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猫と桜  作者: 詩音
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新キャラ登場の直後二重人格とか俺ドMじゃん 第十章

  第十章 吹雪

 座敷童子(ざしきわらし)。百鬼のうちの一鬼に数えらる妖。その権能は食したものの力を吸収し放出する、修羅の捕食者。歩く厄災。ミヤが今まで出会った中で最悪の生物。和夜の腹に穴を開けた化物。

 その百足の脚のような鋭利な触手が今、ミヤの腹を――


 ――貫く前に音もなく断ち切られた。

「……っ!?」

 ミヤはこの数分の間に二度目の戦慄を覚えた。

 それもそのはずだ。

 数瞬後には自分を貫くはずだった殺意の塊が何故か、何処からともなく断ち切られたのだ。驚くなと言う方が無理だ。

 また、座敷童子の方も全くの想定外だったのだろう。その長い前髪で目を見ることはできなかったが、口はだらしなく開けられ、唖然たしているのがありありとわかる。

 そんな、明らかな異常事態の中、その腹を貫かれ痛みに顔を歪める和夜だけが、

「はは、『姫』の凱旋だ」

 絶望から一粒の希望を見つけたかのように小さく笑った。

 直後、ミヤと座敷童子の間に上空から凄まじい速度で何かが降ってきた。

 衝撃により土煙が舞い、そこに何がいるのかは視認できなかったが、直後煙の中から

「おい糞餓鬼、うちのもんに何やってんだ?」

 そんなドス黒い言葉がやけに可愛らしい声で聞こえてきた。

 徐々に土煙が晴れ、そこからキラキラと輝く薙刀を持った女性が姿を現した。

 水色の袴は、長い紐によって襷掛(たすきが)けされている。

 ここら辺ではあり得ないほど白い肌に、神秘的なルビーの瞳。

 そして、下ろされた髪は、雪原のように太陽の光を反射して白銀色に輝いていた。

 そう、ミヤが高以外で初めて会った鏖妖組の組員で、ミヤに色々と優しくしてくれた吹雪である。

 その、ゆるゆるでふわふわな人が今、女の子とほとんど変わらない妖に思いっきりガンつけて、あまつさえ糞餓鬼呼ばわりしていた。

「あ、あの……吹雪さんですよね?」

 今は戦の場であることは重々承知だが、ミヤは吹雪に言われていたタメ口も忘れて敬語で吹雪に問いかけていた。

 しかし、それも仕方がないだろう。吹雪の印象があまりにも変わっているのだ。私が知っている抱擁感あふれるお姉さんは何処(いずこ)に消え失せ、今の吹雪は誰よりも漢らしいお姐さんといった感じだ。姉妹だと言った方がまだ説得力がある。

「?……何言ってんだ、ミヤ?私が吹雪じゃなかったら誰が吹雪なんだよ?しばらく見ねえ間に忘れちまったのか?」

「えぇ………」

 ミヤはあまりのギャップに反応が鈍くなった。すると、和夜がおかしそうに微笑むと、ミヤに向かって言ってきた。

「はは、嬢ちゃん、実は吹雪は組紐を髪から外して、襷掛けしたら人格が変わるんだよ。「氷獄(ひょうごく)鬼姫(おにひめ)」鏖妖組二番隊隊長、鬼波吹雪とはこのことだよ」

「へ、へぇー」

 あまりの情報量の多さにミヤは曖昧に頷くしかなかった。

(え?吹雪は二重人格で、鏖妖組の隊長?で、氷獄の鬼姫?なんだそれ?)

