第八話 正しさを掲げる人たち
第八話 正しさを掲げる人たち
## 1 間違っていない人たち
月曜日の朝、真帆はいつもより少し早く出社した。
週末のあいだ、仕事のことを考えないようにしていたつもりだった。
買い物をして、洗濯をして、読みかけの本を開いた。夕食には、冷蔵庫に残っていた野菜を使ってスープを作った。
何でもない日常を過ごしているはずなのに、ふとした瞬間、会社で交わされた言葉が頭の中に戻ってきた。
――水野さんも、もう少し周りのことを考えてくれるといい。
誰が言ったのか、真帆にはわかっていた。
声の主だけではない。
その言葉のあとに続いた沈黙も、誰も否定しなかったことも、覚えていた。
けれど、真帆は自分に言い聞かせた。
誰かが自分を嫌っているからといって、その人の言葉がすべて間違っているわけではない。
自分の質問が、誰かを不安にさせることだってあるかもしれない。
それは、認めなければならないことだった。
自分が傷ついたからといって、自分の考えだけが正しいことにはならない。
そう考えることは、真帆にとって大切だった。
ただし。
相手の気持ちを考えることと、自分の疑問をなかったことにすることは、同じではないはずだった。
真帆はパソコンを起動し、メールを確認した。
新着メールの中に、社内の人事部からの案内があった。
件名は、
「安心して働ける職場づくりに向けて」
本文には、職場での相互理解や配慮の大切さが書かれていた。
一人ひとりの価値観を尊重すること。
不安を抱える人に寄り添うこと。
そして、職場全体で協力し、安心できる環境をつくること。
どれも、間違ってはいない。
真帆は画面を見つめた。
間違っていない言葉ばかりなのに、なぜか息苦しかった。
何が苦しいのか、うまく説明できない。
説明しようとすればするほど、自分が配慮の足りない人間だと認めることになるような気がした。
真帆はメールを閉じた。
そのとき、背後から声がした。
「おはよう、水野さん」
玲奈だった。
「おはようございます」
玲奈はいつものように、明るく微笑んだ。
「早いね」
「ちょっと、やることがあって」
「そっか。無理しないでね」
それだけ言って、玲奈は自分の席へ向かった。
たったそれだけの会話だった。
それなのに真帆は、玲奈の背中を見ながら考えていた。
この人は、私のことをどう思っているんだろう。
そして、すぐに自分の考えを打ち消した。
そんなことを考えても、答えは出ない。
相手の心を、勝手に決めつけてはいけない。
――そうでしょう?
真帆は心の中で自分に問いかけた。
その問いは、玲奈にも向けられるべきものだった。
そして、自分自身にも。
## 2 配慮という言葉
午前十時半、部署内で短い打ち合わせが開かれた。
議題は、感染症対策を含む職場内の情報共有についてだった。
黒田課長は、配布資料を机に置き、落ち着いた声で話し始めた。
「先週もお伝えしましたが、体調不良がある場合は無理をせず、所定の手続きに従ってください。感染対策についても、会社からの案内を確認し、基本的な対策を続けてください」
誰も異論はなかった。
「それから、情報の扱いについてです。確認できていない話を、事実として広めないようにしてください。個人の健康情報についても、取り扱いには十分注意をお願いします」
黒田は一度、全員の顔を見渡した。
「不安なことや、わからないことがあれば、相談してください。質問すること自体を問題にするつもりはありません」
その言葉を聞いて、真帆は少しだけ肩の力を抜いた。
だが、玲奈が続けて発言した。
「私も、相談できる環境は大切だと思います」
声は穏やかだった。
「ただ、情報の伝え方によっては、必要以上に不安を感じる人もいると思うんです。だからこそ、お互いへの配慮を忘れないようにしたいですね」
誰かが、小さくうなずいた。
玲奈は続けた。
