そろそろ真面目モードに入ります 第十八章
第十八章 潜む影
「ねえ、あの件は大丈夫?」
「問題なしだよ。私たちの思い通りに動いてる」
嗤う嗤う。暗い影がほくそ笑む。
それは、勝者の笑いで、道化師の嗤いで、殿上人の哂いであった。
「それならよかった。………でも、あなたもワルね。まさか味方までその毒牙にかけるとは」
「まあ、敵をだますには味方からっていうからね~」
「ねえ、それ意味間違ってない?」
「え、そう?……って、せっかく悪い人になりきってたのに今ので駄目になっちゃったじゃん!姉さん」
影がもう!と憤る。なんかかわいいな、おい。
「ま~慣れないことはやるもんじゃないわね~。でも、悪い子なのはほんとでしょう?」
「まあね♪でも、これも必要なことでしょ、姉さん?」
すっかり元に戻ってしまった影二人、改め吹雪と燈はお話を再開させた。
「まあ、それもそうね~。それより、何を入れたの~?」
二人の話のタネは二人にとって大切な友人であるミヤについて。
彼女らとミヤの三人は今から数時間前、ミヤの想い人である高をオトそうと作戦会議を開いたのだ。
その内容は、最初にほかの男性陣、つまりは邪魔者を斑特製の薬で眠らせ、高には体が熱くなる薬を投与。そのまま温泉に入らせ、そこにミヤを投入というものであった。
そして、その作戦は思った通りに進み、今宮は高と二人きりで温泉にいる。しかし、二人は思った。
あれ、何か足りなくね?
と。
確かに、古来より『裸の付き合い』というのなかを深まるために使われてきた。おそらく、あの二人にも何か変化は訪れるだろう。
しかし、それだけじゃあ足りない。それだけではミヤのためにならないしぶっちゃけ面白みに欠ける。
二人が求めるのは劇的な関係の変化。それこそ、婚約とまではいかなくとも手軽に手を握ったりするぐらいの関係になってほしいのである。
そこで用意したのが、
「んっとね~、斑ちゃん印の惚れ薬を規定量のチョイ多いくらい?」
媚薬であった。それも、燈はちょい多めといっているが、そのブツの効き目は指数関数的に増えていくため、その量飲ませたらどれほどの奥手でも今すぐにおっぱじめるレベルで理性が飛ぶ。
完全に目がハートになるやつであった。
「あらあら~。やっぱり悪い子ね~」
「いやいや~それほどでも~」
そんなことはつゆ知らず、ちょっと気持ちを抑えられなくなったミヤが何かをボロる区内だと思っている二人は悪い顔で笑った。
「それより~後でそのお薬私にもくれな~い?」
「いいよ!」
二人は笑っていた。
「………じんのうち………好き」
そんなこんなで、今絶賛困惑中の高。
「え、は、え?」
口をあんぐりと開け、言葉ともつかない何かをただ漏らすのみである。
それもそのはず、高は今しがた繰り広げられている吹雪たちの密談なんて聞けやしないし、今、高が得られた情報は、なんか様子のおかしいミヤに好きといわれたというわけのわからないものだけなのだ。
「……じんのうちの、におい、すき~……にゃ~♡」
そんな思考停止の中でも、時は無情理に進む。ミヤはまず、自身が今身につけている簪を引き抜き、元の姿である、猫のような耳と尻尾をさらす。これで彼女は今完全に生まれたままの姿になったわけだ。
そして、わけのわからないことを口走った方と思うと、その数秒後には妙に艶やかな声を出し、高に抱き着き、そこから高の体をクンカクンカと嗅ぐ。
ぴったりとくっついたことによって、ミヤの胸部が高の胸板との間に押しつぶされ大量の脳細胞が天に召される。そして、ミヤの鼻先にわだかまる微弱な空気な流れが、高の肌をなでて余計イケナイ気持ちにさせる。
もうここまで来ると、あの世一歩手前の高の精神も強制蘇生してこなければならない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、ミヤ?い、いきなりどうしたんだ?」
「ん~?だって、じんのうち、いい匂いなんだもん。嗅ぎたいもん!」
「うん、まずそこが分からない……って、嗅ぐな!というか女の子がそんなに肌をくっつけるんじゃありません!?」
そんな抵抗も空しく、ミヤは高の体をクンカクンカクンカクンカペロリ♪
ん、ペロリ?