 と、前から何か吹雪が叫んできた。

「おい和坊(かずぼう)!その名前で呼ぶなっつってんだろ!タマ引きちぎるぞ!」

「かずぼう………」

 ()()和夜の呼び名にもう唖然とするしかないミヤ。

と、吹雪に触手を切られ、さらに長い間放置されていた座敷童子がいよいよ激高し、再び十数本の触手を背中から生やし、それをミヤたちに向かって放ってきた。

「じゃあ、吹雪も和坊やめてくれよ」

「それとこれとは別だろ」

「いや、何も別ではないんだが……」

 そんな緊急事態でも、まだのんきに会話を続ける吹雪と和夜。いよいよ、触手が寸前まで迫り、宮たちを刺し貫かんとする。

 果たして、吹雪がノールックで薙刀を触手に向かって一振りすると、触手たちは一瞬の間に粉々に砕け散った。

「!?」

 ミヤは、三度の戦慄を覚えた。先ほど和夜の腹を刺し貫いた固い触手が立ったひと振りで砕け散るなんて人間業ではない。

「おい、和坊。お前、歩けるか?」

 ミヤが、その光景をただただ見ていると、吹雪が和夜にそう問いかけた。

「いや、無理そうだ。ちょっと深く刺されすぎた」

 対して、和夜は静かに微笑みながら、それを否定する。

 その答えを聞いて、布武は少しの間熟考すると、やがて和夜とミヤに指示を出した。

「じゃあ、私がすぐ終わらせるからそれ待ってろ。ミヤは、これで和坊の傷を抑えといてくれ。…………死ぬんじゃねえぞ」

 そう言うと、吹雪は座敷童子に向かって歩き出した。

「おい、糞餓鬼。………30秒だ。30秒で終わらせるぞ」

 座敷童子はその言葉をどう受け取ったのかはわからないが、気味の悪い笑みを見せると、三度触手を発現させると、それを自在に操り、全力を持って吹雪を殺しに来た。

「……ぬるい!」

 しかし、吹雪はただそう叫ぶと、薙刀を強か地に打ち付けた。

 途端、触手が銀に輝くとその動きを停止した。

 銀の触手は、つるつるとしていて、よく見ると周りにほのかに白い霧をまき散らしていた。つまり、凍っていたのだ。その数瞬後、凍らされた触手は激しい音を立て霧散した。

 その攻撃を受けて、さしもの座敷童子も彼女を危険因子だとみなしたのだろう。ミヤの全身の毛が逆立ち、さらにうっすら吐き気を覚えるほどの禍々しい殺意を浮かべ、彼女史上最大最凶の術式を、顕現させる。

 座敷童子の背からは数十、否、百をも超える百足の触手が生えそろい、その先端からは火や風、毒など様々な種類の厄災の芽が灯っていた。また、百足やほかの妖たちの目や口などの体のパーツたちが彼女を囲い、おどろおどろしい要塞を作り上げていた。

 今までとは、比べ物にならないほどの狂気、そして瘴気。周りにいだけでミヤは、気を抜けば失神してしまいそうであった。

 しかし、その負のエネルギーを一番浴びているはずの吹雪は……何一つ気にしていないように、澄ました顔をしていた。

 否、その解釈には少し間違いがあった。

「……ほう。今まで喰った妖と異能者共か……やっと、本気を出したようだな」

 彼女はその澄ました顔の奥で、静かに喜んだのだ。久しぶりに出会えた()()()()()()に、新しいおもちゃを買ってもらったように無邪気に嗤ったのだ。

 そして、それに座敷童子だけが気付いた。そして、自分が彼女の中では下に見られていることに気づきながら………その笑みをさらに凄絶に濃くした。

 対して、吹雪は……

「……………」

 目を閉じ、ただただ黙り込むのみであった。

 彼女は勝つことをあきらめてしまったのだろうか。自らの死期を悟り、それを甘んじて受け入れてしまったのだろうか。

 ミヤの中に、そんな考えがめぐる。

「落ち着け、嬢ちゃん。あいつは別に勝負を諦めたわけじゃねえよ」

 下からそんな声がした。和夜だ。和夜が、妖が出てきてから見せ続ける余裕の笑みでそう言ったのだ。

 しかし、あまりにも状況が悪すぎる。今の座敷童子は最初のものとは全くの別物だ。人間が対応できる範疇を超えているように思える。いくら、さっき無類の強さを見せた吹雪といえど……

 そう言いかけると、刹那、前方から、あまりにも巨大すぎる気が、ミヤを突き抜けた。

 突然の衝撃に、ミヤは慌てて顔を上げる。

 

 そこには、鬼の姫がいた。

 

 戦場に、今までミヤが見てきた異能とは、比べ物にならないほどの濃密な気が、彼女の薙刀に流れ込んだ。そして、これまでかというほど気を取り込むと、吹雪は今にも爆発しそうな薙刀を、まるで刀を鞘に差すように左腰に移動させた。

 そして、再び目を閉じ、黙り込んだ。

 今、彼女は極限まで精神を統一させている。そのことを、やっとミヤは悟ることができた。

 その数瞬後、吹雪の威圧感に更なる歓びを感じた、座敷童子はいま、自分の持つ最高戦力をすべて彼女に向けて放った。

 大量の殺意が、吹雪を四方八方から襲う。

 しかし、まだ彼女は動かない。

 彼女が今から行うのは、あくまで座敷童子の殲滅である。

 だから、さらに引き付けて、引き付けて、引き付けて………

「……っ!」

 一閃。

 そして、吹雪は言う。その技の名を。すべてが終わった後に。

「―――居合〈雪那〉」

 途端、座敷童子のありとあらゆる部位が凍り、唯一その首だけは、吹雪の一太刀によって切断された。

 


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