「もちろん、疑問を持つことが悪いという意味ではありません。でも、職場にはいろいろな事情の人がいますから。自分の発言が周りにどう受け取られるか、少し考えることも必要なんじゃないかなって」
言葉は丁寧だった。
真帆を名指ししているわけではない。
ワクチンのことにも、真帆のことにも、直接は触れていない。
それでも、真帆にはわかった。
この話は、自分に向けられている。
そう感じたのは、玲奈がそう言ったからだけではない。
これまでの会話や、職場の空気や、誰かの視線。
いくつもの出来事が、真帆の中で一つの意味につながっていた。
その意味が正しいのかどうか、確かめる方法はなかった。
「そうですね」
由紀が口を開いた。
「みんなが安心して働けるようにするには、言い方も大事ですよね」
玲奈は、ほっとしたように微笑んだ。
「そうなんです。誰かを責めたいわけじゃなくて、みんなで気持ちよく働きたいだけなんですよね」
黒田は資料に目を落とした。
「配慮は大切です。ただ、質問や意見を言いにくくなるような雰囲気ができてしまうのも、避けたいと思っています」
玲奈の笑顔が、一瞬だけ止まった。
「はい。もちろんです」
その返事は、すぐに出てきた。
「私も、そう思います」
打ち合わせは、そのまま終わった。
誰も声を荒らげなかった。
誰も真帆を批判しなかった。
誰も、明らかな間違いを口にしなかった。
それなのに真帆は、自分の居場所が少しずつ狭くなっていくのを感じていた。
## 3 高橋の小さな違和感
打ち合わせが終わったあと、高橋はコピー機の前で玲奈と一緒になった。
「小野寺さん」
「はい?」
「さっきの話なんですけど」
玲奈は、コピー用紙をそろえながら振り返った。
「うん」
高橋は少し迷った。
自分が何を言いたいのか、まだ完全には整理できていなかった。
「配慮することは、必要だと思います」
「そうですよね」
「でも……何を言ったら、誰かを不安にさせることになるのか。それが、だんだんわからなくなってきたというか」
玲奈は、手を止めた。
高橋は続けた。
「質問する前に、これを言ったらどう思われるだろうって考えるようになってしまって」
「それは……」
玲奈は言葉を探した。
「職場では、言い方を考えることも大切だから」
「はい。わかっています」
高橋はうなずいた。
「ただ、言い方を考えることと、言わないほうがいいと判断することの境目が、よくわからないんです」
その言葉は、玲奈の胸に小さく引っかかった。
高橋は、いつも目立たない人だった。
会議で積極的に発言することも少ない。
誰かと争うこともない。
だからこそ、玲奈は彼のことを、職場の空気を乱さない人だと思っていた。
その高橋が、今、空気について疑問を口にしている。
「私たち、誰かを黙らせたいわけじゃないんですよ」
玲奈は言った。
「もちろんです」
高橋は答えた。
「でも、黙っている人がいたら、その人が納得しているのか、言いにくいだけなのか、わからないですよね」
玲奈は返事をしなかった。
高橋は、言いすぎたと思ったのか、少しだけ表情を曇らせた。
「すみません。うまく言えなくて」
「ううん」
玲奈は微笑もうとした。
「考えてくれて、ありがとう」
その言葉は本心だった。
高橋が何も考えずに従う人ではないとわかったことを、玲奈はむしろうれしく思った。
けれど同時に、落ち着かない気持ちもあった。
もし、高橋が疑問を持っているのなら。
これまで自分にうなずいてくれた人たちは、どうだったのだろう。
本当に賛成していたのだろうか。
それとも、ただ、反対する理由を見つけられなかっただけなのだろうか。
玲奈はコピー用紙を持ち直した。
「じゃあ、また」
「はい」
高橋は軽く頭を下げ、席に戻った。
玲奈はしばらく、その場に立っていた。
## 4 善意の証明
昼休み、玲奈は由紀と一緒に食堂へ向かった。
「最近、ちょっと難しいね」
由紀が言った。
「何が?」
