この話、異能ラブコメかたってる割にラブコメ要素少なくない? 第十三章
第十三章 検査
「あのー、斑さん大丈夫ですか?」
「…………っ!?はっ!!」
怒涛の一日が終わりをつげ、穏やかな新しい一日が始まってからもうだいぶたった頃、ミヤと吹雪は、なぜか部屋の前でびしょびしょで倒れていた斑を看病していた。
ミヤは昨日、謎に生えている猫の耳としっぽを治すために、高の働いている妖を滅する組織、鏖妖組に来た。そして、そこで初めての友達吹雪と出会ったり、風雅と高の模擬戦を観戦したり、吹雪の夫である和夜に面倒見てもらったりで最終的に、鏖妖組が襲撃されたりでとにかく動きっぱなしであった。
そして、結局ミヤの猫耳を消すという本来の目的を達することなく、一日を明かしたのであった。
「はっ!?………私は一体?…………なんかさっき、ユートピアを垣間見えた気がしたんだけど、吹雪姐なんか知らない?」
「ユートピア?何の言葉かわからないけど、たぶんそんなものはなかったわよ~?」
「え、じゃあ、ミヤちゃんはなんか見覚えない?」
「う~ん?……なかったと思う」
「そっか、うんそうならまあいいけど………あ、そういえば……二人とも一緒にご飯食べに行かない?」
手がかりが見つけられなくて、斑は一瞬落ち込むようなそぶりを見せた。
「ご飯?……どこに?」
「ああ、それはね~、鏖妖組には食堂があるのよ。だから斑ちゃんはそこに行こうって言ってくれてるんじゃないかな~?」
ミヤの疑問に吹雪がすぐに答える。
「うん、そうそう。どうかな?」
「はい、行きましょう!」「そうね~、いいと思うわ~」
二人の趣向を聞くと、斑は、年相応の少女のようなかわいらしい笑みを見せた。
「じゃあ、用意したら出発ね!」
斑の音頭に乗せて、ギリギリ朝の清々しい空気の中「オー!」と三人の可愛らしい声がこだました。
「そういえばミヤちゃんは、何か食べられないものとかはないの?……玉ねぎとか?」
三人の声がこだましてから、少しして準備を整え、食堂まで向かった。その後、三人は品書きから思い思いの料理を頼み、空いていた席に座ったのであった。
机には、ミヤの頼んだ、焼きじゃけ定食、斑の頼んだ、パンケエキという洋菓子、そして吹雪の頼んだ、煮物と焼き魚、ウサギ肉の炭火焼き、きんぴらごぼうを10皿ずつ、そしてご飯を2升、さらにとどめのパンケエキ5枚が所狭しと並べられていた。
先ほどの質問は、向かいの席に座っている斑が発したものである。まあ、もともと小柄なのもあって、吹雪のうず高くつかまれたご飯によってその姿はほとんど見えないが。
「う~ん………今まで、高の作ってくれたごはんに入ってたかはちょっとわからないけど、高のご飯を食べてどうにかなったてことは今まで一度もなかったよ………和夜さんからもらったお菓子も何ともなかったし………」
「へー。猫の身体的特徴もないなんてその体不思議だね。……その体ほんと興味あるわ」
「そんな、不思議ですか?吹雪さんの食べる量のほうがよっぽど不思議ですけど」
「あー、まあ、吹雪姐はしょうがないよ。いろいろ規格外なところがあるから。……ええと、それで、うん、ほんと興味あるよ。ミヤちゃんの体。医務官的にもオンナ的にも」
「それ、話し戻してでも言うことでした?」
早くも二日目で、ミヤの下ネタ耐性いはそこそこ上がったらしい。いや、上がってほしくなかった。
「あ、それよりもさー、私と話すとき敬語じゃなくていいよ」
「いや、話し戻したと思ったらすぐに捨てるんだ。いや、まあ敬語やめるけどさあ」
「じゃあ、改めてよろしくね。ミヤちゃん」
「うん、よろしく。斑ちゃん?」
斑のマシンガントークにより、ミヤがタメ語で話せる人が3人に増えたのであった。
ちなみに、その間吹雪は黙々と大量のご飯を食べ続け、なんとパンケエキ以外をすべて平らげていた。話していたのもあるが、ミヤはまだ、定食の半分も食べていないのにすさまじいスピードである。
と、朝ご飯にしては少し遅い時間帯に来たため、かなり閑散としていた食堂に、一人の少年が入ってきた。
「あ、じんのうち」
少年は、ミヤたちの机の前に立つと、優しく微笑みかけた
「おう、おはよう、ミヤ。………ん?今はおはようなのか?おそよう?…………まあいいか。斑も吹雪もおはよう。はは、ほんと吹雪はよく食うな」