「ちょ、ミヤ!?さすがにそれはだめだって!?」
ミヤが高を嗅ぐのに飽き足らず、ざらりとした感触に体温よりもちょっと高めの湿っぽい暖かさに若干忘れていた驚きを思い出し、彼女の肩をつかみ引き離す。
「だって、じんのうち、おいしそうだもん!たべたいもん!」
「さっきから何を言ってるんだお前は!?」
ミヤのこれが当然だといわんばかりの憤りに、高はもはや発狂ものである。
「ミヤ、マジでやめてくれ………」
「む~………」
高の必死の拒みにミヤは頬を膨らませながらだったが行為をやめた。
ミヤと心が通じ合ったことに安堵を覚えた高であった。
「じゃあ、じんのうちも私のこと食べていいから、私もやるね♪」
「なんでそうなった!?」
全く心が通いあっていなかったし、むしろ遠くなった気がする。
「じゃあ、いただきま~す♡」
「待て、待て待てっ!話せば、話せばわかっぎゃああああ!!?」
ミヤの舐め攻撃!効果は抜群だ!
ミヤのざらりとした可愛い舌は高の肌を丁寧に撫でるように舐めていった。その様子と感触は非常に艶やかというか、普段純情であるミヤの見せる積極的な姿にぐっと来るものがあったというか、まあ端的に言うともの凄くエロかった。そして、可愛かった。
これは、ミヤが高を相風呂させるに至った、高の脳内を死屍累々の地獄に変えた一撃より強大である。
つまり、これで高が再起不能になるのは火を見るより明らかであった。……まあ、ある意味再起不能とは最も遠い状態にあるかもしれないが。
「ちょっ!ミヤ!いい加減にしてくれ!どうしたんだよ、いきなり!?」
さすがにこれ以上はお互いのためにもいけないと、高はミヤに向かって少し強めに出る。少し、心が痛んだ。
と、高のそこそこでかい声を聞いて、ミヤはいきなりしおらしくなった。
「……だめ、なの?」
ミヤの上目遣い攻撃(定期)に高の罪悪感が加算される。
いや、だめだ。落ち着け自分。素数だ素数を数えるんだ!
2,3,5,7……
「……わたしは、じんのうちが喜んでくれたらな……って思ってたんだけど、やっぱり迷惑かな?私みたいな子はいらないかな?」
11,13,ミヤ、19,ミヤ、ミヤ、ミヤ、ミヤ……
あ、これあかんやつ。高の中できゃわゆいがカンブリア大爆発を引き起こす。頭を思いきり殴られたかのような衝撃。
「い、いや、別にそんなことは思ってねえよ?だけどな、なんというか、な?それはちょっと違うというか……」
高がしどろもどろになりながら、ミヤのフォローに回るがそれもむなしく、ミヤの顔がさらに悲痛にゆがむ。
「やっぱり、ダメなんだね?私は迷惑だったんだね?でも、じんのうちは優しいから我慢してくれてたんだね?ごめんね?」
「ああ、もう!!わかったから、分かったから好きなだけ舐めろ!?」
百鬼には今まで勝るとも劣らない高であったが、ミヤの涙には勝てなかった。
もうやけくそに体を大に広げて、ミヤの口撃を甘んじて受け入れる。
「いいよ、むりしないで?じんのうちの気持ちはもうわかったから………」
「いいや、全然無理なんてしてない!むしろこちらから舐めてほしいくらいだ!?」
高は途中から自分でも何言ってるかわからなくなったが、とにかくミヤをフォローし続けた。
そして、幾度目かの口論の後………
「じゃあ、いただきま~す♪」
すっかりいつもの調子……と言ったら語弊があるが、先程からのおかしな調子に戻って高をいただこうとしていた。
と………
「…………あれ?」
「ミヤ?おい、ミヤ!?」
あんなに生き生きとしていたミヤが、突然、体の全力が抜けたように地に伏していく。
「…おい、しっかりしろ!?ミヤ、なあミヤ!!」
あとはもう、高の絶叫が響くのみであった。
まず初めに眼前に飛び込んできたのは広い夜空だった。
星が瞬き、視覚のてっぺんより少し上には半端にかけた月が静かに光っていた。
そして、次に反応を示したのは触覚。少し、湿っぽい空気。背中には床……何かしら、ごつごつしたものの上に乗っかっているようだ。
そして、体の上には程よく締める何かが乗っけられ、体の脇が夜風に吹かれるということは、なにも着ていないということだろう。そして、本来あるべき場所に耳が生え、何なら尻尾も生えているため簪は外している。
さらに、感覚器が働き始め、嗅覚で少しつんとくる硫黄の臭いがすることが、味覚で……何もわからないということが分かった。
そして、重役出勤をかます聴覚で
「おい、ミヤ!目を覚ましたのか!?」
何者かが、必死に自分を呼び起こしていることが分かった。
その、何者とは何者なのか?
