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第011話 神の御前にて、最強を決めよ 後編


午後六時。

礼拝堂には、いつもより多くの信徒が集まっていた。

前方には、簡素な紙が一枚貼られている。


第一回 神前じゃんけん大会

結衣はその文字を見つめた。

「……本当にやるんだ。」


隣にいた信徒がうなずく。

「神託ですから。」


「ですよね。」


前方では、黒田が参加者名簿を確認していた。

「参加者、二十三名。」


熊谷が腕を組む。

「多いですね。」


「全員、本気ですから。」


「当然です。」


熊谷は真剣な顔でうなずいた。

天城が演台の前に立つ。

「それでは始める。」


礼拝堂が静まり返る。

「第一回、神前じゃんけん大会。」


天城が少し間を置く。

「……普通のじゃんけんだからな。」


「神前です。」


熊谷がすぐに訂正した。

天城は少しだけ熊谷を見る。

「そうだったな。」



--



予選が始まった。

「じゃんけん――」


「ぽん!」


「勝ち。」


「次。」


「じゃんけん――」


「ぽん!」


「負けた。」


「次。」


淡々と勝負が進んでいく。

結衣も順調に勝ち上がった。

「じゃんけん、ぽん。」


結衣はパー。

相手はグー。


「……勝った。」


「おめでとうございます。」


「ありがとうございます。」


結衣は少し戸惑いながら席へ戻った。

一方。

「じゃんけん――」


「ぽん!」


熊谷はグー。

相手はチョキ。


「勝ちました。」


「おめでとうございます。」


熊谷は深くうなずいた。

「神の御前ですから。」


「じゃんけんだけどな。」


天城が横から言った。

「神前です。」


「そこは譲らないんだな。」



--



予選を終え、勝ち残ったのは四名。


熊谷。

結衣。

黒田。

そして天城も残っていた。


結衣が少し驚く。

「教祖さん、強いですね。」


天城は首をかしげた。

「運だろ。」


熊谷が言う。

「運もまた、神の御心かと。」


「それを言ったら何でも神の御心になるぞ。」


「……確かに。」


熊谷は少し考えた。

「深い。」


「今のは深くない。」



--



準決勝。

熊谷と黒田が向かい合った。

「最強を決めるのです。」


熊谷は拳を握る。

黒田も真剣な顔で構える。


「じゃんけん――」


「ぽん!」


熊谷はチョキ。

黒田はパー。


「勝ちました。」


熊谷がゆっくりとうなずく。

「これで、あと一人。」


黒田は静かに席へ戻った。

「お疲れさまでした。」


「はい。」


次の対戦。天城と結衣。


結衣は少し緊張していた。

「教祖さんとやるんですか。」


「そうみたいだな。」


「負けたら……。」


「別に何もない。」


「そうですか。」


少し安心したように、結衣が笑う。

天城も構える。

「じゃあ、いくぞ。」


「はい。」


二人が手を出す。

「じゃんけん――」


「ぽん!」


天城はグー。

結衣はパー。


「あ。」


天城が自分の手を見る。

結衣も自分の手を見る。

「……勝ちました。」


「負けたな。」


結衣は少し申し訳なさそうにする。

「すみません。」


「なんで謝るんだ。」


「いや……。」


「じゃんけんだから。」


「……そうですね。」


天城は笑った。

「決勝、頑張れ。」


「はい。」



--



決勝。熊谷と結衣。

礼拝堂は静まり返っていた。

黒田が記録用紙を持つ。

「それでは。」


熊谷が深く息を吸う。

結衣も手を構える。

天城は少し離れた場所から見ていた。

「じゃんけん――」


「ぽん!」


熊谷はパー。

結衣もパー。


「あいこです。」


「もう一度。」


二人が構える。

「じゃんけん――」


「ぽん!」


熊谷はチョキ。

結衣はグー。


一瞬、沈黙。結衣が自分の手を見る。

熊谷も見る。

「……私の勝ち、ですか?」


黒田が確認する。

「はい。」


熊谷はしばらく黙っていた。

そして。

「……負けました。」


結衣が少し驚く。

「大丈夫ですか?」


「何がです?」


「いや……すごく真剣だったので。」


熊谷は少し考えた。

「神託ですから。」


結衣は苦笑する。

「そうでしたね。」


熊谷は結衣を見る。

「おめでとうございます。」


「ありがとうございます。」


熊谷は静かに頭を下げた。

「本日の最強は、佐倉さんです。」


礼拝堂から拍手が起こる。

結衣は少し照れながら頭を下げた。


そのとき。

天城が口を開いた。

「神託が下った。」


一同が静まる。

天城は少しだけ笑った。

「本日の最強は、佐倉結衣である。」


結衣は目を丸くした。

熊谷が深くうなずく。

「神もお認めになった。」


「いや。」


天城が苦笑する。

「俺が言っただけだ。」


一瞬の沈黙。

そして、礼拝堂に小さな笑いが広がった。


結衣も少し笑った。

こうして。


第一回、神前じゃんけん大会は終了した。



--



【教団報告】記録係:鈴木


神託

「神の御前にて、最強を決めよ。」


優勝

佐倉結衣


参加者

二十三名


結果

優勝者:一名

敗北者:二十二名


備考

「賞品なし。」


追伸

「最強の称号のみ授与。」


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