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猫と桜  作者: 詩音
18/23

ちなみに、ミヤと高が出会った日は4月8日です。 第十七章

  第十七章 二人の時間

「ほら、和夜。もっと吞んで~」

「ほらほら、風くんも~」

「いや、今一応任務中だから。だめだから」

「いや~、さすがにそれは……ほら、俺って下戸だしさ」

 近い未来、化け物と血みどろの争いを繰り広げる少年少女の集まりの中には今、その響きに似つかわしくない間の抜けた時間が流れていた。

 妖を打ち倒すためにやってきた鏖妖組の高たちは、水の都について最初にやったことは入浴であった。頭はまともだが口調がまともじゃない当主にあれよあれよとおもてなされ、今高たちはほとんど宴会のような食事をしている。

「いいじゃな~い。ほら今日は無礼講よ~」

「いやそれ意味違うから。というかさっきからお前なんかおかしくないか?」

「ほらほら~風くんは私の注ぐ酒が飲めないのか~?」

「いや、飲めないってわけじゃないんだけど……ね?」

 その明るい雰囲気にあてられたのか、吹雪と燈は変なノリでお互いの伴侶に必死で酒を進めている。

 

 しかし、これもれっきとした作戦なのだ!


 時は数時間ほど前にさかのぼる。

「じゃあ、早速、ミヤちゃんが高ちゃんをオトす方法について話していこうと思うんだけど……実はこの旅館、夜遅くになると温泉が混浴になるんだって!」

「へ~、で、それがこの話となんか関係あるの?」

「関係ありも大ありよ!だって、ミヤちゃんには今夜高ちゃんとそこに入ってもらうんだから!」

「ああ、なるほど……………って無理だよ!?」

 燈がさも当然のように言うため思わず納得してしまいそうになったが、普通に無理難題であった。

「え、なんで?ああ、もしかして意識しちゃうと二人きりで話せないとか?」

「裸だからだよ!?なんでさも当然みたいに裸を要求してくるの!?」

「あ~そっち……そっちの対策はね~まあがんばれ!」

「丸投げしたぁ!うそでしょ、ねえ!?」

 燈との暖簾に腕押しみたいな問答に見かねた吹雪は助け舟を出す。

「裸を見られるのが恥ずかしいなら、お胸が大きくなる異能でも使ってみる?」

「ねえそれどういう意味!?」

 助け舟に見せかけた敵国の軍艦であった。

「でもあの朴念仁を意識させるには脱ぐくらいは必要だと思うよ~。それにこういうのは慣れだから!」

「ぐっ………」

 確かに正攻法では高を意識させられる未来が見えないのも事実であるため、何も言えないミヤであった。

「じゃあ、ミヤちゃん、頑張ってね~!」

「…………はい」

 燈はミヤの肯定を聞くと、ニパーと屈託のない笑みを見せた。

「じゃあ、次なんだけど……まず私と姉さんが風くんたちのご飯に眠くなる薬を入れま~す」

 最初から問題しかないと叫びたかったが、また長くなりそうな気がしたためミヤはスルーすることにした。風牙と和夜に少し申し訳なかった。

「そして、高ちゃんには体があったかくなる薬を入れて、汗をかいてもらいま~す。そして、薬が効いてきたところで高ちゃんには温泉を勧めま~す。ちょっと時間をおいてミヤちゃんも入りま~す!おわり」

「ねえ、なんでそんなに薬持ってるの?」

「ああ、もしもの時のために斑ちゃんに色々作ってもらってるんだよ~。他にも我慢ができなくなる薬とか、()()になる薬とか」

 明らかに夜のお遊戯大会のための薬であったが、それを知らないミヤは何か違和感を感じながらもへえと頷くしかなかった。

「じゃあ、ミヤちゃんの恋が叶うようにがんばろー!」

『おー!』

 

 そして、時は戻る。

 ちなみに、吹雪も燈も作戦通りすでにみんなの食事に薬を入れてしまっている。それでもなお、酒を勧めるのは、風牙も和夜も五感が鋭いため何か入れたらばれてしまう可能性があるからだ。

