第二十三話 同行①
その日も精算を終え、カウンターを離れかけたところで、リシアに呼び止められた。
「少しよろしいですか」
事務的な声だった。
「単独での潜行は安定しています。ただ、集団戦の経験が不足しています」
否定ではない。確認のような口調だ。
「仮で構いません。パーティでの行動を経験してみてはどうでしょうか」
視線を向けると、すぐ近くで三人組が装備を整えていた。昨日見かけた連中だ。派手な剣を背負った男、金髪の女、ボウズ頭の男。
リシアが淡々と紹介する。
「『蒼閃』の皆さんです。本日、第二層までの探索予定と聞いています」
リーダーらしい男がこちらを一瞥した。
「こいつか?」
「仮同行です」
リシアはそれだけ言う。
男は肩をすくめた。
「まあ、子守りくらいならできるぜ。俺たち強いしな」
金髪の女が口角を上げる。
「地面いじるやつでしょ? 後ろでちょろちょろしてくれればいーって感じ?」
反論はしなかった。事実として、俺は土属性だ。
ダンジョンに入ると、立ち位置は自然と決まった。蒼閃が前に出る。俺はその後ろ。角の確認、足場の補助、魔石の回収。
「そっち先見とけ」
「回収忘れんなよ」
指示というより、雑用の振り分けに近い。
第一層は問題なかった。蒼閃の火力は確かに高い。荒いが、押し切る力はある。俺は崩しを最小限に抑え、転びかけた個体を仕留める程度に留める。
第二層に入ると、戦闘が続いた。蒼閃は勢いのまま前へ出る。被弾はしないが、体勢が崩れる瞬間がある。そのたびに足元をわずかにずらす。壁をせり出させる。小さな崩しを積み重ねる。
想定より消耗が早い。
連戦の合間、こめかみに鈍い痛みが走った。流れが細くなる。三割に近い。
基準だ。
「……そろそろ限界です」
申告すると、リーダーが振り返った。
「もうか?」
鼻で笑う。
「魔法職でもねぇのに魔法なんか使うからだろ」
ボウズ頭が肩を揺らす。
「自分で燃費悪くしてんじゃねぇよ」
金髪の女が軽く笑う。
「えー、もう? はやくない? まあ無理して倒れられてもダルいし〜」
リーダーが手を振る。
「先に帰ってろ。俺たちはもう少し下を見る」
軽い調子だった。怒鳴られたわけでもない。責められたわけでもない。
ただ、輪の外に押し出されただけだ。
「分かりました」
それ以上言うことはない。
引き返す通路で、足音が一つになる。背後では戦闘音が続いている。笑い声も混じる。
間違ってはいない。基準通りだ。三割を残して撤退する。それが決まりだ。
それでも、胸の奥がわずかにざらつく。
地上へ出ると、昼の光が目に刺さった。ポーチは軽い。魔石は少ない。今日の稼ぎは蒼閃の方が多いだろう。
入口の影から、さっきの声がまだ聞こえる気がした。
――先に帰ってろ。
それだけが、妙に残っていた。




