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「また………?誰かが ”魔法の元” を消されたんですか?」
「さあな。そこまでは確認しようがない。だが、消されたのが ”魔法の元” だけなら、まだマシだったかもしれない。なにしろ今度は本当に失踪したんだからな。未だに行方は………生死は不明だ」
「せ………っ!?」
私は両手で口を塞いだ。
そうしないと、大きな声が出てしまいそうだったからだ。
青街さんは私が叫び声を飲み込むのを待って、話を再開させた。
「先月のことだ。ある女性客がひとりでチェックインした。彼女もまた ”未発見” だった。あの一件以降、ホテル側はかなり警戒していたから、彼女が ”未発見” であることはすぐに気付いたし、今度は全スタッフに情報が共有された。やはりその女性客も ”魔法” や ”魔法の元” のことは何も知らなかったようだ。だが間が悪いことにオーナーは不在で、戻ってくるまでに数時間かかる。そこで、スタッフの中で一番力の強い者がその女性客を担当することになった。そのスタッフは人の心を読む ”魔法” が使えたからな。オーナーとMMMには事後報告になるが、緊急事態として、女性客の心を読んだ」
心を読む…………
当たり前のようにそう話す青街さんに、彼が魔法使い一族なのだと思い知る。
環境条件は同じなのに、いちいち心がざわつく私とは雲泥の差だ。
………どちらが雲でどちらが泥なのかはわからないけれど。
「それで、その女性客も、何者かに紹介されてホテル ミスルトゥを訪れていたことを知った。だが、この魔法は相手の記憶の中を見られるわけじゃなく、あくまでもその時点で相手が頭の中で考えてることを読み抜くだけだ。スタッフはより多くの情報を得るために、口実を作って女性客をエントランスに引き留め、彼女がここを紹介されたときの詳細を聞き出した。それによると、数週間前、女性が駅前に設置されていたMMM新入社員募集の看板を眺めているときに、見知らぬ男から『MMMコンサルティングに興味があるのか』と尋ねられたということだった」
その看板なら、私も今日MMMコンサルティング本社に向かう途中に見ている。
駅前ロータリーの歩道橋周りに建ち並ぶビルに設置された、大型デジタルサイネージ。
でもあれは、”魔法の元” を持たない非魔法使いには見ることができない。
そういう ”魔法” がかけられているからだ。
声をかけてきた男がそれを知っていたかどうかはわからない。
でも少なくとも、その男は魔法使い、もしくは ”魔法の元” を持っている人物になるはずだ。
「頷いた女性に、男は『MMMコンサルティングに入りたいなら、有利になる情報がある』と持ち掛けたそうだ。それで教えられたのが、ホテル ミスルトゥだった。このホテルに行けば、MMMコンサルティングの社員に会う確率が高く、コネを作ることができる。その社員に名刺をもらえたら、入社試験でかなり有利になるはずだ……みたいなことを教えられたらしい」
「名刺って、もしかして、あのMのカードのことですか?」
「たぶんそうだろうな。あんたは知らないと思うが、あのカードは魔法使いだからといって皆が知ってるわけじゃない。MMM社員もあのカードを不必要に人に見せることはしないからな。親しい間柄にMMMの社員がいれば見たこともあるかもしれないが、そうでなければ知らない者の方が多いはずだ。なのにその男は、カードの存在を知っていた。ということは、MMMの関係者か、MMM社員に近い位置にいる者になる」
青街さんの説明を聞きながら、私は、無意識のうちに、ある人物を思い出していた。
あの、王子様のような自称MMMコンサルティング社員……正しくは、元MMMコンサルティング社員のことを。
すると青街さんが木から体を離して私の正面に向いた。
「たぶん、俺も今あんたが思ってるのと同じことを考えてた」
「え……?」
「あの元社員のことだろう?」
言い当てられて驚いていると、間髪入れずに青街さんが予防線を張ってくる。
「断っておくが、俺には相手の考えを読む魔法なんてまだ使えないからな」
「別にそんな風には思ってませんけど……」
「それなら……」
言いかけて、青街さんは急にまた耳を押さえて横向いた。
向こうから何か呼びかけられたのだろう。
「……………わかった。あと3分ほど待ってくれ」
通話はたったそれだけで終了し、青街さんが私に振り返る。
「時間がないからここからは手短に説明していく」
有無を言わせない言い方に、私はコクコクと小刻みに頷いた。
「”魔法” については知らずとも、その女性はMMMコンサルティングという有名企業のことは知っていた。だからできるものなら転職したいと、男のアドバイスに従ってホテル ミスルトゥにやって来た。それを聞いたスタッフはそのままオーナーに報告し、前回を踏まえて、女性がチェックイン時に記入した連絡先も偽装でないことを確認した。オーナーも戻り次第、その女性に挨拶することになった。俺の母親が20時前後に女性の部屋を訪れる予定だった。ところが、予定より早く戻った俺の母親が19時過ぎに女性を訪ねたものの、そこには誰もいなかった」
…………今度は夜が明けないうちに?でもどうやって?
ひとりめとは違い、スタッフが目を光らせていたはずなのに、どうやって?
疑問が湧き上がるけれど、青街さんの話を途切れさせるわけにはいかない。
私は胸の内にとどめて続きを待った。
「スタッフは女性の部屋を外からずっと監視していた。にもかかわらず消えたということは、”転移の魔法” が使われたのは明らかだった。だが、普通はスタッフや宿泊客の誰にも感付かれないようにそれを行うのは難しいはずだ。もし可能になるとすれば、それを行ったのが相当力の強い魔法使いだった……ということだ。MMMに数名いるかいないかのな」
なんだか含みを持たせたようにも聞こえて青街さんを見ると、勢いよく視線が
ぶつかる。
その目も何か言いたげに見えたけれど、あまり時間がないせいか、青街さんは何も言及しなかった。
「とにかく、スタッフがすぐに女性の連絡先を当たり、オーナーはMMMと黄壱さんに知らせた。MMMも黄壱さんもすぐに動いたが、女性は見つからなかった。どこにもいなかった。というよりも、いるはずがなかったんだ」
「え………?」
奇妙な言いまわしに、さすがに声がもれた。
いるはずがなかった……なんて、まるで元から存在してなかったみたいな言い草だ。
けれどそれは、私の勘繰りではなかったようだった。
「女性が記入した氏名も住所も電話番号も実在しているのに、彼女の戸籍は存在してなかったんだからな」




