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「刑事!?それってさっきの ”警察絡み” って話と関係してるんですか?」


青街さんは今度ははぐらかすことなく、「ああ」と認めた。

けれどそれ以上の説明は後まわしだとばかりに、私に詳細を詰めてくる。


「それでその声はどこから聞こえてきたんだ?男の声か?女の声か?」

「私の部屋のすぐ下あたりから聞こえた気がしますけど、性別は……」


それを問われて、私はハッとした。

男とか女とか、そんな概念(・・)はすっぽり抜け落ちていたのだ。

だからどんな声だったかと問われても、答えようがなくて。



「………わかりません」

「は?わからない?性別不明ってことか?」

「いえ、そうじゃなくて………ただ、声が聞こえてきた……という感じで………」


うまく説明できなかったけれど、そんな私を、青街さんは呆れたり責めたりすることはなかった。

それどころか、むしろ納得したという風情さえあった。


「ということは、やっぱり魔法か……」

「でも、どこか怪我をしてそうな、弱弱しくて小さな声でした」

「なるほど。確認するが、さっき地震のような揺れを感じた直後に、あんたは部屋で、助けを求める声を聞いた。そうだな?」

「はい、そうです」

「その声は男か女かわからないけど、あんたの部屋の下あたりから聞こえてきて、弱弱しいものだった」

「はい」

「で、その声は何て言ってたんだ?」

「だから『たすけて』って……」


即答してる途中で、ふと、青街さんとの距離の近さが意識に入ってきてしまった。

さっき駆け出そうとした私の腕を青街さんが掴んで、そのままなのだから仕方ないけれど、物理的に近すぎる距離は、気にしたとたん、気になってしまうのだ。


けれど青街さんの方はまったくそんな気配はなくて。



「それだけか?『助けて』以外は何も言ってなかったか?」

「あ、あと、『いたい』って……」

「『痛い』?…ああ、それでどこか怪我をしてそう、に繋がるのか……」


青街さんはひとり言のように呟いた。


「あの、それよりも早くその声の人を探してあげたいんですけど。声がだんだん弱くなっていってるんで……」

「対象者は怪我をしてる可能性が高い」


急に、青街さんはまた耳を押さえてしゃべりだした。


「念のため治療のできる者を探して……」

「あの、はやく…」

「………それならいい。……了解」


助けに急ぎたい私をまったくスルーして、青街さんは見えない誰か(・・・・・・)との通話を優先させた。

そしてそれを終えると、


「急ごう」


短く告げ、私の腕を解放したのだ。

けれど、まるで私がもたもたしていたような言い草と、一方的に掴んで一方的に離しておきながら、何のひと声もない青街さんに、思わず私も感情が先立ってしまった。



「………だから、さっきからそう言ってるじゃないですか」


トゲトゲした物言いだった。

その自覚はあった。

にもかかわらず、青街さんは、これもまた見事にスルーしたのだ。



「先に行ってくれ。おそらくその声は、あんたにしか聞こえないだろうから」

「私にしか聞こえないって……、もしかして、魔法の力が関係してるんですか?」

「おそらくな」


青街さんは私に先に進むように促しながら言った。


それに従い、私が青街さんの脇を抜けて歩き出すと、青街さんが半歩ほど後ろからついてくる。



「俺の部屋はあんたの隣だ。なのに、俺にはそんな声聞こえなかった。侵入の形跡があったとき…あんたが言うところの地震が起こったとき、俺はシャワーから出たところで、完全に目は覚めていた。ただ、数日おきに侵入者は現れるから、そこまでの警戒はしてなかった。一応それ以上の異変がないか様子をうかがったけど、特に何も起こらなかったからな。だから、どうせ不法投棄か何かだろうと判断した。なのに、しばらくして、あんたが部屋から出ていく音がしたんだ」


ちらりと横向くと、青街さんと目が合って、ほとんど同時に逸らした。



「………あんたは助けを呼ぶ声をそのときに聞いてたんだろ?でも俺は、あんたが部屋を出ていくまで何も聞こえなかった。あんたの部屋の方が声に近かったとか、そんなのは些細な差だ。なにしろここは魔法に包まれたホテルなんだからな。物理的にかなり離れているならともかく、隣の部屋程度の距離は、あってないようなものだ。だとしたら、その声の主は、魔法関係者である可能性が高い。あんたに聞こえて俺に聞こえないなんて、非魔法使いの普通の声とは考えられないからな。……そろそろあんたの部屋の真下だな」



青街さんに言われるまでもなく、私も気付いていた。

私は見上げて、自分の部屋を確認する。

さっき、あの窓から外を眺めたのだ。

助けを呼ぶ声が聞こえたから。

けれど、今は、何も聞こえてこなかった。



「どうだ?聞こえるか?」


青街さんは私と背中合わせになるように立ち、あたりを見まわした。

私は耳を澄ましてみるけれど………


「…………いえ、聞こえません」

「どのあたりから聞こえてきてたか、わかるか?」

「部屋とそう離れてないような気はしたんですけど……」

「姿は見てないんだな?」

「……たぶん。暗かったのでよくわかりませんでした」


そう返事してから、私は耳を澄ますだけでなく暗がりをのぞき込むようにして、声の主を探した。

けれど


「下手に深追いしない方がいい」


深夜のボリュームに見合った低い声で、青街さんに制止されてしまう。


「……少なくとも今はな。相手の正体がわからないんだ。用心に越したことはない」

「でも、怪我をしてるかもしれないのに」


私は振り向きざまに訴えた。

けれどそれも、一蹴されてしまう。



「怪我をしてそうな(・・・・・)声だろ?本当に怪我をしてるかどうかはわからない。もしそれが、フェイクだったら?」

「それは………」

「ホテルに戻ろう。ひとまずは探した。でもそれらしい人物はいなかった。あとは責任者や担当者の指示を仰いだ方がいい。これはMMM案件だ。俺達はまだMMMの正式な社員じゃないんだからな」












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