ミヤは、首をひねり声のするほうへと視覚を向ける。
「………じんのうち」
そう、そこにいたのはこの世界に来てからおそらく一番長い時を過ごしたであろう人、高であった。いつもよりも、顔に余裕がないように見受けられる。
と、ミヤが完全に目覚めたことに気が付いた高が、その顔に歓喜と、安堵を浮かべ、そして、ミヤはその間に、何が起こっているかもあまり理解できないまま起き上がる。
つまり、今この間、ミヤはちょうどこうに抱きしめられるような体勢でいて、高のほうはそもそも、相当遅い時間だし、ミヤが目を覚ましたこともあってかなりハイな心持である。さあ、何が起こるだろうか?
「ミヤ、良かった!………本当に良かった!!」
「ちょ、じんのうちっ!?どうしたの、いきなりっ!?」
「ああ、よかった……よかった!」
「って、私今裸だから!?ちょっと待ってよ!!」
先程と真逆の状態の出来上がりであった。
高は、そのうれしさのあまり、ミヤを力強く抱きしめる。対して、ミヤは、何があったかもわからないうちに裸の高に、自身も裸の状態で抱きしめられたのだ。頭がショートし、思考が真っ白になる。
そして、タイミングの悪いことに、ミヤの脳内で、記憶力が重役出勤通り越して、社長出勤を決行する。
最悪のタイミングで、自分が、想い人に対して、あんなことやこんなことして、挙句、のぼせて倒れてその彼に介抱されている記憶が呼び戻される。いや、まあ、介抱云々は記憶ではなく推測ではあったが……。
頬がリンゴのように赤くなり、温泉の近くなのに氷漬けにされたように体の熱がなくなっていく。 動悸が激しくなり、心の臓がうるさく鳴り響く。目が回り、自分が今どのような状態で存在しているのかさえ定かではなくなる。
しかし、そんな中でもはっきりとした指針が一つだけあった。
それは、羞恥で事故が破壊される前にここから速やかに立ち去ること。
「あ、あの、じんのうち、ごめんね、いろいろ迷惑かけて…………それと、さっきのことだけどさ?」
ミヤは、それをすぐに実行に移した。否、体が勝手に動いたというのが正しいか。
とにかく、高の熱烈なハグをやんわりとほどき、先程まで寝ていた竹でできた椅子から飛び降りると、
「今すぐ忘れて~!!!!」
そのまま、脱兎のごとく逃げ去った。
ミヤは、まず脱衣所まで到着すると、手早く着替えた。途中、自身の人間との特異さを隠すための簪を風呂場に忘れていることに気が付いたが、取りに行くわけにもいかず、急いで部屋まで付けば問題ないだろう。そう、自分に言い聞かせ脱衣所を出る。
幸い、夜ももう更けきっていて人っ子一人いない静かな廊下だったが、それでも羞恥に任せて思いっきり走ったら誰か来てしまうだろう。
だから、できるだけ目立たず、それでいて早くこの場から立ち去りたい思いで、急ぎ足で歩を進める。
どれくらいの距離を歩いただろうか(ちなみに、鏖妖組の泊まる部屋から温泉まではそこそこ遠かった)。確か、あと一二本廊下を曲がるだけで、自身らの部屋についてしまうと安堵したころ。
「ぅう………ぅぅ………」
ミヤの、無駄にいい猫耳が何者かのうめき声をとらえた。
……あ約50メートル、方向は、左に鎮座する立派な日本庭園の中。明らかな、異常事態である。
現在、この事態に対してミヤの考えうる対処法は二つ。
