ついに新章突入できますよ。やったね! 第十五章
第十五章 幹部総会
「ミヤ、今日一緒に鏖妖組に来てくれなか?」
「?……うん、いいよ」
八月のはじめ。うだるような暑さが二人の体を侵し続け、セミの声が煩わしい中、突然の高の言葉にミヤは、首をかしげる……ことも、耳をピコピコさせることもなく、ただ首を縦に振った。というのも、ミヤにとって鏖妖組への訪問は日課とまではいかなくとも、ほぼ毎週訪れているためほとんど習慣と化しているのだ。
訪問の理由は例えば定期で行う検査であったり、吹雪や斑と駄弁りに行ったり、異能について教えてもらったりで様々だ。
ちなみに、最初はやはり、部外者のミヤがこんなに職場に来ていいのだろうかという気持ちがあったのだが、鏖妖組で関わる人がみんないい人で、さらに職場もものすごくアットホームな感じで、今ではもう第二の実家のように思っている。
「……えっと、今日はなんで行くの?」
「ん、ああ。ちょっと、ミヤには総会に参加してほしんだ」
「総会?」
耳慣れない単語が通り過ぎた。
「ああ、総会、幹部総会ってのは、鏖妖組の隊長、副隊長たちが一か月に一度集まって話し合いする会のことだ。ちょっと、それでミヤにとって大事な話があるから出てほしくてな」
「?……まあ、いいけど……今ここでいうのじゃダメなの?……というかそんなすごそうな会に私出ちゃっていいの?」
「まあ、ちょっとこれはみんなに聞いてほしい話だからな………それと、別に大した会じゃないからそんなに身構えなくてもいいぞ」
「いや、今隊長副隊長って言ったじゃん………」
高はそう言うが、それは高自身が頭取だからであって、ミヤのような一般人が隊長とか副隊長とか言われたら身構えるのが普通だ。
しかし、ミヤの心情は気づかれることはなく、高はもう黙々と準備をしている。
仕方なく、ミヤもよそ行きに着替えたり髪を整えたり、まとめた髪に銀お手製の簪を付けたりし始めたのであった。
「……何度やっても、やっぱりこれは慣れないな~」
「そうか?……俺はあんまり気にならんが………」
場所は変わり、鏖妖組の竹林。
ミヤたちはほんの少し前に、家から転移異能を使って飛んできたのである。
そして、ミヤが何度やっても慣れないのはこれである。鏖妖組に最初に来た時に、空き時間に目を閉じて、鏖妖組の場所を思い浮かべるだけで転移できるように処置してもらったのだが、目を開けると自分が全く違う場所にいるという違和感はいまだぬぐい切れない。……まあ、最初にやったあの大量の光と爆音が鳴るやつよりは遥かに便利なため文句は言ってられないのだが……。
「あら~、ミヤちゃん、いらっしゃ~い」
高とともに歩いていると、前方から柔らかな声音が聞こえてきた。
「あ、吹雪。お掃除お疲れ様」
「おお吹雪、いつもありがとうな」
声の主は、吹雪。ミヤの初めての友達で、白銀の髪を持つ優しそうな少女である。
ちなみに、そんな彼女は今、初対面の時と同じで表を箒で掃いていた。というか、吹雪は鏖妖組ではよく掃除をやっている。曰く、二番隊は吹雪一人しかいないため書類仕事も少なく結構暇な時間が多いからだそうだ。
そして、その吹雪の日課にミヤが付き合うのももはや日課と化していた。
今日も吹雪の掃除の手伝いをしようと、高にアイコンタクトで許可を取る。
もちろん、とOKをもらうと、ミヤは箒を取りに行こうと動き出す。
と、少し遠くの方に、今日は吹雪のほかにも掃除をしている人がいることに気が付く。それと同時に、あっちの方も気づいたようだ。ミヤたちの方へ駆け寄ってくると、ミヤたちに向かって鈴のように弾む声で話しかけた。
「おっ、高ちゃん、お帰り!………ん?そっちの子は……もしかしてミヤちゃん?」
