タイトルのネタがない! 第十四章
「お、着いたぞ。ここだ、ここ」
ミヤの少し前を歩いていた高が歩みを止め、すぐ隣の部屋を指さす。
高の示す指の先には、先ほど訪れた聖呪の部屋と同じくらい妙な光景が広がっていた。
聖呪の部屋(部屋…なのか?)は西洋式であったため周りと浮いていたが、今度はシンプルに変な建物である。先ほどまで屋敷の側面は壁や障子、襖くらいであったが、ここだけ何故か鋼鉄製である。猛獣でも敗れないほどの厳重な壁は、まるでそこだけが猟奇殺人者の独房か、はたまた何百本もの金塊の保管庫かのようであった。
正直この時点で大分おかしいのだが、近くに転がる何かよくわからない鉄の塊や、これまた使用用途のわからないカラフルな棒、そして、時折中から聞こえる、キュピーーーン、とか、シュキャーーン、とかいう音がよりカオスを醸し出していた。
例えるなら、昨日の医務室(第十二章参照)。いや、それよりも酷いかもしれない。
ミヤがそんなことを考えている間に、そこが扉なのだろう、高は鋼鉄の壁に唯一開いている格子の場所にまで行き、何の躊躇もなく、思いっきりその扉を蹴っ飛ばした。
流石は鏖妖組の頭取、扉はきれいに壊れ、部屋の中へとフライアウェイする。
「えぇ!!?ちょっとじんのうち、何やってんの!?」
高の突然の奇行、というか破壊行動にミヤは目の玉が引ん剝くほどの驚きを見せる。
しかし、それだけでは高は止まらない。今度は、
「おい、銀!いるか、いねえのか!?……この安本丹!いるならさっさと言いやがれ!そんなこともできねえのかこの雌豚!?」
あろうことか、その部屋の主にもの凄い暴言を吐きだしたのだ。
「ちょっと、じんのうち?いくらなんでもそれは非道すぎるよ!?どうしちゃったの?今のじんのうちちょっとおかしいよ?…………あの、ごめんなさいね。じんのうちは普段はこうじゃないんです。なんか今日は気が動転しているみたいで…。ほら高も謝って………って、ん?」
高のあるまじき言動に、ミヤもフォローに回ろうと蹴破られたドアから中を覗き、その部屋の主に謝罪をする………が、主の様子を見て固まってしまう。
部屋の様子は、まさに鍛冶屋といった感じで、床は廊下から数段下がって土作りである。壁の隅には大きなかまどが取り付けられており、中は赤々としていた。他にも、水槽や大きな砥石、たくさんの道具がそこらかしこに散らばっていた。
そして、その真ん中に座る女性がいた。年齢は吹雪+4歳というところだろうか。長く、艶のある黒髪に、整っておしとやかな雰囲気の顔つき。そして、まるで聖母のような豊満な肉体。恰好がつなぎで手には鉄槌を持っているところ以外は、まさに大和撫子。日の輪が誇る美の結晶であった!
そんな美女が今、この小説に挿絵なんて豪華なものがなくてよかったと思うほどの女の子がしてはいけない顔(詳しい描写は控えさせてもらうが、とにかくもうびしょびしょであった。どこがとは言わないが)をしながら「…ああ、もっと、もっと頂戴♡」と呟いていたのである。
「………これで分かったか?…みや、こいつ、鏖妖組鍛冶長、槌羅 銀は罵られることで興奮を覚える重度の変態だ。こいつに仕事を頼むときはこうやって罵ってやる気を出させなければならない」
唖然とするしかないミヤの隣で、高がは鼻根を抑えながらそう言う。
その言葉にミヤは生返事しかできなかった。
「おい、雌豚。何もできねえお前が人様の役に立ついい機会だ。この設計図通りに今すぐ作りやがれ。十分以内だからな!」
高は、ミヤと話していた時の口調をさっきのDV高のものにすると、銀にそう吐き捨て、それと同時に聖呪の設計図も彼女の近くに投げ捨てた。
「は、はひぃ!」
高の言葉に更なる興奮を覚えた銀は、やる気満々で作業に入る。まあ、あまりの興奮で腰は砕けて這いながらの作業となったが。
そこから、本当に10分ほどで彼女の作業は終わった。作業を終わらせた彼女は、光悦とした表情で高にその品を持ってきた。
「ご主人様、わたくし、ちゃんと10分で終わらせました。なので、なので、この哀れな雌豚めにお慈悲を、お慈悲を~~~」
そして、息も絶え絶えにそう言ったのであった。
「いやだ」
しかし、銀の必死のおねだりも空しく、高はものすごく嫌そうな顔をしながらきっぱりと断る。