一つ、スピードを重視し、今すぐに声の方へと向かい、ミヤのみで事態の対処にあたる。しかし、これは、ミヤが対処できるものではない可能性があることと、この猫耳としっぽを見られることという、大きなデメリットがある。
二つ、今から全速力で部屋に戻り、吹雪などに応援を要請して対処する。これはこれで、その間にうめき声の人物が死亡してしまう可能性がある。
どちらかも決めきれぬまま、数瞬。
「…………た……すけ………」
その、あまりにも小さなSOSを受け取ったミヤの体は、再び勝手に動いていた。先ほど高から逃げたときに勝るとも劣らない速度で声のした方に走っていく。
夜闇の中を裸足で走ったため足の裏を石で切ったり、途中何かにぶつかって左腕が鈍く痛むが、そんなことはもはやどうでもよかった。
いまはただ、人を助けたい。極めてシンプルな思考でミヤはただ走った。
ミヤが走り出してから数秒後、彼女は松の裏に転がる人影を発見した。
否、それはもはや人影といえるほどのものでもなかった。四肢の三つがあらぬ方向へと曲がり、残り一つは、そもそもなかった。全身のいたるところに獣に引き裂かれた、または噛みつかれたかのような大きな裂傷が広がり、現在進行形で大きな紅い池を作り出している。
表情はその苦痛ゆえにひどく歪み、そしてどこか虚ろだった。時々、思い出したように数回呼吸を繰り返す、ただそれだけ。
全体的に損傷がひどく、もう男か女かもわからないそれは、やはりかつて人であった何かであった。
「……あ、ああああああああ!!!」
それを目前にし、彼女はただただ、激高した。
こんなこと、生き物にやっていいことじゃない!
頭の中で、その言葉だけが何度もめぐり、彼女は三度の考えなしの行動に出る。
すぐさま、その人のもとへ駆け寄り、怒り、悲しみあらゆる負の感情を糧に異能を全開にする。急激な異能の使用に体が軋む。そして、妖力の減少が今までで最高速度に達し、数秒後にはひどい頭痛と吐き気の波が押し寄せる。
しかし、ミヤにとってそれはあまりにも些末なことであった。今はただ、この人を助けたい、それだけの想いで異能を使用し続ける。
異能の行使から三秒後、断ち切れた骨がつながる。五秒後、破かれた肉が生える。七秒後、四肢が通常の位置に戻る。八秒後、女性だということが分かった。十三秒後、臓腑が機能し始める。十五秒後、ある程度の人間ができる。
『いい、ミヤちゃん。異能はね、妖力を使って発動させるって言ったじゃない~?でもね~、異能をたくさん使って、妖力がなくなっちゃうと~その次は自分自身の生命力を使っちゃうのよ~。だからね~、くれぐれも異能の使い過ぎは絶対にだめよ?めっ、だからね?』
脳内にふと吹雪の言葉がよみがえる。異能を彼女に習う際、最初に言われたことである。
親友であり、師である彼女のその言葉を、ガン無視し、遅ればせながらその言葉の大切さに気付く。
限界を迎えるも、異能を使い続けるミヤの体は、ひどく痛み、気を抜くとすぐに壊れてしまいそうである。常に意識が飛びそうになり、体の震えが止まらない。
それでも、ミヤは止まらない。
二十秒後、治療が完了する。
「………あ、あなたは……」
かすれた声で彼女が問う。
「……鏖妖組のミヤです……あなたを助けに来ました………」
ミヤも、もう限界だったが、とぎれとぎれになりながらもなんとか彼女を安心させるような言葉を吐く。
今にも途切れそうな視界で改めて彼女を見ると、なんと彼女はまだ年端もいかぬ少女であった。
その事実にただ怒りが湧き、ミヤの意識はやけくそに保たれる。