綺麗……というより可愛らしい女性である。
整った鼻梁に、ぷっくりとした唇。少女のような雰囲気を持ちながらも、出るとこは出て引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる抜群のプロポ―ジョン。そして、彼女のイメージによくあった藍と薄い黄色で仕上げられた着物。
しかし、彼女の容姿を語る上ではそれらはわき役にすぎないだろう。夏の日差しに反射してキラキラと輝く、黄金の髪と、すべてを飲み込むように深い瑠璃色の瞳が、彼女を絶世の美女たらしめていた。
彼女には、いろいろと聞きたいことがあった。なぜミヤのことを知っているのかとか、そして高ちゃんとはなんだとか。しかし、それよりも優先度の高い疑問がミヤの頭には存在した。
なぜだか、彼女は初めて会った気がしないのだ。何とも言えぬ既視感が彼女から漂っている。しかも、その既視感はここ最近何度も現れている。
そこが謎なのだ。初めて会った気がしないのは鏖妖組のどこかで見かけたからだと説明がつくのだが、ミヤと頻繁に会っているとなると、高や斑、それに吹雪くらいしか心当たりがない。
その三人の顔が芋づる式に浮かんできたとき、ミヤの頭にスパークが瞬き、急速に謎が解けていく。
「あなたは………吹雪の妹さん?」
そう、彼女の顔は髪を下した時の狂戦士吹雪にと激似していたのだ。
「おっ、わかっちゃった?そうだよ、私の名前は烏魔燈。姉さん、鬼波吹雪の妹だよ。よろしくね!」
ミヤの言葉に黄金の少女は一瞬の間、目を見張るがやがて吹雪の温かみのあるそれとは少し違う無邪気な笑みで自己紹介をしてくれた。
彼女の余りに人懐こい様子から、ミヤは初対面の時、独特の緊張感をすぐに捨て去り自己紹介を返す。
「はい、……えっと、私はミヤって言います。こちらこそよろしくお願いします!」
「うん!……あ、あと敬語はいいよ。私も使われるとムズムズしちゃうからさ」
まあ、緊張感がなくなったっといっても敬語のままだったので秒で指摘されたのだが。
「あ、わかりま……わかった。じゃあ、私も掃除したいからちょっと箒とってくるね」
「は~い、行ってらしゃい~」「うん、了解!」
「………あ~、じゃあ俺はちょっとやることがあるから先に行っとくわ。三人ともちゃんと総会には時間どうりに来てくれよ」
完全に蚊帳の外になっていた高は少し気まずそうに声を出すと、そのまま建物の中へ入っていった。
少ししてミヤも箒を手にし表まで戻ってくると、
「じゃあ、あまり高くんたちを困らせるのも悪いし早く終わらせて総会に行きましょうか~?」
『おー!』
吹雪の号令に、ミヤと燈はやる気に満ちた声で返事をした。
十数分後。表の掃除が終わり、ミヤたちは掃除道具を片付けると、いよいよ総会にへと赴いた。
「ん?燈も来るってことは、燈も幹部なの?」
「そうだよ。私も一応、一番隊の隊長やってるんだよ~」
三人は今、総会のある部屋に向かっているところなのだが、なんと、燈までもが鏖妖組の幹部だそうだ。そう、ミヤの鏖妖組の知り合いはほぼ全員が幹部なのである。そう考えると、もの凄く恐れ多い気がする。
「………あれ?燈の苗字の烏魔って風牙さんと一緒だよね?ん、でも姉妹なのは吹雪と燈……どういうこと?」
「ん?ああ。それは私と風くんが結婚してるからだよ」
「え!?」
「あ、着いたー!」
正直もの凄く気になる内容だったのだが、総会会場についてしまったため話の流れが切れる。
ミヤは内心歯噛みしながらも、吹雪が開けてくれた襖から中へ入る。
その空間を一言で表すなら、地獄の門だろうか。
ただ、十人ばかりの人が集まっている場所なだけなのに、そこからはひとかけらの無礼をしようものなら即刻胴と首が泣き別れするどころではなく、全身がばらばらに切り刻まれるような圧倒的死の圧が全体に張り巡らされていた。
