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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第六章 過去からの谺
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七 会えぬ約束

 その日、真薫は北野天神(きたのてんじん)を訪れた。


 大江次子(おおえのなみこ)——合歓(ねむ)の君から、(ふみ)が届いていた。


 ——午の刻、北野の社に参ります。


 真薫は、境内で待った。


 しばらくして、牛車(ぎっしゃ)が到着した。


 次子が降りてくる。


 人気の多い境内。

 昼間の北野天神は、活気に満ちている。


「なみ」


 真薫が呼びかけると、彼女は振り向いた。


「四郎様」


 彼女の顔は、いつになく深刻だった。


「申し訳ありません――私、疑われております」


 彼女は、小さく言った。


「中宮様から、問い詰められました」


 真薫は、息を呑んだ。


「右大臣様が、中宮様に言及なされたそうです。"合歓は、誰かに情報を流しているのではないか"と」


 次子は細く息を吐いた。


「しかし、中宮様は私を信じてくださいました」


 目が潤んでいた。


「"合歓、そなたを信じる"と。だから、宮中を辞する必要はありません」


 彼女は、真薫の手を取った。


「でも……」


 彼女の声が、震えた。


「もう、お会いすることは、かないません」


「……」


 兼遠と、三人で協力し合おうと約束した途端、これか。

 繋がったと思ったばかりの糸が、乱暴に断ち切られたような気持ちだった。


「監視が厳しくなりました。会えば、私も四郎様も、危険です」


 真薫は、思わず次子の手を握りしめていた。


「なみ……」


 次子は真薫の手をそっと、握り返す。


「でも、大丈夫です」


 次子は、微笑んだ。

 気丈に微笑んで見せた。


「兼遠様を通じて、情報をお伝えします」


「兼遠様……」


 真薫は呆然と言葉を繰り返すだけだ。

 次子に会えなくなる日が来るなど、思ったことも無かった。


「はい」


 次子は頷いた。


「兼遠様は、ずっと昔から、道顕様と戦っておられます。――私たち三人で、協力致しましょう」


 次子は、真薫を見た。

 まっすぐな眸だった。

 強くまっすぐで。今にも溢れそうな涙に潤んでいた。


「四郎様、これからは兼遠様を信じてください。私も、兼遠様を通じて、四郎様を支えます」


 真薫は、頷いた。


「――わかった」


 涙の溢れそうな眸で、それでも次子は笑ってみせた。

 その強さに胸を打たれた。


「では、私はこれで」


 一礼し、踵を返した。


「なみ!」


 一瞬、次子の足が止まる。


 何を言えばいいのかわからなくて。

 真薫は思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。


「――ありがとう」


 真薫の声が、泣きそうなことに気付いたのかもしれない。

 次子は、振り返らずに、牛車に乗った。


 真薫は立ち尽くしたまま、しばらく動くことができなかった。

 彼女と、直接は会えなくなった。


 しかし、繋がりは断たれていない。

 兼遠を通じて、三人は繋がっている。


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