表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記録されない落下者 ~世界の外側から来た存在~  作者: 黒谷レイ
異変

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/34

第二十四話 同行②

 蒼閃と潜った日から、数日が過ぎた。


 あの日のやり取りは、胸の奥に薄く残っている。だが、潜ること自体は変わらない。基準を守り、三割を残して引く。それだけを繰り返す。


 その日も第二層へ向かっていた。


 曲がり角の先から、乾いた金属音が響く。


「正面、固定。右一体、流れる」

「……入る」


 短く、無駄のない指示だった。


 視界に入ったのは四人組。大盾を構えた男が正面を完全に受け止め、その背後に立つ剣士が隙を狙う。後方では弓を構えた女が射線を通し、さらにその後ろで水色の髪の少女が杖を構えている。


 ゴブリンが三体、通路を塞ぐように並ぶ。盾役が一体を完全に引き受け、剣士がもう一体に斬り込む。だが、三体目がわずかに横へ流れた。進路は弓使い側。


 距離を詰める。


 振り下ろされる棍棒の軌道を、短剣で逸らす。真正面からは受けない。刃を滑らせ、力を逃がす。足元をわずかに隆起させ、重心を崩す。


 剣士の刃が、深く入った。


 残る二体も、ほどなく処理される。


 水色の髪の少女が、こちらを見て小さく息を吐いた。


「今の……助かりました。ありがとうございます」


 柔らかく、丁寧な口調だった。


「偶然です」


「偶然でも、間に合ったのは事実ですから」


 穏やかにそう言い、状況へ視線を戻す。


 盾を構えていた男がこちらに向き直る。黒髪を短く整えた体格のいい男。戦闘時の目は鋭いが、緊張はもう抜けている。


「助かった! あそこ抜かれてたら危なかったな」


 声は明るく、感情がそのまま出る。


「俺はダイン。盾役でこのパーティ『灰狼団』のリーダーやってる」


 親指で後ろを示す。


「こいつがクレス。前衛の剣士だ。無口だが、腕は確かだ」


 クレスは視線を逸らしながら、短く頷くだけだった。


「後ろで弓構えてるのがリアナ。後方支援担当だ」


 薄い金髪の女が落ち着いた動作で会釈する。


「リアナです。今の一体、射線が通らない位置でした。助かりました」


 淡々と状況を述べる。


「で、さっき礼を言ったのがセラ。回復担当だ」


 水色の髪、黄色い瞳。杖を握る手は安定している。


「セラです。怪我はしていませんか?」


 まず確認する口調だった。


「問題ありません」


「それならよかったです」


 安堵は控えめだ。


 ダインが続ける。


「このまま奥へ行く。同行するか?」


 蒼閃と潜ったときの空気が、わずかに脳裏をかすめる。立ち位置。声の調子。役割を押しつけられた感覚。


 一瞬、足が止まる。


 セラがこちらを見る。


「無理はしなくて大丈夫です。ただ、先ほどのように間を埋めていただけると、とても助かります」


 丁寧だが、遠慮しすぎない。


「……迷惑にならなければ」


「迷惑なわけないだろ」


 ダインが即答する。


「動けるやつが増えるのは歓迎だ」


 迷いはない。


「では、行こう」


 自然に隊列に加わる。ダインの後方、クレスの外側。リアナの射線は遮らない。


 二度目の交戦は四体。湧きが重なり、間隔が詰まる。


 ダインが正面を固定する。


「左、圧かかる。崩すな」


 声は短く、冷静だ。


 クレスが最短で刃を通す。リアナが一体の足を射抜き、動きを止める。セラはダインの肩口に最低限の回復を入れる。


 一体が盾の外側を回り込む。進路はリアナ。


 踏み込む。


 棍棒が振り下ろされる直前、短剣で軌道を逸らす。力を正面で受けない。足元をわずかに隆起させ、重心を崩す。


 クレスの刃が通る。


「……ありがとうございます」


 リアナが落ち着いた声で言う。


「今の、確実に危なかったですね」


 セラが静かに続ける。


「偶然です」


「偶然で何度も間に合いません」


 穏やかな否定だった。


 戦闘は続く。三戦目、四戦目。ダインの受けは安定している。クレスは無駄に言葉を挟まない。リアナは状況だけを伝える。セラは消耗を見て回復量を調整する。


 俺は前に出過ぎず、後ろにも下がらない。間に合わなさそうな攻撃だけを捌き、崩し、通す。


 ダインが区切りを告げた。


「今日はここまでにしよう。無理はしない」


 戦闘時とは違い、声に少しだけ熱が戻る。


 地上へ向かう通路を、四人と並んで歩く。自然と、五人になる。


 途中、蒼閃とすれ違う。派手な装備。大きな声。こちらを見るが、何も言わない。


 空気が違う。それだけは分かる。


 ギルドに戻り、五人で精算を済ませる。受付前で、ダインが足を止めた。


「今日の動き、悪くなかった」


 率直な言葉だった。


「また時間が合えば、一緒にどうだ?」


 セラが続ける。


「もしご都合が合うようでしたら、またご一緒できればと思います」


 柔らかいが、真っ直ぐな視線。


 リアナも頷く。


「安定感がありました。またお願いできれば助かります」


 即答はできなかった。ただ、断る理由もない。


「……都合が合えば」


「それでいい」


 ダインが力強く頷く。


 入口の光が差し込む。外へ出ながら、さっきの言葉を反芻する。


 ――また一緒にどうだ。


 その響きは、思ったよりも静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