全身から嫌な汗が噴き出す。のどが妙に乾く。熱い。いや、全身に寒気がいきわたる。
この世のあらゆる緊張感がミヤを襲い掛かり、一瞬にして思考が瓦解する。そして、その瓦礫となった知識の都市の中で唯一あるのは今すぐ逃げろという生物的直観であった。
「失礼しました」
ミヤはその一言だけをこぼすと、体を急速回転。すたこらさっさと逃げ出す。
「あら~?、ミヤちゃん、どうしたの~?ここで合ってるわよ~」
しかし、それを止めたのは吹雪。
まさか、親友がここにきて最大の障害になることとは思わなかった。ミヤの脳裏にはなぜか『ブルータス、お前もか』という言葉が浮かんだ。走馬灯だろうか。
「離して吹雪!、私ここにいたら殺されちゃう」
「ん~?何を言ってるの~?ここにミヤちゃんを殺そうなんて人は誰もいないわよ?」
「そんなことないって!だって………あれ?」
ミヤは吹雪にいかに自分が危険な状況にあるか示そうと、再度か部屋の中を見る。しかし、なぜかさっきまでの威圧感はどこにやら、今は暖かい……というか必死に笑いをこらえようとする愉快な雰囲気が部屋を満たしていた。
「へ?………へ?」
先ほどとは全く別の意味で唖然し、素っ頓狂な声を上げるしかないミヤ。
そんなミヤを見て、たまらないとばかりに部屋にいた全員が笑い出す。それを見てさらに状況の理解ができないミヤ。もはや永久機関であった。
と、その中から大柄の男性が代表で、笑いを必死にこらえながら出てくる。
三番隊隊長である、和夜である。
「すまんすまん。ちょっと嬢ちゃんたちにいたずらしてやろうってなってな……ククッ。いや―それにしてもいい反応してくれるな、嬢ちゃん」
「えっ?……あ、ああ……そういうこと………」
急速に腑に落ちていくミヤ。
どうやら、彼らは私たち三人を驚かせるためにわざと殺気を練って、それをぶつけてきたらしい。何ともはた迷惑ないたずらだ。
「はあ……心臓に悪いので今度からそれ絶対にやらないでくださいよ……なんかものすごく疲れました」
「すまねぇすまねぇ。まあ、実際はだれも嬢ちゃんに敵対心を抱いていないから安心してくれよ」
「ごめんね~。ここの人たち基本的に年甲斐もなくこういう遊びが大好きなのよ。私からも言っておくから、ミヤちゃん許してね~」
ちょっと釈然としないおころはあるが、吹雪に言われてしまうと何とも言えなくなってしまうミヤ。
まあいいかと、おとなしく中へと入る。
「そういえば、吹雪はあの雰囲気で怖いとか思わなかったの?」
「ん~?まあ、私はみんなと結構長い間いるから冗談かどうかはある程度わかるからね~」
「へえ、そういうものなんだね~。………あれ、そういえば燈は?」
ミヤは一緒に来ていた燈が先ほどから全く反応を示さないことに気が付き、あたりをきょろきょろと見まわす。
と、燈は別に遠くに行ったわけでもなく至って近く、というか入口のすぐそばに立っていた。
ただ、
「あ、燈………ん?どうかしたの燈?」
「………………」
「ん?……え、もしかして気失ってる?」
そう、燈は彼らの覇気に浴びせられて立ったまま気絶していたのだ。
「うそぉ…………」
ミヤは彼女の反応に驚く傍ら、親近感を沸かせていた。彼女ともいい関係になれそうだ。
遠くで、再度、和夜達の笑い声がこだました。
「じゃあ、ミヤちゃんが知ってる人も多いけど一応自己紹介ときましょうか」
ミヤたちが会場についてから十数分後。燈の意識が回復し、吹雪がそれを待ってましたといった感じで、自己紹介の狼煙を上げたのであった。意識が戻った燈はばつが悪いといった感じでミヤの正面左斜めにこじんまりと座っている。
