第010話 神の御前にて、最強を決めよ 前編
午後六時。
礼拝堂のスクリーンには静聴会の紋章が映っている。
教祖・天城修は演台の前に立ち、マイクへ手を伸ばした。
静寂。
『『拝聴せよ。』』
全員が自然と姿勢を正す。
天城だけが、その先の声へ耳を澄ませた。
そして神は告げた。
『神の御前にて、最強を決めよ。』
天城は少し眉をひそめた。
数秒。補足が続く。
『じゃんけんである。』
天城の眉が、さらに少しだけ下がった。
さらに。
『勝った者が最強である。』
そこで神託は終わった。
天城はマイクを握り直す。
「神託が下った。」
礼拝堂が静まる。
「神の御前にて、最強を決めよ。」
信徒たちは黙って聞いている。
「じゃんけんである。」
一同がざわついた。
「勝った者が最強である、との仰せです。」
しばらく沈黙。
熊谷がゆっくりと立ち上がった。
「……最強。」
天城が熊谷を見る。
「じゃんけんで?」
「はい。」
熊谷は真剣な顔でうなずいた。
「神がそう仰せになったのであれば。」
黒田守が手を挙げる。
「賞品はありますか?」
天城が少し考える。
「神託にはない。」
「そうですか。」
黒田は静かに座った。
熊谷が腕を組む。
「では、勝者には何が与えられるのでしょう。」
「最強の称号じゃないか?」
「称号だけですか?」
「たぶん。」
熊谷は考え込んだ。
「最強……。」
結衣も少し考える。
「じゃんけんで一番になった人が、最強ってことですよね。」
天城がうなずく。
「そうだと思う。」
熊谷が顔を上げた。
「では、負けた者は最弱……。」
「そこまでは言ってない。」
「しかし最強を決めるのであれば――」
「じゃんけんの大会だ。」
天城はきっぱりと言った。
熊谷は少し黙った。
「……大会。」
「そう。」
「神の御前にて。」
「まあ、そうなるな。」
熊谷の表情が引き締まった。
「ならば、手は抜けません。」
礼拝堂の空気が少し変わった。
「私も。」
「俺も。」
「せっかくなら勝ちたい。」
信徒たちが次々に声を上げる。
黒田も立ち上がった。
「では、参加者を記録します。」
「そこまでやるのか。」
天城が少し呆れる。
だが、信徒たちはすでに真剣だった。
熊谷が天城を見る。
「教祖様も参加されますか?」
天城は少し考える。
「……俺も?」
「教祖様こそ、神の御前にて最強を示すべきかと。」
天城は困った顔をした。
「神託では、誰が出ろとは言ってない。」
「ですが。」
熊谷は真剣な顔で言った。
「教祖様が最強である可能性もあります。」
天城は少し考えた。
「……じゃあ、出る。」
熊谷がうなずく。
「承知しました。」
結衣は二人を見て、少しだけ苦笑した。
「……本当にやるんだ。」
天城が振り返る。
「神託だからな。」
「じゃんけんですよ?」
「神託だからな。」
結衣は少し考えた。
「……そうでした。」
礼拝堂の空気は、いつになく真剣だった。
そして。翌週。
静聴会にて、第一回――
「神前じゃんけん大会」が開催されることとなった。
--
【教団報告】記録係:田中
神託
「神の御前にて、最強を決めよ。」
補足
「じゃんけんである。」
参加予定者
本部信徒:二十三名
備考
「全員、本気。」
追伸
「教祖も参加。」