「職場の雰囲気。みんな、気を使っているんだと思う。誰かを傷つけないようにとか、余計な不安を与えないようにとか」
玲奈はうなずいた。
「そうだね」
「でも、気を使いすぎると、今度は何も言えなくなっちゃうのかな」
由紀は、少し困ったように笑った。
「難しいよね。正しいことを言っているつもりでも、受け取る人によって違うし」
その言葉に、玲奈は思わず反応した。
「正しいことを言っているつもり、か」
「え?」
「ううん。何でもない」
玲奈は箸を手に取った。
由紀は真帆を心配していた。
それは、今も変わらないように見えた。
真帆が何かを誤解して、必要以上に不安になってしまうことを心配している。
自分や家族の健康を考えて選んだことを、否定されたくないという気持ちもあるのかもしれない。
それ自体は、不自然なことではなかった。
自分の選択を疑われたと感じれば、誰だって身構える。
玲奈にも、その気持ちはわかった。
自分が時間をかけて考え、これが大切だと思ってきたことを、誰かに問い直される。
そのとき、人は問いの内容だけでなく、自分自身まで否定されたように感じることがある。
だからこそ、玲奈は考えていた。
真帆の質問が、ほかの人に与える影響を。
質問する自由だけでなく、質問を受け取る人の気持ちも大切にしたかった。
けれど、いつからだろう。
真帆の質問を考えるとき、玲奈は質問そのものより先に、その質問が周囲に何を引き起こすかを考えるようになっていた。
真帆が何を知りたいのか。
何を不安に思っているのか。
どの情報を信頼し、何を疑問に感じているのか。
そうしたことを確かめる前に、玲奈は、その質問が職場の安心を揺るがす可能性を考えていた。
そして、その可能性を、少しずつ現実のように扱い始めていた。
「小野寺さん?」
由紀の声で、玲奈は我に返った。
「ごめん。考え事してた」
「疲れてる?」
「ちょっとね」
玲奈は笑った。
由紀も笑い返した。
二人の会話は、そこで終わった。
玲奈は食事を続けながら、心の中で自分に問いかけた。
私は、真帆を理解しようとしているのだろうか。
それとも、真帆を理解する前に、真帆の存在を説明できる物語を作っているのだろうか。
答えは、まだ出なかった。
## 5 見たものと、意味づけたもの
午後、玲奈は過去のメールを整理していた。
検索窓に「水野」と入力すると、真帆に関係するメールがいくつか表示された。
そのうちの一つに、以前、自分が黒田へ送ったメールがあった。
――個人の判断を尊重しながらも、職場全体としての感染対策への理解を深められるとよいと思います。
読み返してみても、間違ったことは書いていない。
誰かに命令したわけでもない。
真帆の名前も出していない。
ただ、あのとき自分は、何を伝えたかったのだろう。
職場全体としての理解。
感染対策への協力。
安心して働ける環境。
どれも大切な言葉だ。
けれど、それらの言葉を並べることで、自分は何を期待していたのだろう。
玲奈は、記憶をたどった。
真帆が、まだ決めていないと話していたとき。
由紀が心配そうにしていたとき。
周囲の人たちが、どう反応していいのかわからないように見えたとき。
玲奈は、不安を感じた。
真帆の判断が正しいか間違っているか、ということだけではなかった。
もし、真帆の質問がきっかけで、誰かが自分の選択に自信を持てなくなったら。
もし、誰かが不安になり、職場全体が落ち着かなくなったら。
もし、あとになって何か問題が起きたとき、あのときもっと周囲に配慮するよう伝えておけばよかったと思うことになったら。
その想像が、玲奈を動かしていた。
何も起きないようにしたかった。
誰も後悔しないようにしたかった。
そして、自分も後悔したくなかった。
玲奈は、そこで手を止めた。
――自分も、後悔したくなかった。
その言葉が、思っていたより重く感じられた。
自分は、周囲の人たちのために行動していた。
それは嘘ではない。