ちなみに、会場はそこそこ大きな座敷で、一番奥の壁には大きな字で『鏖』と書いてあり、言っちゃ悪いが妖から人を守るというよりは反社会勢力のそれに近かった。
また、座敷に集められた人は今のところミヤを合わせて十人。おそらく各隊の隊長副隊長であろう。頭取と副頭取である高と風牙はまだ来ていない。
そして、それら十名が『鏖』の字から見て、左に六人、右に四人が縦に並んで座っている。ミヤは左の列の二番目に座っている。
「あ、じゃ、じゃあ私から行くね!」
最初にそれに乗っかったのは右列の一番最初、燈。先ほどの自分の痴態を吹き飛ばすがごとく勢い良く手を上げる。
「私の名前は烏魔燈だよ!……えっと、これからたくさん仲良くしていこうね、ミヤちゃん!」
燈はご自慢の太陽のようにまぶしい笑顔で、そう語りかけてくれた。つられて、ミヤも静かに微笑みを浮かべ、首を前に倒し趣向の意を示す。
その様子を見て燈はさらにくしゃりと頬を緩めた。
「じゃあ、次は私かな?」
次に、燈の隣、右列の二番目のおじいさんが声を上げる。灰の着物の上に、深緑の羽織を羽織り、鍔なし刀を肩で支える様は幾度もの修羅場を乗り越えてきた老戦士のようだが、彼の浮かべる柔和そうな笑みや欠片もない闘気からは彼を年相応のご老人に仕立て上げていた。
「私の名前は芥子畑彼岸。一番隊の副隊長をしているから、以後よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、次は私~」
続いて、ミヤの隣、左列の一番目の吹雪が朗らかな笑みを浮かべ挙手をする。
「私は、鬼波吹雪よ~。これからもよろしくね~」
「うん、よろしく!」
次は、右列の三番目。見た目は完全に反社会的勢力だが、根はまじめで優しいギャップ萌えの和夜である。
「俺は鬼波和夜だ。俺のことはどうでもいいんだが、まあ、吹雪とはこれからも仲良くしてやってくれ」
「ははは………こっちからお願いしたいですよ。それに和夜さんも別にどうでもよくないですよ。これからもよろしくお願いしますね」
なんか自己紹介というか、友達の父親とのあいさつみたいになったが、ミヤはそれについては言及しないでおこうと思った。
そのままの流れで、次は右列の最後尾。
頬に大きな十字の傷のある男性である。体も大きく、人を射殺さんとする特大の目つきの悪さから、和夜ちょっと反社会的なオーラをまとっている。
「……夜刀守狛。よろしく」
あまりにも淡白すぎる自己紹介にミヤが数瞬の間呆気に取られていると、その隙に、
「兎川流水。………よろしくなの」
隣に座っていた少女が狛同様、短すぎる自己紹介をしてしまったのである。
ちなみに、その少女、流水は虚ろな様子の少女であった。年齢はミヤよりも一つか二つ年下だろう、背丈もミヤの方が一回りから二回り大きい。しかし、今にもはちきれんほどに圧倒的な存在感を放つ二つの双丘は、ミヤの少しだけ盛り上がった小丘程度では全く太刀打ちできない。
そんな抜群のプロポーションを誇る彼女であるが、その瞳は焦点が定まっておらず、まるで起きながら夢の中にいるような人であった。
まあ、彼ら彼女らの容姿については今はさほど関係しておらず、大事なのはこの何とも言えぬ空気をどうするのかということであった。
二人を除く全員は思考を巡らし、そして逡巡の後最初に動いたのはるミヤではない方の流水の隣、勝気そうな吊り目がちの女性である。
「こらこら、狛、流水。お嬢ちゃんが困ってるじゃないか。………ごめんね、いい子たちなんだけどちょっと人見知り気味でね、別にお嬢ちゃんが嫌いなわけではないんだよ。わかってくれるかい?」
「は、はい。それは別に大丈夫です………」