「うん、おはよう」
「あら、おはよ~、高くん」
「なんだよ、なんか用か?ならさっさと言って消えろ」
三種三様のあいさつ(?)によって高は迎えられた。
ちなみに、吹雪はもうご飯をすべて平らげていた。それでいて、先ほどと体型が一ミリも変化していない。恐るべき体である。
「はは、相変わらず斑は男嫌いがひどいな………ああ、そうだ。ミヤ、ごはん食べ終わったらちょっと一緒に来てくれないか?耳としっぽの件で」
「!うん。ちょっと待ってね。すぐ食べるから」
「いや、そんながっつかなくてもいいんだが………」
高は吹雪ほどではないが、勢いよく食べ始めるミヤを見て苦笑する。
ほどなくして、ミヤは完食した。米一粒も残らないきれいな食べ方であった。
「あ、ミヤちゃん、お盆、私が片付けとくよ。……男はさっさと消えてほしいし」
「え、ああ、ありがとう。じゃあ、行かせてもらうね。じゃあ、またね、吹雪、斑ちゃん」
「うん」 「ええ、またね~」
吹雪と斑に手を振りながら別れを告げ、ミヤとは高と、食堂を後にした。
「そういえば、じんのうち、私のこれどうにかしてくれる人ってどんな人なの?」
ミヤは地震の耳をぴくぴくさせながら、そう問うた。
「ああ、そうだな…………まあ、いいやつだよ」
「ほかには?」
「他には………………ああ、優しいぞ」
「へえー。………あ、そういえば、じんのうち、足はもう大丈夫なの?」
「ん?ああ、もう平気だよ。全直疾走だってできるぞ」
「よかった。……………あ、そういえば、その、本当なの?」
ミヤは、高の怪我の話題から、昨日医務室で起きたことを連鎖的に思い出し、そして、できれば忘れていたかった謎を思い出した。
「ん?何が?」
「だから、その………私を探してて足くじいたってこと」
「え!?あ、ああ………ああ、本当だよ」
上気した頬で、短い髪をもてあそぶ高の答えを聞き、ミヤも頬が何故かカッと熱を覚えるのを感じた。
「いや、そのな、自分でもなんでかはわからないんだが、襲撃のことを聞いたとき、とにかくミヤのことが心配になってな………自分でもあれは正気の沙汰ではなかったと………」
「え、私のとこに向かうとき何したの……?」
「え!?あ、いや、そのだな………」
恥辱に任せて、いらないことも口走った高は、今度は口ごもってしまう。
そんな、普段の彼らしからぬ様子に、ミヤは思わず口元を緩めてしまう。
「ふふ、ごめんね、困らせちゃって。……さ、早く行こう。こっちの道で合ってるよね?」
「あ、ああ」
鏖妖組にミヤと来てから、初めての二人きりの時間。
高は、この一日の間にえらく成長したミヤに、敵わねえな、とミヤの後姿を追いかけた。
高とミヤがよろしくやっていた、一方そのころ、
「ウェヒヒヒヒヒ。これで、ミヤちゃんがご飯食べた箸もらった~」
気持ち悪い歪んだ笑みを浮かべ、大事そうに箸を握るのは斑。
先ほど、ミヤの食器を片付けるふりをしてとってきたのだ。もちろん、斑とて常識人(斑基準)。箸をとるのは窃盗にあたることぐらいわかる。
だから、ちゃんとミヤのお盆に箸台もしっかりと色を付けて載せておいたのだ。つまり、もうこの行為に文句を言うものは誰もいない。
早く部屋に戻って、戦利品をじっくりと楽しむとしよう。
そう考え、斑はスタイリッシュに食堂を去っていった。
「ねえ、斑ちゃん。それ、何かな~?」
「ん~?知りたい~?」
「うん、知りたい知りたい」
「え~どうしよっかな~?」
「おねがい~。ねっ、斑ちゃん?」
「そこまで言うならいいよ!実はね~、これは…………って、ん?」
斑は、自分でも知らぬ間に誰かと話していたことにやっと気づいた。
そして、問題はそれがだれかである。
斑は、話し相手のほうへと体を向け、そして、言葉を失った。
きれいな銀髪は、うどんのようにすすりたいほどつやつやとしていて、そして、これまた全身を舐めまわしたくなるほどきめ細かな白魚の肌。大きな目はルビー色に輝き、整った鼻梁、ぷっくりとした唇……etc、etc。とにかく絶世の美女である。そして、これでもかと主張する、お姉さんの塊。
今すぐに、そこに顔をうずめたい。抱きたい。いや、抱いてもらいたい。
頭の中をそんな欲望が脳内を蹂躙する。
しかし、その完全に馬鹿になってしまった斑の頭にも、僅かばかりの理性がある。