「あ~ん!これが、放置?これが放置プレエなの~!?」
まあ、本人は気にするどころかその答えにすら興奮を覚えていた。そのあまりにも逞しすぎる姿にミヤは脱帽ものであった。
すると、彼女は今度はミヤにいやに艶めかしい動作で近づいてきた。
「ねえ~、私、銀っていうんだけどさ~。あ、呼び方は愚図とか雌豚とか雌犬とかでいいよ。ねえねえ、私あなたのために頑張ったよね~?だから、ちょこーっとだけご褒美が欲しいんだ~。ああ、別に大したことないから、ちょっと、私の頭を踏んで、遅いんだよこの愚図って罵ってもらうだけでいいから。ねっ、お願い!」
「ひっ!」
ミヤの知りえない性癖を思い切り露呈しながら迫りくる銀にミヤは割と本気で恐怖した。か細い悲鳴がこぼれ出る。
「おいコラ、銀」
すると、高がそんなミヤの肩を抱き、後ろから銀を遠ざけるように彼女の顔を踏む。図らずも銀の望みが叶ってしまったわけだ。銀はいい意味で悶絶していた。
「なあ、これ作ってくれたことは感謝するけどよ、もうちょっとその性格どうにかならんものなのか?」
「無理だよ~。だって性格と私ってほぼ同じじゃん?性格変えちゃったら私が私じゃなくなるじゃん?…よし、これで帯コメは私のものだな」
最後に言っていることはよくわからない、というか、絶対に叶わないことなので流すことにしたが、前半は比較的まともなことを言っていて、ミヤは銀の評価を改めることとなった。
「てことで~、ご褒美に私を踏んで~!」
前言撤回。銀、ヤバい、近寄るな。
「あ、そうだ。せっかく作ったんだからそれ使ってよ、ミヤちゃん?」
銀に絡まれて数分。お互いの自己紹介も済ませたりして、話はいよいよ本題に入る。
「あ、そうですね。じゃあ、使います。じんのうち、ちょっと貸して?」
「ああ」
高が先ほど銀から預かったものをミヤに渡す。
「おお」
ミヤは両手で受け取ったものに目を奪われる。それは細緻な装飾がなされたきれいな簪だった。黒曜石のように黒光りする笄(簪の棒の部分)にその先端に咲く淡い桃色の桜の花の装飾がとても可愛らしかった。
「……じゃ、じゃあつけますね」
数秒の間目を奪われて、反応をしなかったことに若干の気まずさを覚えながらも、ミヤは髪をまとめそっと簪を挿し込む。
簪を挿して数秒が経つと、ミヤの耳としっぽが光ったと思うと、そのまま光の粒になり消えてしまう。
次に、ミヤはさっきまで自分の耳としっぽがあった場所に手を触れるも、その手は空を切るだけであった。それに、自分の体をべたべたと障っていると、側頭部の下の方に新しい耳ができている。
さらに、さっきまでしっぽがあった場所の付け根。そこは、しっぽが外に出るように着物に穴をあけているのだが、その着物の穴も消えている。
「おお、思ったよりうまく動いてるね。ミヤちゃんの妖力がよかったのかな?」
銀が感心するようにそう言う。彼女もここまでとは予想してなかったらしい。
「ああ、そうだな。でも、銀の腕もあるんじゃないか?ありがとうな、銀」
「私もきっとそうだと思います。銀さん、ほんとにありがとうございました」
高の言葉にミヤは首肯する。
「え~、そんな言われたら照れちゃうな~。じゃあ、ご褒美に踏んでよ~」
「いえ、それは、お断りです」
「ばっさり切り捨てる!それはそれでお姉さん濡れてきちゃったよ~!ね、ねえもう一回もう一回行ってくれないかな?」
「は、はは」
感謝した途端これである。高も同じ考えに至ったらしい。そそくさと変える用意を始めている。
「じゃ、じゃあ、私たちもう行きますね。今日はありがとうございました!」
「俺からもありがとうな。…じゃ、またな、銀」
「あ、ちょ、まっ……あ、でもこれはこれで放置ぷれぇ………」
銀がまた何か言っていたが、言い切る前に高は先ほど蹴とばした扉を拾って元あった場所にがっちりとはめたことで、銀の声は聞こえなくなった。
「じゃ、帰るか」
「うん、そうだね」
「ちょっと待て~~~~!!」
ミヤたちがここに来た用事を完全に終わらせて、吹雪たちに挨拶をしてそろそろ帰ろうとしていた頃。突然後方から甲高い声が響いた。
振り返ると、斑色の髪の小さな少女、斑が仁王立ちで立っていた。何故か、頬がちょっとやつれていたような気がするが大丈夫なのだろうか?
