第二十二話 交差
翌日も、同じ時間にダンジョンへ入った。
湿った空気と石の匂いは変わらない。昨日と違うのは、自分の内側だけだ。流れは意識の端にあり、整えればすぐに掴める。残量も、だいたい把握できている。
第一層でゴブリンが二体、曲がり角から踏み込んできた。足元の土をわずかに盛り上げ、片方の重心をずらす。崩れたところへ短剣を入れる。もう一体は壁際に寄せ、進路を絞ってから処理する。呼吸は乱れない。頭痛もない。消耗は軽い。
三体目が距離を詰める前に、踏み込みを止めるだけの土を作る。刃が届く。倒れる。無駄な動きがない。昨日よりも、決着が早い。
第二層手前まで進み、いくつかの小競り合いを終えたところで、背後の気配に気づいた。
「……前より、迷いがないな」
振り返ると、通路の影からグランが出てきた。少し離れた位置で見ていたらしい。斧を肩に担ぎ、こちらを値踏みするでもなく観察している。
「消耗もしてない。踏み込みが短いのに、足が止まらない」
感想はそれだけだった。
「魔力の使い方を教わりました。管理できるようになりました」
「無意識じゃなくなったか」
「はい」
グランは一度だけ頷く。
「それなら悪くない。枯らすなよ」
それ以上は言わない。俺も言葉を足さない。
「俺はもう少し下を見る」
「……気をつけてください」
「ああ」
短いやり取りのあと、グランは奥へ進み、俺はそこで引き返す。三割は残っている。基準通りだ。
地上へ戻る通路で、入口付近のざわめきが耳に入った。三人組が装備を確認しながら大きな声で話している。派手な装飾の剣、金髪の女、ボウズ頭の男。リーダーらしき男が、仲間に何かを誇らしげに説明している。
「今日は第二層まで一気に行く。ゴブリンなんて数で押せばいい」
その声に混じって、別の笑い声。
「もう戻りか?」
こちらに向けたものかは分からない。だが、視線が一瞬刺さる。値踏みするような、輪の外へ向ける目。
「また様子見かよ。安全第一だな」
断片だけが耳に残る。直接言われたわけではない。それでも、足がわずかに止まる。胸の奥がざらつく。
理由は分からない。ただ、昔どこかで似た空気を知っている気がした。
視線を外し、そのまま外へ出る。日差しがまぶしい。ポーチの重みを確かめる。魔石は十分。魔力も残っている。
今日はここまででいい。
戦闘は問題ない。管理もできている。だが、さっきの視線だけが、わずかに残っていた。




