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責めたり警戒するような言い方ではなく、単なる報告のようにフラットに告げられた。
私はただただ驚いて、「………私、疑われるようなこと、しましたか?」と反論のように尋ねてしまったけれど、青街さんの立場になってよくよく考えてみれば、確かに怪しく思われてもしょうがないのかもしれない。
魔法使い一族でありながら魔法のことをまったく知らず、なのにこれまで誰も見たことがないほどに魔法の力が強い……らしい。
そのせいで、MMMコンサルティング社員に必要なあのMのカードの見え方も他の人たちと違ったりして、ただでさえ、私自身がイレギュラーだったのだろう。
そこへきて、あの自称MMMコンサルティング社員…正しくは元社員だけど、私しか遭遇していない不審者が現れた。
…………これだけ条件が揃ってて、もし私が青街さんだったら、同じように疑ってたかもしれない。
むしろ、青街さんと似たような立場にいる緑堂さんが私に微塵も疑念を抱いてないように見える方が不思議でさえある。
けれど、青街さんから返ってきた理由は、私が思っていたものとは少し違っていた。
「あんたが何かしたわけじゃない。俺が、あんたとあの紫間って男がグルなんじゃないかと警戒してただけだ」
「え……?そんなまさか。私は今日はじめて紫間さんにお会いしたんですよ?」
MMMコンサルティング本社での私と紫間さんの会話も、初対面を絵に描いたようなものだったはずだ。
でも青街さんは、その私たちのやり取りさえも疑惑の目で見ていたということだろうか。
青街さんは表情を変えずに淡々と告げてくる。
「言っただろ?俺はもともとあの男のことを信用していない。その男があんたのことをやたら気にかけて、特別扱いしてたからな。あんたの力の強さを知って、あの男が何としてもMMMに入れたがってるとは感じたが、そのあと、あんたが通った直後に ”転移の扉” が突然閉まったり、自称だか元だか知らないがMMMの社員があんたの前にだけ現れたり、イレギュラーが立て続けに起こった。そりゃ警戒するだろ。そのうえ、あんたがそいつの性別を明かしてないにもかかわらず、あの男が ”彼” と言った。それについて俺の中で挙がった可能性はみっつだ」
青街さんは私に3本の指を立てた。
「ひとつめが、今言ったみたいに、あの男がそいつの正体を知りながら知らないフリをした。ふたつめ、あんたの心をあの男が読んで、そいつが男だと知った。そしてみっつめ、あんたとあの男がグルで、ふたりして芝居を打った……。このうち、ふたつめの可能性はすぐに消えた。魔法を使った気配がなかったからだ。だが残るふたつの可能性はどちらも消去できなかった。だから俺はあんたに、あの男には気をつけろと忠告した。もしひとつめだった場合、あんたにも注意を促した方がいいと思ったからだ。だが、さっき侵入者があったとき、あんたは単独行動をした。もしあの男とグルなら、真夜中に部屋を抜け出すなんて絶対に怪しまれるような行動を、あの男が許すはずはないからな。だから俺は、ひとつめの可能性…怪しむべきはあの紫間という男だと判断した」
ここでもまた、隙のない理論にはまったく淀みがない。
それこそ、まるで魔法のかかった泉みたいに、次から次から湧き上がってくるようだった。
「…………確かに、そう聞いたら、紫間さんは私たちに何かを隠してるみたいですけど………でもそれで、私への疑いは晴れたんですか?」
青街さんは腕組みを解いて
「ああ。あんたは本当に何も知らない。あんたの言動は、完全に魔法素人だからな」
そう断言した。
疑いが晴れたことは喜ばしいけれど、その言い方には複雑な気分になってしまう。
「魔法素人………。じゃあ、その魔法素人にそろそろ教えてもらえませんか?さっきから出てくる警察とか刑事とか、いったい何なんですか?紫間さんが怪しいっていうなら、その紫間さんと不穏な会話をしてたあなたも怪しいんじゃないですか?」
複雑な気分をそのまま青街さんに投げつけた。
青街さんはそれを弾き飛ばすように訊き返してくる。
「不穏な会話?」
「ホテルに入る前にも訊いたことですよ。私があなたより先に ”転移の扉” を通ってこちらに来た直後の会話です。扉が閉じる前に、あなたが紫間さんに詰めてました。あの件と試験は関係してるのか……って。さっき訊いたときは、紫間さんがわざと私に聞かせたとか、警察が絡んでくるから私には教えられないとか言って誤魔化してましたけど、そうやって隠されたら、私だってあなたを疑いたくなります」
青街さんの説明は、あくまでも自分が正位置にいるという前提なのだ。
でも私からしてみれば、青街さんだって紫間さんやあの自称MMMコンサルティング社員と同じく、怪しむべき相手のひとりと言えるだろう。
にこにこと愛想はいいものの、どこか霞をつかむような雰囲気で肝心なことをかわしてしまう紫間さんに比べて、青街さんは無愛想でも無口でも、ちゃんとそこに在ると感じられる人で。
しかも魔法に関することにはまるで別人のように縷々と説明してくれる。
そんな青街さんの説明を聞いていくうちに、はじめは濃厚だった疑いの色も、
徐々に水を足したように薄まってきてるようにも感じていた私は、いい加減にそろそろ事情を明かしてほしかった。
すると、青街さんは無言のまま耳を押さえた。
「…………俺だ。オーナーに許可を取ってほしい。彼女にあの件を伝える許可だ…………………ああ、わかった」
青街さんはやおら耳から手を離し、私に向き合って告げた。
「そういうわけで、あんたにも伝えておく」
私はこくりと頷いた。
いったい何があったのかと、脈がゆっくり急ぎだす。
「事のはじまりは、二か月前だった…………」
いつも誤字報告いただきありがとうございます。
訂正させていただきました。