この中の女性たちの中で、おそらく一番お姉さんであろう彼女は、やはり大人の対応で双方のフォローを欠かさずこの場での最適解を導き出したのであった。鏖妖組を一家族とすると、なんとなく吹雪が優しいお姉さんで、この人が肝っ玉お母さんといった感じである。
「……ああ。私の名前は神無月時雨。4番隊の副隊長だよ。……あ、あと狛は三番隊の副隊長で、流水は四番隊の隊長だ。この子たちのこともよろしくね」
「は、はい。わかりました」
まさかこの自己紹介で、和夜との友達のお父さんとの挨拶のようなものをしただけでなく、時雨との友達のお母さんとの挨拶のようなものまでもするとは。ミヤはあまりにもアットホームという言葉が似合うこの職場に少しの間唖然としてしまった。
先ほどは若干空気が冷え込んだが、それも時雨によりまた和気あいあいとしたものとなり、その流れで次の人、左列の五番目の斑へとつながる。
「えっと、次は私か。……私は医賀斑。ミヤちゃん、これからも一緒に舐めあ……仲良くしていこうね」
「今舐めあうって言ったよね?私、斑ちゃんと舐めあったことなんてないんだけど!?」
「まあまあ、細かいことはとりあえず置いといて。……何ならこれが終わったら裏でどう?」
「それやったとしても斑ちゃんが一方的に舐めるだけになるよねえ!?」
自己紹介をされるだけだというのにやけに疲れたミヤであった。
一悶着も二悶着もあった自己紹介であったがいよいよ終盤に差し掛かった。左列の最後尾、聖呪が名乗りを上げる。
「五番隊副隊長の解原聖呪です。ミヤさん、これからよろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします。…あ、あとこの簪の件についてはありがとうございました」
自身の側頭部、ちょうど簪を挿しているところを見るようなしぐさをしながらミヤは、聖呪に再度礼を言う。聖呪はそれを聞くと、この前会ったときと変わらない朗らかな笑みを浮かべた。
「ああ、役に立ったらよかったですよ。こちらこそ使ってもらってありがとうございます!」
その言葉を最後に、鏖妖組側の自己紹介はすべて終わった。
あとは最後にミヤの自己紹介をするだけである。まさか相手にだけさせるわけにはいかないだろう。
ミヤは話の内容を逡巡すると、静かに言の葉を紡ぎだす。
「えっと、じゃあ最後に私が。……ご存じの通りミヤです。これから色々お世話になるかもしれませんがよろしくお願いします!」
ミヤの言葉に各々が「よろしく~」や「おう」などの反応を示す。
そして、最初よりもさらに空気が弛緩した総会会場であった。
「すまん、遅れた」「ごめんなさーい!遅れました~」
自己紹介の後、ミヤは幹部の人たちと雑談を初めて十数分後、高が堂々と左の襖を、風牙があわただしく右の襖をあけながら会場になだれ込んできた。
「遅いぞ、高、風牙」
幹部を代表して和夜が口を開く。
「いや~すまんすまん。ちょっと足止め食らってな」
高は両手を合わせながら反省の意をあらわにする。ちなみに風牙も同じポーズをしていた。
「………ったく、次は遅れるなよ」
「おう!」「はい!」
和夜の追及も終わり覇気のある返事の後、彼らは『鏖』の字のすぐ前、つまりお誕生日席の位置に腰かける。
「じゃあ、始めるか!」
『おう!』
勢いの好い号令により、いよいよ幹部総会が幕を上げる。
「じゃあ、先月の事例について、吹雪頼む」
「は~い」
高に名指しされ、吹雪は朗らかに笑うと、どこから持ってきたのか十数枚の紙を出し、それを読み上げていく。
「えっと~……まずは7月2日に2級の妖を華の都で祓ったわ~。祓ったのは3番隊の………」
それから少しの間、報告が続いた。
