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まったく同時に声があがり、私は説明を中断した。
「………そうですけど……私、おかしなこと言いました?」
ふたりを交互に見返したけれど、どちらもほとんど似た表情をしていた。
どうも私が用いた ”王子様” という表現が抽象的すぎたのか、がいまいち掴めないようだ。
”王子様みたい” なんて例えは、どこでも見かけるメジャーな枕詞だと思っていたけれど………
それでも、紫間さんがいち早く「なるほどなるほど」と理解を示してくれた。
「”王子様” ね………。うん、紅守さんらしい素敵な表現だね。 ”王子様” という言葉に抱くイメージは様々あるだろうけど、大抵は整って品のある容姿の人を指すよね。紅守さんも彼にそんなイメージを持ったのかな?」
”王子様みたい” を咀嚼した紫間さんは、再確認するように尋ねてきた。
もしかしたら青街さんにも伝わるように、わざわざそうしたのかもしれない。
「……整って品のある容姿をしていたのは違いありませんが、佇まいとか物腰もどこか気品があったんです。特に言葉遣いが丁寧でした」
「言葉遣い?緑堂さんみたいな感じかな?」
「いえ……緑堂さんも上品な話し方をされますけど、緑堂さんとは少し違って………まるでどこかの国の貴族や王室にいても全然不自然じゃなさそうで………なんていうか、例えば大勢の人の中にいても、すぐに目が行ってしまう人っていますよね?そんなイメージです」
うまく伝わったか自信はないけれど、紫間さんは「ああ、それで ”王子様” なんだね?」と腑に落ちてくれたようだった。
「なるほど、比喩ではなく、本当にそのままの意味だったんだ。丁寧な言葉遣いか………なるほどね。で、白いパーカにジャケット………。うーん…………ひょっとして、髪の色は薄いブラウンだったりしたのかな?ヘアカラーというより自然な髪色っぽくて、色素が薄いっていうのかな?サラサラのストレートで、全体的に長め。髪と同じく目の色も薄めで、左目の下から頬にかけて縦にふたつホクロがある。あとは、すごく姿勢が正しくて、まるで背中に定規が刺さっているみたいに感じちゃったりして?」
紫間さんのやたら細かく、ぴったり当てはまる具体例に、今度は私が不思議顔を見せる番だった。
「そう……ですけど………やっぱり、MMMコンサルティングの方で間違いありませんか?」
あの男性の自称でしかなかったけれど、紫間さんが知っているということは社員というのは事実なのだろう。
私はただ単純にそう思った。
隣の青街さんもその解釈は同じだったはずだ。
ところが、紫間さんは「ああ……そうか………」腕を組み、考え込むような仕草をしたあと、思いもよらなかった真実を告げたのだった。
「おそらく彼は…………元社員だと思う。それも、たった一日だけの社員だよ」
…………元社員?
つまりあの男性は、MMMコンサルティングに入社したものの、たった一日で辞めてしまったということ………?
意外過ぎる素性に、私はどの角度から疑問を投げかければいいのかさえわからない。
けれど、青街さんはすぐさま紫間さんを問い詰めたのだ。
「じゃあその人物も魔法関係者で間違いないんですね?」
「ああ、そうだよ。彼の場合は、他の新入社員と違って入社時にはすでに複数の魔法を習得していた……つまり、MMMコンサルティングに入るときにはもう魔法使いとなっていたんだ。非常に優秀で将来が期待されていた新入社員だったと言えるね」
”魔法” を使うためには ”魔法の元” を持っている必要があり、”魔法使い” の定義は、自分の ”魔法の元” 以外にも複数の ”魔法” を使える者のことを言うらしい。
”魔法の元” は人によって種類も強さも異なり、その強さは ”魔法の力” とも呼ばれ、その力が強ければ強いほど多くの ”魔法” を得られるし、また習得する速度も他の者より速いようだ。
多くのMMMコンサルティング社員は入社時には自分の ”魔法の元” しか持っておらず、入社して大勢のMMMコンサルティング社員…つまり ”魔法使い” と接していくうちに、彼らから少しずつ ”魔法” を習得していくのだと聞いた。
もちろん、中には律ちゃんのように特殊なケースもあるから、新入社員すべてに当てはまることでもないのだろうけど、入社時点で複数の ”魔法” を使えたということは、相当強い ”力” を持っていたことになるのでは…………?
でも、それなら何故たった一日でMMMコンサルティングを辞めることになったのだろう?
「それなら何故たった一日でMMMコンサルティングを辞めることになったんですか?」
私の頭の中にあった疑問を、そっくりそのまま青街さんが紫間さんにぶつけた。
あまりにもそのままだったので、もしかして考えを読まれたのかと疑ってしまいそうになるけれど、青街さんは私のことなんか眼中にないように紫間さんしか見ていない。
そんな青街さんが、例え人の考えが読める魔法を使えたとしても、わざわざ私なんかにそれを使うとは思えない。
私はにわかに過った不審を拭い、青街さんとともに紫間さんの返答を待った。
紫間さんは「ん―――」と、はじめは答え渋るような反応を見せたものの、「まあ、きみ達ならいいかな?」と、ニコッと目尻と口角を曲げた。
けれど、その微笑みは一時的なものにしか過ぎなかったのだ。
「……………と思ったんだけど、残念ながら、どうやらタイムアップのようだね」
紫間さんがホテルの方を見やりながら、肩をすくめたのだ。
その直後、紫間さんの視線の先、ホテルの正面出入口の扉がゆっくりと開いていったのだった。




