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出会って以来、律ちゃんのおじさんとおばさんは順当に年を重ねているのだから。

もし魔法使いのセオリーが当てはまるのならば、いつまでも老けない私の両親と同じように、律ちゃんのおじさんとおばさんも変わらないはずなのに。

なのに、おじさんとおばさんは普通に年をとっているのだ。


つまり律ちゃんのおじさんとおばさんは、非魔法使い。

ということは、律ちゃんは隔世遺伝。

さっき、紫間さんは隔世遺伝について何て言っていた…………?



律ちゃんはゆっくり瞬きしてから、「そうだよ」と答えた。


「俺の親は、どっちも非魔法使いだ」

「じゃあ、お祖父さんとお祖母さんは?」

「父方も母方も、みんな非魔法使いだった」

「じゃあ…………律ちゃんは、隔世遺伝になるんだよね?」

「………そうなるな」


律ちゃんは私から顔を逸らした。

横顔からは、何を思っているのかはわからない。

でも、私が次に話すことは、もう理解しているのだろう。



「律ちゃん」

「うん?」

「律ちゃん、正直に答えて」

「…………うん」

「律ちゃんが魔法使いになったのと、私の事故は、関係してるの?」



お父さんとお母さんからの手紙には、律ちゃんと魔法の関りを知ったのは、私の事故の後だったと書かれていた。

つまり、私の事故以前は、お父さんもお母さんも律ちゃんのことを非魔法使いだと認識していたということになる。

そしてさっき紫間さんは、生命の危機に面した場合に眠っていた魔法の元が発現することがある……そう言っていたのだ。



「ねえ答えて。律ちゃんが魔法使いになったのは私のせいなの?」


私は律ちゃんの腕を掴んで揺さぶった。

律ちゃんはさっきと同じように、ゆっくりと瞬きしてから、こちらを向いた。

そして



「俺が魔法使いになったのは確かにユキがきっかけだよ。でも、ユキのせいなんかじゃない」


何かを覚悟するように、しっかりと告げたのだった。


私は、カァッと、体に、頬に、律ちゃんに触れている指先に、火花のように熱が走った。


そしてその後に、愕然とする。

おおよその予想はしていたのに、それを真実と突き付けられて、今度は体が、頬が、そして指先が、体温を吸い取られたように冷えていく。


律ちゃんの腕から離れた指先は、震えていた。



「やっぱり………私のせいなんだ」

「ユキ!だからユキのせいじゃないって言ってるだろう?」


律ちゃんが珍しく声を荒げたけれど、今の私には、それを聞くだけの余裕はなかった。



「………私のせいだよ。私が二階から落ちそうにならなければ、車に轢かれそうにならなければ、律ちゃんが魔法使いになることはなかったんでしょ?」

「そうとは限らない。もしユキが事故に遭わなかったとしても、もともと俺の中には隔世遺伝の種はあったんだから。何かの拍子に目覚めていた可能性は高いんだ」

「でも100%の絶対じゃないでしょ?だったら、私の事故がなかったら魔法使いにならなかった可能性だってあるんだよ!私を助けたりしなければ………私が律ちゃんの人生を変えちゃったんだよ!私がっ………っ!?」



爆ぜる感情が抑えきれない私を、律ちゃんは、思いきり抱きしめた。


ソファ越しにまわされた腕も、押し当てられた大きな胸も、私のよく知る律ちゃんなのに、私の知らない律ちゃんのようにも思えた。



「ユキ。聞くんだ、ユキ」


さっきみたいに荒げた声ではなく、落ち着いた、いつもより低めの声が、鼓膜に注がれる。


同時にぎゅうっと、本当にぎゅうっと、さらに抱きしめられて、私は苦しくなるほどに律ちゃんに閉じ込められた。


そしてその苦しさのせいで、私の暴れていた感情が行先を見失ったのがわかった。



「―――ユキ。ちゃんと俺の話、聞ける?」



私の様子を見て取った律ちゃんが、今度は諭すように問いかけてくる。


私は、少しだけ待った後、コク……と頷いた。


すると律ちゃんは優しく私の体を解放し、そのかわりに手を繋いできた。


私の左手を、律ちゃんは右手で握って、そして左手を私の手の甲に乗せた。

ただただ、律ちゃんの両手に挟まれた左手があたたかかくて、気が付けば心から安心できていた。



「ユキ。聞こえる?」


私の顔をのぞき込んで、目を合わせようとする律ちゃん。


その求めに応じるように、私は大切な幼馴染みの目を見て頷いた。


「よし」


律ちゃんはちょっとだけホッとしたように息を吐いて、私の手を軽く揺らした。



「じゃあよく聞いて。今いろいろ誤魔化しても、MMMコンサルティングで働くようになったら、たぶん、遠くない未来にユキは知ってしまうことになると思う。だったら、俺以外の他人から伝わるよりも、ちゃんと俺自身がユキに話しておきたいと思った。だからこれから話すことは、すべて嘘偽りのない事実と、俺の気持ちだ。それだけは絶対に間違えないでほしい。いいね?」



じっと見つめて、まっすぐ訊いてくる律ちゃんに、私は今度は頷くことができなかった。



「………ユキ?」


返事しない私に、律ちゃんが握った手をそっと振ってみせる。


「俺の言うことが信用できない?」

「………そういうわけじゃない………けど、」

「けど?」


律ちゃんは促すように私の手の甲をポンポンと柔らかく叩いた。

私はその柔らかさに誘われるようにして、逡巡しながらも、今思ってることを言葉にした。



「………だって律ちゃん、私のためなら平気で嘘つくじゃない。いつも自分のことより私の方を優先してくれるし、現に私に魔法のことを教えなかったのも、私が…」

「嘘はついてないよ」


律ちゃんが、私の言葉を遮って言い切った。



「確かに、ユキに魔法のことを隠しはしたけど、嘘はついてない。あの事故のせいで結果的に俺が魔法使いになったと知ったら、ユキは間違いなく自分のせいだと責任を感じてしまうと思った。だから、おじさんとおばさん、それに俺の親も、みんなで相談して、魔法のことをユキに伏せておくと決めたのは事実だよ。でも、俺は、ユキに嘘はついていない」










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