ちなみに報告に出てきた妖の等級がすべて2級以上であったため、鏖妖組のすごさを再認識させられたミヤであった。
「………計37体。先月祓った妖の報告は以上よ~。何か付け足しがある人はいる~?」
ある程度の報告が終わり、吹雪が一度そう問う。
と、それに合わせて和夜がバッと手を上げる。
「………妖を祓い、人々を救うのが俺たちの仕事だ」
いきなり悟ったように語りだす和夜。何故かあたりは暗くなって、そこにだけスポットライトが当たっているように見えた。
「………それに関しちゃ、俺たちはほんとによくやってると思うよ。一級だったり百鬼だったりを相手にしてさ………だが」
その二文字を言った途端、イマジナリースポットライトが霧散し、語気にも大いなる怒りが混ざる。
「手前ぇらは妖と一緒に街まで破壊してるじゃねえか!?本末転倒にもほどがあるだろ!特に燈!お前先月だけで何件の苦情と請求書が来たと思ってやがる?……おい、そこ!目をそらすな!?」
和夜の怒号に皆がばつが悪そうに苦笑いを浮かべ和夜から顔をそむける。
「おいコラ燈………なあ、加減って言葉知ってるか?」
「ハイ……」
「じゃあなんで民家まで壊したのかな?」
「ハイ、スイマセン」
「わかった、理由を言おうか?」
「ハイ………」
ちなみに名指しされていた燈は、マンツーマン説教されていた。もし自分が燈なら和夜の顔があんなに近くにいたらちびるだろうなと思いながら、哀れな燈にそっと手を合わせたのであった。
最終的に燈および幹部たちは和夜に数十分の間こってりと絞られ、最後らへんは燈に至っては搾りかすみたいになっていた。
まあ、一悶着か二悶着かあったりもしたが、総会はギリギリ問題のない範囲で進んだ。ちなみに、その内容は先月に入った組員の確認や、日の輪の地域別の妖の出現率の変化など普通にまじめなものが多く、失礼であることは十分承知だが、ミヤはちゃんとやってると少し感嘆してしまった。
しかし、いずれの内容もミヤにとってはあまり関係ないように思えた。
高はミヤをここに連れてくる際、ミヤにとって大切な話があるためといった。が、おそらく総会も終盤に差し掛かっているであろう今、ミヤに関係が深そうな話はひとかけらも出ることがなかった。
「………えっと、じゃあ報告はこれくらいにしとくか。………じゃあ、最後に……ミヤ、来てくれ」
と。まるでミヤの考えを読んだように、ミヤに関係のありそうな話が高の口から飛び出し、それを聞いたミヤは高の近くに寄る。
「……え~、みんなももう知ってるかと思うが、今俺と一緒に暮らしてる、ミヤだ。使える異能はおそらく回復系のものだ。それで、もう先に何人かには伝えたと思うがミヤはこれから二番隊で副隊長として働いてもらう。……みんな、よろしく頼む」
「……へ?」
最初に声を上げたのはミヤであった。
あまりにも間の抜けた声であった。理解が追い付いていなかった。訳が分からなかった。
しかし、それもおかしいことではないだろう。
ある日突然自分が妖と戦う組織の、しかも二番隊の副隊長に任命されたのだ。
「え?……え?……ちょっと待って?え?わたしが?なんて?」
この世界に来て色々と理解不能なことが起きてきたが、これほどまでわからなかったことがあっただろうか?いや、ない。一つの会話文の中で書く?の数も今回が一番多い。
ミヤの頭は何故か深く突っ込んではいけないような奇妙な反語ができるほど混乱していた。
「ん、聞こえなかったか?……ミヤにはこれから鏖妖組の二番隊副隊長として頑張ってもらう。……まあいきなり大変な仕事押し付けたりとかはしないからそこらへんは安心してくれ」
「いや安心できないよね?……え?……うん、わかった。とりあえず私が鏖妖組に入るってことはとりあえず置いとくとしよう。いや、それも大分おかしいと思うけどね?……で、なんで私なんかが副隊長なの?ほかに適任な人は山ほどいるでしょ?」