「………あれ?まだおかしいのかな?………おねえちゃんの耳が?」
そういえば、自分は本来の姿のまま駆け出したのであった。まあ、相手もいいように勘違いしてくれているためこのままで大丈夫だろう。
「……直に治ります………それより、ここで一体何があったんですか?」
それを聞くと、少女ははっとして起き上がろうとするも、体が痛み、再び地に横たわる。
「ああ、そんなに急がなくてもいいですよ?………しばらく安静にしておいてくだ……」
「逃げて!………また、あいつが来る!!」
ミヤの言葉を遮り、少女が精一杯に警告を上げる。
「逃げる?あいつ?…………!!?」
しかし、少女の警告に素早く応じれるほど、ミヤの頭は動いていなかった。
急に右足が燃えたのではないかというほどの熱くなり、ミヤは右足に視線を向ける。
そこには、黒い龍がいた。全長が小さな子供くらいのそれは、その背丈には分不相応に大きい顎で、ミヤの右足をがっつりととらえ、そこに赤く黒い花を咲かせていた。
遅れてくる、激しい痛みに、叫びたくなるが、少女が見ている中でそれはできない。歯を目一杯に食いしばり、深呼吸をするだけにとどめておく。
何とかして、この龍の顎から脱出し、少女を守るべく懸命に体をそらすが、龍はびくとも動かずただただ痛みが増すだけであった。
「………おお、かかった、かかった」
ミヤの抵抗も空しく、夜の闇からこの事件の黒幕が姿を現す。
闇によくまぎれるであろう、褐色の肌。その肌は脇に行くほど、青く黒く光るうろこに変化していった。逞しく仕上がった体躯で、まるでそれを見せつけるかのように諸肌脱ぎしていた。
そして、この世の生きとし生けるものを否定するかのような威圧感を持った目は、今はおかしそうに歪んでいる。
「いや~、これ一回で二人食べれるからお得なんよな~。あんた、そこら辺どう思います?」
その妖は、いやな感じで訛ったことば遣いで、ミヤにそう問うた。
「どうもこうも、最低なことだと思いますよ。………こんなに小さい子をいたぶって、幼女趣味ですか、気持ち悪い」
おどけた妖に対して、ミヤは憎悪100パーセントの視線と口調で返す。言葉で気をそらしながら、少女を守るように妖と少女の間に入ることも忘れなかった。
「ふむふむ、まあ負け犬の遠吠え、と。………ん、あんさんその耳」
と、いまだおどけていた妖が、ミヤの耳に気づきいまさらながらに正気に戻る。
「耳がどうしたんですか?これじゃ何かおかしいですか?いやですね~、多様性を認められない男は」
ミヤはどこまでもただ冷淡に相手をなじる。
……なじる、があまり効果はないようだ。
「…………っく、く……くっ」
妖は、ミヤの言葉など気にも留めず、何がおかしいのか笑いをこらえるように息を漏らす。
「………なんですか、気持ち悪いですよ」
「はははははは!!!小娘一匹と思ったら超大物や!!わしは今日ぎょうさんついとるらしい!!!」
「っ!!……何ですかいきなり叫んで。うるさいで………」
ミヤはその声に驚きはしたものの、冷静さを取り戻して、その妖をなじ………れなかった。
反応ができない速度で移動した妖に、強引に口をふさがれる。
「食事は終いや!お前は俺と来てもらう!」
妖は、そのままミヤを強引に抱えると、大きく屈み、
「おねえちゃん!!」
「逃げ……」
ミヤが少女に避難勧告をする前に跳躍で、夜空に紛れ消えた。




