の髪が朝の光を受けてやわらかく揺れている。その後ろにダインたちの姿もあった。
「今から潜りますか?」
「はい」
セラは小さく頷く。
「よければ、今日もご一緒しませんか」
断る理由はなかった。
「お願いします」
ダインがこちらを見て言う。
「今日は中も混んでそうだ。安定して動ける方がいい」
軽い調子だが、周囲の様子を見ての判断だと分かる。
そのまま一緒にダンジョンへ向かった。
入口前にも人が多い。順番待ちのように立つパーティまでいる。
第一層に入った瞬間、違和感があった。
多い。
湧くまでの間隔が短い。
「正面見るぞ。左右、流れたら言え」
ダインがいつもの声で言う。熱のある口調だが、動きは安定している。
「……入る」
クレスが短く応じる。
ゴブリン四体。処理が終わる前に、さらに奥から現れる。
「よし、そのまま!」
ダインが前に出る。盾を合わせ、押し返し、隙を作る。踏み込みも戻りも迷いがない。
剣が通り、矢が抜く。
横から抜けかけた個体に踏み込み、体勢を崩して止める。刃を通す。
間がない。
三戦目、四戦目。
数は明らかに多い。
戦闘が一区切りついたところで、セラが静かに言った。
「……前より、安定していますね」
柔らかい声だった。
「交戦は多いのに、ダインの疲労が普段とあまり変わらないです」
俺は盾の方を見るが、特別な変化は分からない。ただ、戦いは続いている。
さらに数戦。
やはり間隔が短い。完全に途切れる時間が少ない。
通路の奥にも他の冒険者の姿が見える。前も後ろも人がいる。
ゴブリンも多いが、人も多い。
この密度は第一層にしては異様だった。
「今日は引くぞ」
ダインが言う。
「人も多いし、湧きも詰まってる。深追いする理由はねぇ」
誰も異論を挟まない。
帰路でも、何度も他パーティとすれ違う。
地上へ出ると、入口前の人数はさらに増えていた。
ギルドに戻る。
受付前には列ができている。
しばらく待つことになる。
列の前方で、若い冒険者たちが話しているのが聞こえた。
「第一層なら安定して稼げるってよ」
「ゴブリンだけだしな、危なくねぇ」
別のパーティも笑いながら言う。
「今は安全だって話だろ。初心者でも回せる」
その言葉が、周囲に自然と広がっている。
ダインが肩を回しながら言った。
「今日は妙に楽だったな」
いつもの調子だ。
「数は多かったが、踏ん張りどころが少なかった。受けに集中できたのはでかい」
セラが続ける。
「回復もほとんど使っていません。怪我が浅いですし、消耗も抑えられています」
リアナが淡々と補足する。
「前線の安定が影響しています」
クレスも短く言う。
「……やりやすい」
ダインがこちらを見る。
「今後も頼む。こういう日は特にな」
軽い口調だが、言葉は真っ直ぐだった。
受付の奥では、まだ新人らしき冒険者が精算を受けている。
人は増えている。
第一層は、以前よりも明らかに混んでいる。
どこからか聞こえる「安全」という言葉が、少しだけ薄く聞こえた。




