第二十一話 限界
あれから三日が経った。
地下の練習場に通い詰めた三日間は、戦闘とは違う種類の消耗を伴っていた。魔物と刃を交えるわけではない。ただ、自分の内側を覗き込み、流れを掴み、整え、外へ出す。その繰り返しだった。だが、その単純な反復が、これまで曖昧だった感覚を少しずつ輪郭のあるものに変えていった。
初日、ミレイアは最初から限界を測ると言った。
「初心者はですねぇ、自分の最大を知らずに突っ込んで倒れます〜。戦場で気絶は洒落になりませんから、先に安全な場所で枯らしますよ〜」
軽い口調のまま、床に石片を四つ並べる。
「四つ同時操作、維持。切れたら即座に次。回数は私が数えます」
言われるままに流れを掴み、石を浮かせる。最初の十回は、消耗の実感も薄い。二十回を越えたあたりで、こめかみにわずかな鈍痛が走った。
「少し、痛みがあります」
「正常です〜。続けてください」
二十五回。三十回。痛みははっきりとしたものになり、流れが細くなっていくのが分かる。四操作のうち一つが揺らぎ、石がわずかにぶれる。
「まだいけますか〜?」
「……いけます」
三十五回目で、視界の端が暗くなった。石が一斉に落ちる。次の瞬間、足元が抜けるような感覚とともに、意識が途切れた。
目を覚ましたとき、壁にもたれかかっていた。ミレイアが腕を組んでこちらを見ている。
「はい、枯渇ですねぇ。ゼロになると気絶します。覚えましたか?」
言葉を返す余裕はなかった。だが、はっきりした。限界はある。そして、それを越えれば落ちる。
その後は、限界手前で止める訓練を繰り返した。七割までは違和感なし。五割で軽い頭痛。三割を切ると明確な痛みが走り、流れが目に見えて細くなる。残り一割では視界が揺れ、集中が乱れる。そこから先に踏み込めば、再び気絶する。
「あなたは前衛初心者としては魔力量が多い方です〜。でも、魔法使いとしては少ないですねぇ」
評価は簡潔だった。特別扱いも、過小評価もない。
「だから、使いどころを間違えないこと。三割は残して撤退基準にしてください〜」
三日目には、四操作を安定して維持できるようになり、頭痛の前兆も掴めるようになっていた。無意識の発動は消え、流れは意識したときだけ動く。発動と消耗が一致する。その当たり前のことが、ようやく自分の中で結びついた。
四日目、俺は再びゴブリンダンジョンへ向かった。
第一層。湿った空気と、石の匂い。以前と同じ景色だが、自分の感覚だけが違っていた。流れは常に意識の端にある。整えれば、すぐに外へ出せる。
ゴブリンが一体、踏み込んでくる。足元の土をわずかに沈ませる。体勢が崩れた瞬間に短剣を入れる。消費は軽い。頭痛もない。流れはまだ太い。
二体目。三体目。必要なときだけ、細く、正確に。石片を弾き、踏み込みをずらす。直接の打撃はないが、崩しは確実に効く。
被弾は減った。呼吸も乱れない。消耗も計算できる。
第二層手前で足を止める。頭痛はない。流れも安定している。まだ余裕はある。
だが、ここで引く。
三割を残す。そう決めた。
引き返しながら、胸の奥にわずかな手応えが残る。無限ではない。だが、計算はできる。限界を知っている。それだけで、戦いは少し形を持ちはじめていた。