その理性が、今激しく警告するのだ。
今すぐ逃げろと。しからば命が危ないと。
その気持ちを知ってか知らずか、斑の話し相手はしっかりとした笑みを浮かべた。
この聖女のような笑みは、そう、吹雪である。
「ねえ、斑ちゃ~ん?これは……なに?」
数瞬後、斑の甲高い悲鳴が鏖妖組中を駆け巡った。
「お、着いたぞ、ミヤ」
鏖妖組の廊下を歩くこと十数分、ミヤたちは少し奇妙な空間にいた。
鏖妖組の建物は基本的に木製で美しくもどこか武骨な感じの武家屋敷なのだが、ミヤの眼前には、廊下の曲がり角があり、そこからは壁がなく、外に出られるようになっているようだ。そして、その庭から広がるのは洋風の小さなログハウスだった。そして、その横には、壁と屋根が透明な家が何軒か並んでいる。そして、今まで見てきた庭の植物は、せいぜい松が生えているかぐらいで、ほとんどが砂利で覆われていたのに対して、ここはたくさんの植物が生い茂っておりまるでおとぎ話の精霊の家のようであった。
あまりにも、非現実な光景にミヤは一度夢を疑い頬をつねる。鈍い、しかし確かな刺激を感じ、ミヤはもう一度庭を見る。
しかし、結果は先ほどと同じで、見事な庭園が見えるだけだった。
「おーい、ミヤ。何してるんだ?早く行こう」
立ち尽くしているミヤをしり目に、高は何かしらの異能を使って二人分の靴を出して、植物の家へと歩いていく。
「あ、ちょっと待って!」
ミヤもそれに続き、家の前まで行き、高がその扉をノックする。
「おーい、聖呪。いるかー?」
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。すぐ行く!」
扉の内側から少しくぐもった声が聞こえ、少しすると扉が開き、中から一人の少年が出てくる。
色素の薄いセミブロンドの髪に、穏やかな笑みを浮かべる中性的な顔。体格も高のようにがっしりしているわけでもなく、かといってガリガリなわけでもなくで、何とも人の好さそうな人物である。
なんか、男版吹雪(聖女の状態)といった感じだ。
「早かったね、ジン。……あ、君がミヤさんかい?いらっしゃい。俺は聖呪、解原聖呪。ここの医務官やってる。……まあ、何もないところだけどゆっくりしていってくれ」
見た目通りの包容力たっぷりの口調で、ミヤたちをやさしく迎え入れてくれる。
そして、丸太で作られた可愛らしい椅子と机が並んでいる場所にミヤたちを座らせると、
「じゃあ俺はお茶入れてくるから、ちょっと休んでてくれ」
「ああ、すまんな」「あ、ありがとうございます」
二人の声を聴くと、聖呪は家の奥の方へ消えていった。
ミヤは少し手持ち無沙汰になり、家を一度ぐるりと見る。
やはり、きれいなログハウスで、様々な調度品もほとんどが木や植物でできている。また、調度品のほかにも、様々なところに花瓶や植木鉢が並び、きれいな花々が顔をこちらに向けている。
「おまたせ。ここで取れた茶葉を使った紅茶だよ」
そうしていると、聖呪がお盆を持って戻ってきて、何か赤い液体が入った湯飲み(?)と茶色の板のようなものを盛った皿をテーブルに置いた。
「えっと、これは?」
およそ、お茶とは思えない色をした液体と、およそ、食べれるものとは思えない固形物を見て、さしものミヤも食べるのをためらう。
「ああ、紅茶を見るのは初めてかい?これはね、西洋の飲み物で、ミヤさんが飲んでいるお茶の葉を違う方法で調理したらこんな色になるんだよ。……・あと、それとこれはクッキイと言ってこれも西洋のお菓子だよ。美味しいから食べてみて?」
「あ、じゃ、じゃあいただきます」
ミヤは、聖呪の言葉に背中を押されて、まずは紅茶に手を伸ばす。
少し口に含むと、たちまち緑茶からは味わえぬ、パンチのあるコクと旨みが口の中に広がる。
しかし、あまりにも濃ゆすぎる。これでは、このお茶をすべて飲み切るときには口の中には過剰過ぎるコクがあるのではないのだろうか。
そう思い、箸休めの目的も兼ねて今度はクッキイに手を伸ばす。
ひとかじりすると、紅茶とは反対で今度は口の中が素朴な甘みで満たされる。
そして、たちまち紅茶のコクがクッキイに吸われより味わい深いものとなる。
そう、紅茶の味の濃さはすべて計算されたものだったのだ。紅茶とクッキイはまるで夫婦のようにお互いを支えあい、極上のティータイムを作り上げていたのだ!