「いや、ミヤは『なんか』じゃないぞ。自分をそんなに卑下しないでいい。ミヤは十分に強くてきれいな女の子だよ」
「ばっ!?そんなことを聞いてるんじゃないの!……たとえそうだとしても、私はまだ異能を覚えた手でしょ?それなのにいきなり副隊長はおかしいって言ってるの」
高の無自覚攻撃にミヤは目を白黒、頬を真っ赤にしながらなんとかその疑問だけを叫びきる。無自覚なだけに追求しにくく、その威力は核弾頭レベルである。被害は甚大である。
「ん、そうか?ミヤの異能の能力は普通に高いし、和夜を助けてくれたりもしてるから仲間を大切にする気持ちもあるだろ?それに吹雪の制御もできる。これ以上の適任はないだろう?」
「いや、買いかぶりすぎだから。そもそも私にそんな重役務まる気がしないから………」
「ん、そうか………本当にだめか?」
そして、ここにきて高の見せる大型犬が、遊びに連れて行ってもらえなかった時に見せるような残念そうな瞳。心なしかへこたれた尻尾が見える。
これによりミヤの罪悪感がぶっちする!ミヤの拒否軍は大幅に削られる。もう壊滅状態だ。
「私もミヤちゃんが入ってくれたらうれしいな~。もっと楽しくなるでしょうし~」
「あ、私も私も!私もミヤちゃんともっと仲良くなりたい!」
すかさず援軍、吹雪と燈の奇襲によっていよいよ拒否軍は完全殲滅されてしまった。
「もう、わかりましたよ!やりますよ!皆さんこれからどうぞよろしく!」
やけくそで入団するミヤに、幹部たちは微笑ましい気持ちになりながら誰からともなく拍手が鳴り始めた。
「………あー、じゃあミヤの紹介も終わったところだし、もう一ついいか?」
拍手も鳴りやまった頃、ようやく終わりと思われた総会であったがまだ何かあったようだ。高が少し咳ばらいをしながらそう問いかける。
「えっと、総会の前にちょっと依頼があってな。それの話なんだが……」
そこまで言って、高は少しの間をあける。おそらくそれほど重要な案件なのだろう。
「依頼が来たのは『水の都』の中心街から。依頼内容はもちろん妖の退治だ。そして、その妖なんだが、おそらく上位の百鬼が2、3体だと思う。それで、その討伐に俺と風牙、燈に吹雪、和夜、そしてミヤで行こうと思う。一緒に来てくれるか?」
百鬼とは通常の異能使いが束になっても勝てないような文字通り鬼のような化け物たちである。実際ミヤもその強さと恐ろしさは目に焼き付いて離れない。それに高曰く、百鬼の上位は異能使いの中でも頂点に君臨するであろう高たちが挑んだとて勝てるかわからないほどの異形たちである。
このことから考えて高の選んだ人選には大きな誤りがあることがわかる。特に『ミヤ』の部分が。
「ああ、そういえばこの討伐にはたぶんだけどミヤの力が必要になってくると思う。ミヤには入った直後で悪いが頼まれてほしい。お願いできるか?」
なんと先に逃げ道をふさがれてしまった。こうなるとミヤは肯定以外の言葉を発せなくなる。高、恐ろしい子!?
「わ、わかった。一緒に行くよ………」
「ああ、ありがとう。……みんなもついてきてくれるか?」
高が吹雪や和夜を見まわしながらそう問うと、先ほど呼ばれた全員が威勢よく是と示した。
「ありがとう!じゃあ出発は明日の朝。みんなそれまではゆっくりしといてくれ。………じゃあこれで今回の総会は終わりだ!みんな解散!」
正直自分だけ足手まといすぎないかと思うが、周りはもう完全にやってやるぞというキラキラした空気に入っているためミヤはもう何も言いだすことができない。
そうして、そこはかとない不安を残しながら総会は終わりを告げたのであった。




