月がきれいですね
♢
「しかし。巫琴は、本当によく食べるな」
「いや、ホント。気持ち……良いぐらいによく食べるわよね」
「なんだ? その喉の奥に物が詰まったような言い方は?」
「とにかく、これだけ食べたいぐらいのことがあったんだろう」
「どういう意味だ、ライム」
「いや……。よくよく考えたら。ワタシたちは逆に巫琴に頼れるところは、頼った方が良いと思ってな」
「どういう意味?」
「子どもというのは、普段は甘える半面。どこかで頼りにされたいとも思うものだからな」
「何? それは母の勘というやつ?」
「そうだな……」
「でも、巫琴は、オレたちとそんなに歳が離れてるわけでもないから、そんなに子どもでもないぞ」
「でも、ワタシとは十歳も違う」
「ホント。そうは見えないわよね。羨ましい」
「ちょっとぉーー!? みなさん、あたしを外して、何をコソコソ話してるんですかぁーー!? もぉー、仲間外れにしないでくださいよぉーー!?」
「スマン、スマン。あんまりお前がよく食べるものだからな。みんなで感心していたところだ」
「そーなんですかぁーー」
「そうだ。でもな、巫琴。前にも言ったと思うが、デブにはなるなよ」
ガーーン……。そこはやっぱり言われるんだ……。
「はい……わかってます」
「飯を食ったら、あとはゆっくりと休むぞ。だからもう少し、よく嚙んで食べろ。寝てるときの消化に悪いぞ」
「はい。そうします」
「悪い。先に出てるぞ」
「どーしたんですか、アーサー様」
「なんでもないわよ」
「気にするな」
「何か思うところもあったのかもね」
思うところですか……。なんだろ?
「さぁ、巫琴ちゃん。食べ終わったら、わたしたちも宿に戻るわよ」
「だけど、アーサーの言うとおり、よく嚙んで食べるんだぞ」
「ハーイ。なんだか、今日のライムさん。お母さんみたいです」
「そうか?」
「はい」
「なら、そうかもな」
♢
「外に出たら、ちょっと涼しいな」
「そーですね。あっ!? アーサー様、あそこに居ましたよ」
「何をしているのかしら」
「空を見上げているな。今日の満月でも見ているのか」
「あたし。聞いてきますね。お二人は、先に宿に戻っててください」
「それじゃー、よろしくね」
「はい」
♢
「アーサー様。何をしてるんですか?」
「あぁ。巫琴か。ちょっと、月を見ていてな……」
「満月……ですね」
「あぁ……。なぁ、巫琴。月がきれいだな」
ん? 月がきれいだな? これは、どこかで聞いたことがあるような……。はて?
あぁーーー!? この月がきれいって、もしかしてぇーー!? もしかするとぉーー!? あの夏目ーー! 漱石ーー! 大先生のぉーー!
愛の告白! 月がきれいですね。なのかも!?
「どうしたんだ、巫琴。顔を赤くして」
「い……いえ……。なんでもないです」
「なぁ、巫琴。お前も、月がきれいだとは思わんか」
それってもしかすると、あたしにも返事を求めてる!?
「あっ、はい。月がきれい……」
「その月がきれいって、私のことを言っているのかしら」
誰なんですか、突然現れたこの女!?