けれど、自分が間違っているかもしれないという不安から、逃れたかったのも事実だった。
誰かが自分と同じ考えを示してくれれば、安心できた。
誰かがうなずいてくれれば、自分の判断を疑わずに済んだ。
そして、誰も反対しなければ。
自分は、間違っていないと思えた。
玲奈は、メールの画面を閉じた。
自分が何をしたのか、まだ、はっきりとはわからなかった。
ただ一つ、気づいたことがあった。
自分が見たものと、自分がそこに与えた意味は、同じではない。
真帆が質問をしていた。
それは事実だった。
その質問が周囲に不安を与えるかもしれない。
それは、可能性だった。
真帆が職場の安心を脅かしている。
それは、自分が可能性に与えた意味だった。
そして、その意味を、いつの間にか事実のように扱っていたのかもしれない。
玲奈は、椅子の背にもたれた。
もしそうなら。
自分は、真帆のことを、どれだけ知っていたのだろう。
## 6 真帆の迷い
夕方、真帆は高橋から声をかけられた。
「水野さん、今、少しいいですか」
「はい」
高橋は、周囲を気にするように視線を動かしたあと、声を落とした。
「最近、話しにくくなっていませんか」
真帆は、すぐには答えなかった。
高橋は慌てて付け加えた。
「いや、変な意味じゃなくて。自分も、いろいろ考えるようになったというか」
「高橋さんも?」
「はい」
彼は少し笑った。
「質問することが悪いとは思わないんです。でも、質問することで誰かが不安になるかもしれないと思うと、何も言えなくなってしまって」
真帆は、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。
自分だけではなかった。
そう思うと、ほっとした。
けれど、その安堵にすぐ気づいて、真帆は自分を戒めた。
高橋も同じように感じているからといって、自分の考えが正しいと証明されたわけではない。
自分の不安を肯定してくれる人を見つけたとき、人は、その人の言葉を必要以上に信頼してしまうことがある。
それは、玲奈だけの問題ではない。
自分にも起こりうることだった。
「私も、考えます」
真帆は答えた。
「自分の質問が、誰かを不安にさせているんじゃないかって」
高橋は、少し驚いたようだった。
「そうなんですか」
「はい。私が何かを知りたいと思うことと、それをどう伝えるかは、別の問題だと思うので」
真帆は言葉を選びながら続けた。
「でも、質問しないほうがいいのかどうかは、まだわからないんです」
「そうですよね」
高橋はうなずいた。
二人のあいだに、短い沈黙が流れた。
その沈黙は、気まずいものではなかった。
どちらかが相手を説得するための時間でもなかった。
わからないことを、わからないまま置いておける時間だった。
真帆は、そんな時間が職場にあってもいいのだと思った。
「高橋さん」
「はい」
「私、間違っているかもしれません」
高橋は、少し考えてから答えた。
「自分もです」
真帆は笑った。
ほんの少しだけ、呼吸がしやすくなった。
正しい人同士だから話せるのではない。
自分も間違うかもしれないと認められるから、話せることがある。
その違いは、小さいようでいて、大きかった。
## 7 玲奈の言葉
その日の帰り際、玲奈は真帆に声をかけた。
「水野さん」
真帆は振り返った。
「はい」
玲奈は、何を話すつもりだったのか、もう一度、頭の中で確かめた。
本当は、聞きたいことがあった。
真帆は、何を知りたいのだろう。
何を怖れているのだろう。
自分が思っているように、周囲への配慮が足りない人なのだろうか。
それとも、自分がそういう人だと解釈してしまっただけなのだろうか。
けれど、その問いを口にするには、自分がこれまで抱いてきた確信を、少し手放さなければならなかった。
玲奈は言った。
「最近、仕事、忙しい?」
真帆は一瞬、戸惑ったように見えた。
「そうですね。少し」
「そっか。無理しないでね」
また、同じ言葉だった。