「ん?待っててどういうこと?」
「いや、どうもこうもないでしょ!?ミヤちゃんはここに検査に来たんでしょ?わたしを抜いて検査とは言わないでしょう?」
「ああ、言われてみれば……」
斑があまりにもぽくないため忘れていたが、斑はここの医務官をやっていたのであった。それに、確かに検査に医者の目は必要であろう。
「わかったのならよろしい!てことで今すぐやろう!ささ、私の部屋で診るからこっちへ来て」
「え、ちょ、まっ!?わあああ!」
自分よりも年下で小柄な斑になすすべなく引っ張られるミヤ。先ほど銀にプレイを強いられていた時助けてくれた高も、今はただ唖然とするしかなく、その間にミヤは連れ去られてしまった。
そして、鏖妖組の廊下をずんずんと進み、数秒後にはなんと医務室の隣、おそらく斑の部屋についたのであった。ミヤたちが歩いていたところから医務室まで相当の距離があったはずだが不思議である。
そのまま、斑はミヤと飛び込むように部屋に入ると、流れるような手つきでミヤの服を脱がせ始めた。
「え、斑ちゃん!何やってるの!?」
「え、なにって、これから検査するのに、服で隠れてちゃ見えないでしょ?」
「ま、まあ、そうだけど……」
「大丈夫だって、ここには私たちしかいないから別に恥ずかしがらなくていいよ」
斑の言い分はしっかりと芯が通っていて、わからないこともないのだが、なぜか斑が言うとその裏があるように思えてしまい、ミヤは素直にはいということができない。そんな思考を感じ取ったのか、斑はいよいよ直接行使に及んできた。
「もお~、そんなに恥ずかしいなら、私がほぐしてあげるよ……ぺろっ」
「ひゃんっ!」
斑は、ミヤの衣服を半分まではだけさせて、先ほど銀に作ってもらった簪を抜き取り、近くにあった机に大事に置くと、むき出しになった猫耳をぺろりと舐めたのだ。
ミヤの、全身の毛が逆立ち、何とも言えぬこそばゆさと快感が脳を駆け巡る。頬が熱くなり、全身の力が抜けていくのを感じる。
「へえ、耳が弱いんだ。………じゃあ、うまく緊張もほぐれたところで、検査と行こうか?」
斑は、ミヤの力が抜けたのを見計らうと、素早く手慣れた手つきで、服をすべて脱がし、今度は耳のそばでそうささやく。彼女の言葉とともに飛び出る空気の流れが耳に触れ、またもミヤの脳内に快感が大量に分泌される。
「えっと……耳は人よりも少し感度がいい………どう、気持ちい?」
斑は再度、ミヤの耳を(今度は念入りにいろいろなところを)触った!
ミヤの言語力が下がった!
「にゃ、ああ……みゃあ!!」
「なるほどなるほど。極度の緊張状態になると、語彙に猫の片鱗を見ると……じゃあ、こっちはどうかな?」
斑は今度は、ミヤのしっぽを(高が触った時よりも手つきが艶めかしかった。というか、今考えたらあれは狙ってやってたと思う)触った!
ミヤの快感が上がった!
「うーん、今のところ前に高からもらったデータ以上のことは見つけられないな~?やっぱり、高が調べてないところを調べないと!」
斑の視線がミヤの下腹部にそそぐ(というかそれよりもちょっと下だった)!
ミヤは、快感の中にも一筋の恐怖を感じた!
「じゃ、じゃあ、ここも調べてみよっか~?」
「にゃ、にゃ、にゃああああああああ!!!!」
後日、斑はしばらく顔を見せることがなかったという。
いや、別に外に出なかったというわけではなく、本当に顔が見れなかったのだ。
彼女にあった人曰く、斑は顔にはぐるぐると包帯が巻かれ、その隙間から見える彼女の傷は猫のひっかき傷のようなものだったらしい。