「美味しい!」
「あはは、ならよかったよ。……でも、まだまだだね」
ミヤの鈴のように弾む言葉に、聖呪は少し自嘲気味に笑い受け入れた。
「そうか?……全然おいしいぞ?」
聖呪の自嘲を高がフォローする。
「いや、まだ本来の紅茶の味には遠いんだよ。やっぱり見様見真似だからね、どこかしらで無理が出てくるんだよ」
「いや、頑張れば、絶対できるって!それに、完璧にできなかったとしても、それは作り方が違うんじゃなくて、作っている奴が違うからだろ?」
「……えっと、聖呪さんは外国の方なんですか?」
そう、疑問を上げたのはミヤだ。ティーカップからは紅茶は消え失せて、少し話を聞いていたが、いろいろ疑問が湧いたためとりあえず聞いてみることにした。
「………なんでそう思ったんだい?」
「えっと……外国のお菓子とかを知っていて、髪の色が黒色じゃなかったので」
「ああ……………確かに、みんなよりも外国のことは知ってるよ。でも、俺は別に外国人ではないよ。……俺は子供の時、外国に留学していた時があったんだよ」
「留学?」
「ああ、俺はそこそこいい家に生まれてそこそこ勉強もできたから外国に行ってそこの人たちと一緒に勉強していたんだ。そして、その時に食べた食べ物の味が忘れられなくてね。……だから、こうやって自分でも真似して作ってみたりしているんだ」
「へえー、じゃあその髪色はたまたまですか?」
「あ、いや、これはだね………」
ミヤが、髪色について再度聞くと途端、聖呪は口ごもり、その問いには高が答えた。
「聖呪の髪色は、あっちの方で好きな子ができたからその子に少しでも近づきたいって思って染めたんだろ?」
高のはなった核兵器級の爆弾に、聖呪の頬は赤く染められる。
「ちょっ、ジン!?な、何言ってるんだよ!?」
あたふたと慌て散らかす聖呪に対し、A級戦犯の高はまず聖呪がなんで慌ててるかわからない様子だ。
「あれ?違ったけ?聖呪がこの前そう言ってた気がするんだが?」
「いや、そうだけど!それは思いっきりいうもんでもないだろ!?」
「あはは、なんかすいません…………」
ミヤはものすごく申し訳ない気持ちになった。ついでに、あらためて高の恋愛に対する常識のなさを認識することができた。
「ま、まあ、そういうわけだから、俺の髪色は染めたものだよ」
聖呪はいまだ赤みの残る頬で、ミヤの問いに答えなおした。
そこから少しして、高と聖呪もティータイムを終え、いよいよ話は本題へ入る。
「ああ、それでなんだけど、聖呪。俺たちがここに来た理由は……」
「ああ、わかってるよ。ミヤさんの体に呪いがかかってないか調べるためだろう?」
「呪い?」
かなり物騒な言葉に、ミヤは怪訝な顔をする。
「あ、ああ。妖だったり呪術師だったりがたまに使う異能の一種なんだが、その効果は例えば、常に体が重くなったり、転びやすくなったりだとか基本的に軽いものが多いんだけど、中には死期がものすごく早まったり、それこそ生き物の形を変えてしまうほどに強い呪いもあるんだ。……それで、ミヤさんは呪いによってその姿になってしまったんじゃないかってジンが……」
「ああ、それで、呪いの解除が個別異能の聖呪に診てもらおうとな」
呪い。自分の体にそんなものがかけられている可能性があったなんて考えもしなかった。
ミヤは、一度自分の体をよく見てみる。髪の上にありピコピコと動く感触のある耳と、腰のあたりから生える尻尾以外は、高たちと同じ構造をしていてまるで呪いなどと物騒なものに侵されているという気はしない。
「じゃあ、さっそくお願いできるか、聖呪?」
ミヤが考え事をしている間に少しはなりが進んでいたらしく、検査の直前まで来ていた。
「ああ。じゃあ、ミヤさん。ちょっと異能で体の中見るけどいいかな?」
「あ、はい。お願いします」
ミヤの許可を聞くと、聖呪は右手をミヤの胸の高さまで掲げ、少し体全体を力ませた。
