第004話 包丁は切れない方が危ない
午後六時。
礼拝堂のスクリーンには静聴会の紋章が映っている。
教祖・天城修は演台の前に立ち、マイクへ手を伸ばした。
静寂。
『『拝聴せよ。』』
全員が自然と姿勢を正す。
天城だけが、その先の声へ耳を澄ませた。
そして神は告げた。
『包丁は、切れない方が危ない。』
天城は少し眉をひそめた。
数秒。補足が続く。
『力を入れるからだ。』
天城はうなずく。
さらに続く。
『滑る。』
そこで神託は終わった。
天城はマイクを握り直す。
「神託が下った。」
礼拝堂が静まる。
「包丁は、切れない方が危ない。」
信徒たちは黙って聞いている。
「力を入れるからだ。滑る……との仰せです。」
熊谷が静かにうなずいた。
「なるほど。」
天城を見る。
「これはつまり――」
「包丁の話だと思う。」
「……はい。」
熊谷は少し考える。
「しかし、深いですね。」
「包丁の話として?」
「はい。」
天城は少しだけ納得した顔をした。
「それなら、まあ……そうだな。」
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礼拝後。台所。
信徒たちは包丁を並べていた。
「これ、いつ研いだ?」
「覚えてない。」
「俺も。」
黒田守が一本の包丁を手に取る。
「……これ、トマト切れます?」
近くにあったトマトをまな板へ置く。
包丁を当てる。
ぐっ。
皮がへこむ。
「……切れない。」
もう一度。
ぐっ。
トマトが横へ逃げる。
「……切れない。」
熊谷が腕を組む。
「神託の通りですね。」
天城が言う。
「まだ研いでないからな。」
信徒たちは包丁を研ぎ始めた。
しばらくして。
「できました。」
同じトマトを切ってみる。
すっ。
包丁が入った。
「おお……。」
今度は簡単に切れた。
黒田が感心する。
「全然違いますね。」
熊谷が深くうなずいた。
「切れる。」
天城も確認する。
「切れるな。」
熊谷が包丁を見つめる。
「神託とは、切れるものを切れるように戻すことなのですね。」
天城が少し考える。
「……まあ、そういうことだな。」
熊谷は満足そうにうなずいた。
「深い。」
「今日は浅いと思う。」
台所に笑い声が広がった。
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【教団報告】記録係:加藤
神託
「包丁は、切れない方が危ない。」
実施率
本部:100%
確認事項
研ぎ直した包丁:八本
備考
「トマトは無事だった。」
追伸
「研ぎすぎにも注意。」




