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「本当に………?お父さんもお母さんも魔法使いなの?本当に?本当に私の家は魔法使い一族なの?」
「ああ」
「でも……、でも、じゃあなんで今まで何も知らされてなかったの?他の人達はみんな子供の頃から魔法のこともMMMコンサルティングのことも知らされてるのに、どうしてお父さんとお母さんは教えてくれなかったの?それに、私が知らないのに、どうして律ちゃんは私の家族が魔法使いだって知ってるの?いつから?いつから知ってたの?」
堪えきれず、いくつもの疑問が飛び出てしまう。
律ちゃんと二人きりという状況が、私の心にアクセルを踏ませてしまうのかもしれない。
今にも飛びかからんばかりの勢いで質問攻めした私なのに、律ちゃんは穏やかな顔色で受け止めようとしてくれていた。
デスクからソファの私に歩み寄り、屈んで目線の高さを同じにしてくれた律ちゃん。
「ユキ、ちゃんと説明するから。だからその前に、おじさんとおばさんからの手紙を読んでほしい。いいね?」
優しく念を押され、私は頷くしかできなくて。
「………わかった」
そう返事すると、律ちゃんは安堵したような顔で私の肩をぽんと叩き、隣りのソファに腰を下ろした。
そして私は、両親からの手紙を開封したのだった。
雪へ――――
そう書きはじめられた文章には、両親ともに魔法使いであること、祖父母も、曾祖父母も、ずっとずっとその前のご先祖様も、みんなが魔法使いだったことが記されていた。
代々子供が生まれると、魔法の元の有無を注意深く見定め、魔法の元があるとわかった場合はそのコントロールだったり、魔法の存在だったりを、親が時間をかけて説明していくのだという。
同時に、大勢の魔法使いが一緒にいると年を取れなくなってしまうので、親と子供の二世代のみで暮らし、それ以外はなるべく遠方に居住するようにしていたそうだ。
そうすることで、一族の子供は、非魔法使いの子供と変わらないスピードで成長できた。
ただ、大勢でなくても家族となると一緒にいる時間も長く、互いに影響を与えてしまうことから、家族の魔法を習得し合うのは避けられなかった。
そうやって、親の魔法を子が使えるようになり、名実ともに ”魔法使い” となっていくのだ。
ただ、あくまでもこれらは親が魔法使いだった場合の話で、隔世遺伝などで親が非魔法使いだったり魔法に関して無知だった場合は、子にも何も知らされず、ただただ魔法の元に翻弄されて波乱に満ちた人生を送る者も珍しくはない。
それゆえ私の両親は、例え自分達の子供に魔法の元がなかったとしても、そのまた子供、つまり孫には魔法の元がある可能性を否定できない以上、長い時間をかけて見守ることを心に決めていたそうだ。
けれど、そうして生まれた私には、魔法の元の有無や内容を探ることをしなかったらしい。
なぜなら、一族の誰よりも強い魔法の力を持っていたのだから。
生まれたその瞬間から、両親は私がとても強い力を持っているのを感じたそうだ。
そのため、他の魔法使いとの接触はできる限り避けるようにしたらしい。
私ほど力の強い者が他の魔法使いとの間にどんな影響を与え、受けるのかがまったくの未知だったせいなのだが、祖父母が離れた場所に住んでいるだけでなくなかなか会えなかったのも、そういった理由からだった。
そして両親は、魔法使いにとって最も頼れる相談窓口、MMMコンサルティングにコンタクトを取った。
対応してくれたのは、紫間さん。
つまり紫間さんは、生まれて間もない私と会っていたのだ。
さっき一次試験の会場で私の顔を見た紫間さんの態度は、ここに繋がってくるわけだ。
紫間さんは、規格外に強い私の力に驚き、そして気にかけてくれたそうだ。
これほどに強いと、悪用しようと近寄ってくる輩が出てくるかもしれないからと。
いくらMMMコンサルティングでも、すべての魔法関係者を把握しているわけではないし、まだ生まれたばかりの私には自己防衛の術はない。