すると、右手が黄色に淡く発光すると、ミヤの体にほのかに違和感が生じる。
水のような異能の流れが、ミヤの中を駆け巡り、体を隅々まで調べているのをミヤははっきりと感じることができ、何とも言えない気持ちになった。
しばらくして、聖呪の手の発光が弱くなると、ミヤの感じる違和感がなくなった。
「う~ん?………えっと、ミヤさんを診させてもらったけど何の呪いにもかけられてなかったよ」
聖呪が難しい顔でそう言う。そして、でも、と続ける。
「えっと、ミヤさんの体ははっきり言ってわからないことが多すぎるよ。呪いのほかにも魂に関わること色々調べてみたけど、まず妖力量が異常なほど多い。それこそ、ジンの二倍くらいはあるよ。そして、ミヤさんの魂はちょっと干渉できるところが少ないんだよ。……普段の俺だったら、その人が個別持ってたらその種類くらいはわかるんだけど、ミヤさんは全くわからない。あ、でもこれはジンも同じか。………まあ、でもそれにしたっておかしいよ」
「え、妖力量が多いなら、なんで私は昨日妖力切れで倒れたの?」
「ああ、それはそもそも治癒の異能がものすごい量の妖力を使うからだよ。和夜は腹に穴が開いていたんだろう?ならそれを完治させる妖力量はそれこそ俺の妖力の倍くらいは必要かもな………それよりも、俺が気になるのはミヤのしっぽが呪いじゃないってことだよ。なあ、聖呪。人の人体をいじくる方法ってほかにあったっけ?」
「いや、俺が知ってる限りじゃ聞いたことないな。個別異能が原因だとしても、こんな規格外な異能の持ち主が全く有名にならないってのもおかしいし……妖もこんなことができるのは百鬼以上くらいだけど、こんな術を使えた百鬼はいなかったはずだし…………」
「そうだよな………」
「あの、百鬼って何ですか?……昨日和夜さんも言ってたし……」
高たちの会話によくわからない単語があり、ミヤは恐る恐る聞いてみると、二人を代表して高がその問いに答える。
「ん、ああ。百鬼ってのは妖の階級の一つだよ。妖は危険度によって階級分けされてるんだが、下から4等級、3等級、2等級、1等級、特等級。そして、その上にいるのが百鬼だ。百鬼は特等級の中でも特に強い百体の妖たちの呼び名で、とにかく強くて普通の人間は簡単に縊り殺される。……あ、ちなみに百鬼の中にも序列があってな。昨日、和夜と吹雪が戦ったのは座敷童子といって、たしか97位だったかな。……昨日は比較的弱かったからいいものの、百鬼の上位なんて俺たち幹部が束でかかっても勝てるか怪しいよ…………」
「いや、まあ、たとえ弱かったとしても百鬼を二人だけで倒すのは異常だし、百鬼のことを比較的弱いとかいうジンはもっと以上だけどね……」
高は説明を聖呪に苦笑気味に付け足されていたが、「何を言う。先代なんて百鬼の10位台を単独討伐していたんだぞ。本当に異常なのは先代だ」と反論していた。
その先代とやらがものすごく気になったミヤであった。今度時間があったら高に聞いてみよう。
「じゃあ、この世界で一番強い妖は百鬼の一位の妖なの?」
「あ、いや、それは違うぞ。それより強いのもいる」
「え、何者?それ?」
「ああ、厳密にいえばこれは妖じゃないんだが、それの上に邪神っていう階級が存在する。邪神っていうのは妖じゃなくて、文字通り神なんだが、もの凄い昔になんかあって心がけがされて人間に敵対するようになった奴らだ。その強さはそれこそ神のように圧倒的だ。基本的に出会ったやつは確実に殺されるから、どんな神たちが邪神になったか俺たちは全くわからない。妖とか神とかいうよりどちらかというと天災に近いな…………あ、あと、それに百鬼ていうのはあくまで日の輪の妖たちの中から選んだ百体だから外国にはもっと強いのがうじゃうじゃいるぞ」
あの高がこれだけのことを言うのだから、その邪神とやらは本当にすごいのだろう。今後の人生で一度も会わないことを願うばかりだ。
