五 学問の刃
真薫と定明は、行斉の側室に会った。
葵という女性だった。
三十代前半。
美しく、物腰が柔らかい。
「侍女たちのことは、本当に心配しております」
葵は涙ぐんだ。
「小桜は、亡くなってしまいましたし……」
「小桜は、あなたに仕えていたのですか」
「はい。私の身の回りの世話を」
「時雨と若菜は」
「時雨も、若菜も、私に仕える侍女です」
真薫は、確信した。
三人の侍女の共通点——葵に仕えていた。
「葵様」
「はい」
真薫は、少し言葉を選んだ。
「失礼ですが、あなたは元々、この屋敷の女房だったと聞きましたが」
「ええ」
葵は頷いた。
「五年ほど前から、この屋敷で女房として仕えておりました。それが、半年ほど前に……行斉様のご寵愛を受けるようになり」
「側室に、なられたのですね」
「はい」
葵は、わずかに目を伏せた。
「本来であれば、別の邸を用意していただくはずなのですが……まだ、手配が整っておりませんで」
「なるほど」
真薫は頷いた。
「行季様との関係は、いかがですか」
「行季様……?」
葵は、顔を曇らせた。
「あまり、よくはありません」
「どういうことですか」
「行季様は、私がこの屋敷に留まっていることを、快く思っておられないようです。北の方様——行季様のお母上の、お近くにいることを」
葵の声が、小さくなった。
「早く別邸に移るべきだ、と。何度も、行斉様に申されているそうです」
「なるほど」
真薫は頷いた。
「ありがとうございました」
真薫と定明は、再び裏庭の井戸へ向かった。
「真薫殿」
定明が訊いた。
「行季様が犯人だと、確信されたのですか」
「ええ」
真薫は答えた。
「動機、機会、知識。すべて揃っています」
「しかし、証拠は」
「それを、今から探します」
真薫は井戸の周りを丹念に調べた。
石組み、地面、草むら。
そして——。
「これは」
真薫は、草むらの中から何かを拾い上げた。
小さな袋だった。
布製で、中に何か入っている。
真薫は袋を開けた。
中には、乾燥した植物の根が入っていた。
紫色で、独特の匂いがする。
「これは……」
定明が顔を近づけた。
「先程の井戸の水と同じ臭い。――附子ですか」
「ええ」
真薫は頷いた。
「これを井戸に入れたのでしょう」
「しかし、誰が」
「行季様です」
真薫は袋をよく見た。
袋の布地。
濃い紺色で、細かい織り模様がある。
格子状の、やや珍しい織り方だ。
「この布地……」
真薫は、ふと思い出した。
行季に会ったとき、彼が着ていた狩衣。
あれも、同じ紺色で、同じ織り模様だった。
「定明殿、行季様に会ったとき、狩衣の色を覚えていますか」
「ええと……紺色でしたね。確か、変わった織り方の」
「この袋と、同じ布地です」
真薫は袋を懐に入れた。
「これを、行斉様に見せましょう」