何も間違っていない。
相手を気遣う言葉。
けれど、真帆には、その言葉の奥に何があるのかがわからなかった。
本当に心配してくれているのか。
それとも、これ以上、話をしたくないという意味なのか。
真帆は、どちらとも決められなかった。
「ありがとうございます」
そう答えて、軽く頭を下げた。
玲奈も微笑んだ。
二人は、そのまま別れた。
玲奈は廊下を歩きながら、胸の中に残った言葉を見つめた。
本当は、もっと別のことを聞きたかった。
でも、聞けなかった。
真帆を傷つけるかもしれないから。
自分が間違っていたとわかるかもしれないから。
その二つは、似ているようで、違っていた。
玲奈は、どちらを怖れていたのだろう。
## 8 正しさの向こう側
夜、帰宅した玲奈は、部屋の明かりをつけた。
バッグを置き、上着を脱ぎ、スマートフォンを手に取った。
真帆とのメッセージ画面を開く。
何かを送ろうとして、やめる。
また、画面を開く。
文章を打ち始めた。
「この前から、少し気になっていて――」
そこまで入力して、玲奈は指を止めた。
何が気になっているのだろう。
真帆のことか。
職場の空気か。
自分の言葉が、誰かにどう受け取られたのかということか。
あるいは、自分が正しいと思ってきたことが、必ずしも正しいとは限らないという可能性か。
玲奈は、入力した文章を消した。
今までなら、もっと簡単だった。
周囲の人たちが不安にならないように。
職場が混乱しないように。
誰も傷つかないように。
そう考えて行動すればよかった。
そのために、自分が何を見て、何を考え、何を決めつけているのかを、いちいち問い直す必要はなかった。
でも、今は違った。
自分が正しいと信じていることと、自分が正しいことは、同じではない。
その当たり前のことが、初めて、自分自身に向けられた言葉として聞こえていた。
玲奈はスマートフォンを置いた。
まだ、真帆に謝ることはできなかった。
何について謝ればいいのか、自分でもわからなかったからだ。
それに、もし謝ったとしても、それで真帆が受けた息苦しさが消えるわけではない。
自分の中で納得できたからといって、相手の傷まで解決したことにはならない。
玲奈は、窓の外を見た。
明日、会社に行けば、またいつもの日常が始まる。
誰かが笑い、誰かが仕事をし、誰かが何気ない言葉を交わす。
その中で、誰かが少しだけ話すことをためらうかもしれない。
そのためらいに、自分の言葉が関係しているかもしれない。
あるいは、関係していないのかもしれない。
今の玲奈には、まだわからなかった。
ただ、わからないことを、わからないままにしておく必要があるのだと思った。
自分の不安を埋めるために、他人の気持ちを決めつけないこと。
沈黙を、賛成だと解釈しないこと。
可能性を、事実に変えないこと。
そして、自分の善意を、何をしても許される理由にしないこと。
それができるかどうかは、まだわからない。
玲奈は、明日の自分に期待することを、少しだけためらった。
人は、気づいた瞬間に変われるわけではない。
自分の言葉が誰かを傷つけたかもしれないと知っても、すぐに認められるとは限らない。
認めることは、自分が守ってきた正しさの一部を、手放すことだからだ。
玲奈は、もう一度スマートフォンを手に取った。
真帆の名前を見つめる。
そして、何も送らずに画面を閉じた。
まだ、言葉にできないことがあった。
けれど、これまでのように、何も疑わずに眠ることもできなかった。
自分は、誰かを守ろうとしていた。
そのつもりだった。
では、自分の正しさを守るために、誰かを傷つけてしまったとしたら。
そのとき、自分は何を守っていたことになるのだろう。
玲奈は、答えの出ない問いを胸に抱いたまま、部屋の明かりを消した。
正しさを掲げることは、難しくない。
難しいのは、その正しさが誰かを傷つけているかもしれないときに、立ち止まることだった。