 そのため、彼らの意識を食事からできるだけ逸らしつつ、できるなら味覚を馬鹿にしてしまおうといういう魂胆なのである。

 ちなみに、ここ日の輪では基本的に15歳になると大人として認識されるため、酒もたばこも結婚もその年から飲めるし吸えるしできるのである。

「ほらほら~呑んで~」

「いやだから駄目だって」

「お酒がだめなら、ごはんをもっと食べて~。ほら、あ~ん」

「いや、俺小食なんですけど………」

 そんな、2カップルの攻防戦もといいちゃいちゃのなか、ミヤと高は何とも言えないまま黙々とご飯を食べ続け、食後から小一時間たった頃男性陣たちに薬が効き始めた。

 一行は部屋に戻り(部屋は全員同じで、かなり大きい部屋に通された)、雑談に興じたりしていると、風牙と和夜が狙ったように同じタイミングであくびをしたのだった。

 見ると、二人とも眠そうだ。

「ふあぁぁ……なんかえらく眠いな~。やっぱ疲れてたのかな~」

「確かに、ここに来るまでにいろいろあったしな。俺もそろそろ年かね」

「いやいや、和夜さんまだ18でしょう………」

 眠気のためやや気だるげにツッコミを入れる風牙。和夜も同様に重たい瞼を必死に持ち上げている。

「え、ていうか和夜さんまだ18歳だったんですか!?」

 どう若く見積もっても23ぐらいの貫禄の入った顔なのだが?

「お、おお、そうだぞ……まあ、たしかに、そう、かもな………」

「はは……和夜さん、老け顔、ですもんね……」

 徐々に二人の舟をこぐ力が大きくなり、やがてこと切れたようにこてんと寝た。

「はは、二人が寝落ちするなんて珍しいな………ああ、二人が持っていってくれるのか?すまんな」

 高が微笑みを浮かべている間に、二人の配偶者である吹雪たちはもう彼らをお姫様抱っこで布団まで運んでいた。実に素早い手つきであったし、吹雪に至っては和夜の巨漢を軽々抱きかかえていて、改めて鏖妖組の底なしの運動力を見たミヤであった。

 まあ、それよりも普通は逆だろって感じのお姫様抱っこの構図に目が言った気がするが。

「いいのよ~、私たちの夫だもの~」

「うんうん、それより、高ちゃん。汗いっぱい書いてるけど大丈夫?暑い?」

 ついに作戦は次の段階へと移った。

 燈は何食わぬ顔で高に体調に異常はないかを問うた。

「ん、ま~ちょっと暑いような気もするな~。まあ、夏だししゃあねえだろ」

 薬が本当に聞いているかも書くんんした今、彼女らに達成できぬ作戦はなかった。

 彼女らに課された最後の詰めを水を得た魚のような勢いで遂行していく。

「じゃあ、お風呂でも入ってきたら?すっきりするわよ~」

「え、風呂?いや、まあ、いいが………ちょっと休ませてくれないか?俺も若干眠いんだ」

「いやいや、でもそれだとそのまま朝になっちゃうかもよ?それよりも今頑張らない?」

「お、おう。じゃあ一時間たったら起こしてくれないか?ちょっと流石に今はきつい」

「でもでも……」

 まあ、かっこよく書いても所詮ごり押しである。

 絶対に風呂に行かせたい燈と吹雪、対、ここに来るまでにも色々あって、ここについてからも人知れず妖が近くにいたりしないかと気配をずっと探ってて、もうくたくただからちょっと寝たい高の舌戦は思ったよりも長く続いた。

 しかし、この戦争の終結は案外あっけないものであった。

 三人とも話のネタがジリ貧になってきたころ、吹雪が何かを思いついたのか高にゆっくりと近づく。

 そして、

「………………」

 耳元で何かささやいた。

 その瞬間、戦況が一変した。

「………風呂、入ってくる」

 一瞬で高が手のひらを返し、風呂へと直行した。

 いったい何があったのだろうか?