紫間さんからは、極力家族以外の魔法使いとの接触を避けることを助言されたようだけど、これは両親の教育方針とも重なっており、私は当初の予定通り、両親以外の魔法使いとはほぼ出会うことなく育つこととなった。
成長過程で強い力が暴走したり、何らかのトラブルが起こった場合はすぐにMMMコンサルティングが駆けつけてくれることになっていたというけれど、幸い、そういうトラブルはあの事故以外はなかった。
あの、律ちゃんが私を助けてくれた二度の事故以外は。
事故当時、私はまったく知らなかったけれど、MMMコンサルティングからのフォローもいくらかはあったらしい。
ただ、律ちゃんのおかげで私は大事に至らず、MMMコンサルティングの手を煩わせることもなかった。
そしてその後、私の両親は律ちゃんも魔法の元を持っていたことを知った。
手紙には、律ちゃんに関する個人的なことは書かれていなかったものの、両親はいつも私を支えてくれている律ちゃんにとても感謝していた。
両親からの律ちゃんへの信頼も絶大で、私の律ちゃんへの憧れも絶大。
だから、私に魔法のことを打ち明ける役を律ちゃんに任せた方がいいのではと、両親はそう考えるようになった。
律ちゃん本人も、それを承諾した。
そうとは知らず、私は憧れの律ちゃんと同じ職場で働きたいという夢を持った。
律ちゃんの職場が魔法使いの会社だと知らないままに。
私の夢を知った律ちゃんは、私の両親とも相談の末、然るべきタイミングでMMMコンサルティングのカードを私に手渡し、然るべきタイミングで魔法のことも打ち明けることにした。
だけど、実際は今日に至るまで、説明はなかった。
これについては、律ちゃんには律ちゃんの考えがあってのことで、私の両親は律ちゃんに全面的に任せているとのことだった。
両親の手紙は主に母の字で書かれていたけれど、最後には、父、母、二人がそれぞれの文字で私への想いを記していた。
どちらも、似たような内容だった。
ずっと話さずにいてごめん
驚かせてしまってごめん
あなたのことを誰よりも何よりも愛している
心の底から大切に想っている
何があっても絶対に守ってみせる
だから、すぐに魔法を受け入れられなくても大丈夫
無理して理解しなくていい
もし時間が必要だと感じたら、入社試験の途中でも帰ってきていい
お父さんとお母さんは、いつでも待ってる
電話一本くれたら、すぐに駆け付ける
魔法使いでも、魔法使いじゃなくても、
あなたが大事な娘であることに変わりはない
だから、自分の心に正直に従っていい
お父さんもお母さんも、それから律ちゃんも、
あなたの選択を全力で守るから
怖いと思ったり不安があるのなら、無理をしないで
心に嘘をつかないで
魔法使いでも魔法使いでなくても
あなたはあなただから
それだけは覚えていてね
あなたの帰りを、二人で首を長くして待っているから
帰ってきたら、抱きしめさせてね
お父さん、お母さんより
手紙を読み終えた私は、瞼がじんじんと熱くなっていた。
どうしてこんな重大なことをお父さんもお母さんも内緒にしていたんだろうと、家族に隠されていたことにショックがなかったわけじゃない。
でも、お父さんとお母さんが私のためにならないことをするはずない。
そう信じていた。
この手紙は、それを裏付けてくれたのだ。
きっと、部屋で、ひとりきりで読んでいたとしたら、涙が好き勝手にあふれていたことだろう。
でも今は、ひとりきりじゃない。
ここには、律ちゃんがいる。
私には、泣くよりも、すべきことがあるのだ。
私は、さっき紫間さんに話を聞いているときから燻りはじめていた懐疑を、律ちゃん本人に問うべき時が来たのだと悟ったから。
「…………律ちゃん」
「うん?」
「私のお父さんとお母さんが魔法使いなのはわかった」
「うん」
「でも…………律ちゃんのおじさんとおばさんは、そうじゃないよね?」




