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式部省の呪詛係  作者: 浮田葉子
第一章 怨霊の宴
8/15

六 父と子

 行斉(ゆきなり)の前に、真薫(ちかゆき)は袋を差し出した。


「これを、井戸の近くで見つけました」


 行斉は袋を手に取り、中を見た。

「これは……附子か」


「はい。この袋、見覚えはありませんか」

「……ある」


 行斉の顔が、強張った。


「この布地は、行季(ゆきすえ)が好んで使うものだ。この紺色、この織り方。(から)渡りの、珍しい布でな」


「行季様の、ですか」


「ああ。行季の狩衣も、同じ布で仕立てている」

 行斉は、深く息を吐いた。

「まさか、行季が……」


「行斉様」

 真薫は静かに言った。

「行季様を、呼んでいただけますか」



 行季が部屋に入ってきた。


「父上、何の用ですか」


「行季」

 行斉は、袋を差し出した。

「これは、お前の袋か」


 行季の顔色が、変わった。


「……それは」


「井戸の近くで見つかった。中には附子(ぶす)が入っていた」

 行斉の声が、震えた。

「行季、お前が……」


「違います」

 行季は首を振った。

「私は、何も」


「では、なぜこの袋が井戸の近くに」

「それは……」


 行季は言葉に詰まった。


「……落としたのかもしれません」

「落とした?」


「ええ。本草学の研究で使っていた袋を、散歩の際に落としたのかも」

「しかし——」


「父上」

 行季は声を荒らげた。

「私は、何もしていません。信じてください」


 行斉は、苦しそうに目を閉じた。


「……行季」


「父上」


「お前は、葵を……」


「葵殿を? あの女が何だと言うのですか」

 行季の声が、冷たくなった。

「あの女が側室になったせいで、母上のお立場が——」


 行季は拳を握りしめた。


「本来なら、もう別邸に移っているはずだ。それなのに、いつまでもこの屋敷に留まって、母上を苦しめている!」


「行季……」


「母上が毎日、あの女の顔を見なければならない。侍女たちが、あの女に仕えている姿を見なければならない。それが——」


 行季の声が、震えた。


「私には、耐えられなかった! だから、私は——」


 そこで、行季は口を噤んだ。

 しかし、もう十分だった。


「行季様」

 真薫は静かに言った。

「あなたが、井戸に毒を入れたのですね」


「……」


 行季は、何も答えなかった。

 ただ、うつむいたまま、動かなかった。


「行季……」

 行斉は、力なく呟いた。

「なぜ、このような、真似を……」



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