 ミヤは高が珍しく、とぼとぼと歩いて行くのをただぽつねんと見ていたが、やがてすごくいい笑顔をした二人に肩をポンとたたかれた。

『じゃあ、いってらっしゃい』

 さあ、これからはミヤの戦争だ。


「あ~。極楽、極楽」

 本日二度目の風呂で、さらに嫌々入った風呂だが、普通に気持ちがいいのが若干癪である。というか極上である。だが、癪である。だが、気持ちいい。

「それにしても、吹雪と燈はどうしたんだ?なんか食事の時から変だったが……」

 しかし、まず水の都についたのがそこそこいい時間であったため、もうだいぶ夜も始まりきっている。当然、貸し切り状態である。つまり、どう頑張っても返事は帰ってこない。

 高は悶々としたまま空を仰ぐ。

 吹雪たちの行動の違和感も気になるが、それよりもあの一言である。

 吹雪が放った、極めつけの言葉である。

『汗臭いとミヤちゃんに嫌われちゃうわよ~』

 そのたった一言で高のメンタルはぐちゃぐちゃに引っ掻き回された。

 しかし、引っ掻き回されたはいいが、なぜそうなったかはあまりよくわかっていない。

 確かに、ミヤに嫌われるのは嫌だ。そして、その不快感の大きさは誰よりも大きい。そこが不思議なのだ。ミヤとは同居人で、それこそ今は家族のような距離で接していて、これからもその関係性でいるつもりである。

 しかし、今の自分の行動は高の思い違いでないのなら思い人に自信をよく見せようとする努力のであり、自身の気持ちと行動に大きな矛盾が生じる。

「はあ………まあ、考えたって仕方ねえか」

 しばらくの間物思いにふけっていたが、やはり自分にこの問題は解けそうにない。

 ならばもうそれを放棄して、心のままに接すればよいだろう。

 それに、いやいや入った温泉も極楽である。これはこれで楽しまなければならない。

 ぺちぺち。

 不意に誰かがこちらに歩いてくる音が聞こえた。この時間に入ってくるとは珍しい人もいたものである。少し興味を盛った高は、音の方をちらっと見る。

「あ、あの……じんのうち………えっと………来ちゃった」

 そこには、顔を真っ赤にしてたどたどしく話すミヤがいた。

 体を隠す手ぬぐい一枚はやけに頼りなく、ミヤの体のラインをはっきりと映し出していた。

 ミヤが風呂に入っている。ただ、それだけの事実で高の脳内はエラーが大量に発生した。

 理解不能。理解不能。理解不能。理解不能。理解不能。理解不能。理解不能。

 ただ、その理解不能の海の中にもほのかな明かりはある。理性の灯台だ。

「………俺、上がるから」

 脳がゆだりそうになる中で何とかそれだけは言って、高は温泉から立ち去……

 きゅむ。

「あ、あの……えっと………いっしょ、はいろ?」

 ミヤが高の指を控えめに、しかし確かに握り、そう言う。

 ミヤの華奢な肢体と、不安げに見つめる上目遣いは小動物のような可愛らしさがあり、そして、そんな庇護欲を誘うベリーキュートな生物が生まれたままの姿にタオル一枚という実に視覚的によくない格好をしているのだ。そのギャップ萌え、そしてギャップエロの指数は計り知れるものではない。

 古今東西様々な正義が圧倒的な力をふるってきたが、その正義の中でも万国共通のものである『可愛い』。

 そう。今、高の目の前には圧倒的正義が広がる、つまり高は根源的力の結晶に思いっきり殴られているのだ!