「………で、そんな強い妖たちや呪いが原因じゃないなら、本気で何が原因でミヤからはしっぽが生えてるんだ?」
「うーん………それこそ、もうミヤさんはそういう種族なんじゃないか?世の中妖なんてものもいるんだし、猫の体の一部を持つ人がいたって不思議でもないだろう?」
「う~む。……それもそうなのかもしれんな…………ミヤはどう思う?」
「いや、私に聞かれても………でももし、私の体がもともとこうだったとしても、このままはちょっと困るかな?基本的に人前出られないし………」
「ああ、それは大丈夫だよ」
不意に、聖呪がそんな声を上げる。
「ミヤさんたちはとりあえず、その耳達をどうにかしたいんだろう?なら、異能で隠してしまえばいいじゃないか?」
「ああ!その手があったか」
高がなるほどといった感じで手と手を合わせる。
その間、聖呪はテーブルを一度立ち、一枚紙きれを持ってきた。
「えっと………この術式を埋め込んで、これはこうなるから……これをこうして………えっと、この術式の消費妖力は…………」
そのまま、ぶつぶつ言いながら紙に何かをつらつらと書く聖呪をミヤはただ不思議そうにいていた。
「………よし、できた」
聖呪が作業に入って少しの間が経ち、やがて聖呪が作業を終えると、先ほどまで何かを書いていた髪をミヤと高に見えるように広げる。
それは、たくさんの図や説明が載った設計図であった。紙のいたるところに魔法陣が描かれていたり、先ほどの独り言を聞くにおそらく異能を使った装置のようだ。
しかし、異能についてほとんど知らないミヤにとって、それを理解するのは難しく、ただ首をひねるばかりだった。そして、満を持して聖呪がその装置の説明を行う。
「これは、ミヤさんの耳とかを異能で見えないようにする絡繰りなんだ。ミヤさんの妖力を流すことで動く。ミヤさんの妖力量はものすごく多いから、おそらくつけっぱなしでも2日くらいは持つと思う。………えっと、これじゃあ、完璧な問題の解決にはならないけど、ミヤさんはこれで許してくれるかな?」
「え、あ、はい、もちろんです!私のためにこんなやってくれてほんと感謝してます。ありがとうございます!」
「ああ、ならよかった。じゃあ、この設計図をあいつに持っていってくれるないかい?多分、作ってくれるからさ。俺はちょっとこれから用事があってさ………」
ミヤは、あいつが誰なのか分からなかったが、高は理解したようで「おう!」と元気よく返事していた。
「じゃあ、聖呪。今日はほんとありがとな」
「ああ、全然大丈夫だよ。高もミヤさんもまたいつでもうちに遊びに来てくれ」
「おう、またな!」「はい、ありがとうございました!」
二人は、聖呪にそう別れを告げると、森の家を去った。
「そういえば、聖呪さんが言ってたあいつって誰なの?」
ミヤと高が聖呪の設計図を持って、あいつ、のもとへ向かうっているとき、ミヤはいつものように気になることを高へと問うた。
ちなみに、勿論ミヤたちの歩く廊下はしっかりと和風で、ミヤはその光景を見て無性に落ち着いた。
「ああ、あいつってのは鏖妖組の鍛冶屋だよ。基本的にみんなの武器とかを作ったりしている」
「へえー、どんな人なの?」
「ああ…………基本的に変態だよ」
「変態!?」
「まあ、着いたらわかるさ」
ミヤは早くその人に会ってみたいし、逆になんかもう会いたくないような変な気持ちだった。
「………あ、そういえばありがとね」
「え、なにが?」
「その、私のために色々と考えてくれたんでしょ?だから……その、ありがと」
「!……あ、ああ、気にすんなって」
ミヤは、なぜかお礼を言うだけなのに妙に恥ずかしかったし、なぜかお礼を言った後心臓がバクバクしていて、話そうと思っても言葉が出てこない
そして高は、お礼を言われた直後から体にカッと熱がこもり、なぜか言葉が口から出ていかない。
お互い謎の症状に襲われ、甘くも気まずい妙な沈黙が数秒の間流れたのであった。