 高の、脳のフィラメントが完全に断ち切れた。

 この勝負、ミヤたちの完全勝利であった。


「あ、えっと………じんのうち、絶対に振り向かないでよね!」

「いや、するかよ…………ていうか、そっちも恥ずかしいなら俺ほんと上がるから」

「……それはだめ」

「えぇ―…………」

 不器用同士の必死の交渉により、グダグダながらも最終的に背中合わせでお互い見えないようにして、一緒に入ることとなった。

 ミヤと入ってから温泉の温度が三度ほど高くなった気がする。このままだとのぼせそうである。

「……えっと、そういえば、ここって夜中になると、混浴になるらしいよ」

「ああ、さっき知ったよ……というか、なんでそれと俺がいること知ってて入ってい来たんだ?」

「えっと………入りたかったから?」

「なぜに疑問形………」

 お互い、何も纏うものがないというだけで、いつものように滑らかに会話ができない。そればかりか、胸が苦しいほど鳴り響き、息も若干荒い。

 百鬼と対峙した時もこんなにはならなかったというというのに、まったく、自身の不甲斐なさにがっくり来る。

「……あ、あー、ミヤ。そういえば、今回の旅、どうだった?きつかったか?」

 そんな腑抜けた自分に抵抗とばかりに高は口を開く。

「え?えっと、楽しかったよ。あ、いや、まだ妖退治は終わってないし、楽しい、かな?吹雪とか、燈とか、和夜さん、風牙さん。そして、じんのうちといろんなところを見たり聞いたりできて私はすごく嬉しかった。………これからも、みんなと一緒いろんなところに行けたらな……って思ったり…………って、こんな感想じゃ不謹慎だよね………」

「……別に、いいと思うぞ?不謹慎って言われたらそうかもしれないけど、仕事ってのはある程度楽しんでやった方が結果にも出るんだ。だから、俺も結構この旅楽しんでるよ。……それに、俺たちは人の笑顔のために戦ってるんだ。そんな俺らが暗い顔してたらみんなを笑顔になんてできないだろう?」

 ミヤの不安を取り除いてやりたいって気持ちと、自分が上に立つものとして結構真面目に考えていたものに触れるところもあったためついいつもより饒舌に語ってしまった。

 高は少し恥ずかしくなりながらも、咳払いをしてまとめをする。

「ごほん………だから、ミヤにはちゃんと楽しんでほしい。いろんなものを見て、いろんなことを思ってほしい。………そして、俺らと……俺といろんなところに行ってほしい………」

「…………………うん、そうだね………いっしょに、行きたい」

 えらく長い間の後、高の背中からミヤは、蚊のような小さな声でそう、返した。

 温泉の温度がさらに上がった気がする。

「………なあ、ミヤ。ここの星はきれいだな」

「……え、う、うん」

 久しぶりにミヤと自分の本当の心で語り合ったからかもしれない、そこから緊張の糸は切れて、高はぽつりぽつりといろんなことをミヤに話していった。

「……そういえば、ここは来週に大きな祭りをするらしいぞ」

「う、うん………」

「……ミヤは魚が好きだったよな。この仕事が終わったらいいのを買っていこう」

「……うん………ありがと……」

「……ここは水の都だが、遠くには火の都ってのもあるんだぞ」

「………………うん……」

 高が何かを言うと、ミヤが歯切れ悪く返事をしてくれる。

 しかし、高はその歯切れの悪さの理由が、だんだんと変わっていくのに気づかなかった。

「………それでな。……あれ、ミヤ?どうした?この話つまらなかったか?」

 ミヤの気配に異変が生じていることに気付いた高は、気持ち後ろを向きながらミヤに問いかける。

「ミヤ?………うわっ!?」

 途端、高の体は何者かによって背後からつかまれ、強制的に振り向かされてしまう。

「なんだ……はっ!?」

 そして広がる、圧倒的肌色。

 目の前には、温泉に入っていたため……というにはちょっと無理があるほどに朱が混じった頬に、やけにとろんだ目をしたミヤがいた。

 手ぬぐいは、ギリギリで彼女の一番大切なところを隠してはいるが、その乳房(ちょっと薄い)は完全に開け放たれ、ただでさえ女性経験が皆無な高にはあまりにも大きすぎる視覚的刺激であった。

「ちょ、ミヤ、なにやってんだ!?」

「………じんのうち………好き」

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