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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第六章 過去からの谺
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五 裏帳簿

「有子の死後、私は誓った。藤原道顕(ふじわらのみちあき)を、必ず倒すと」


 兼遠は、真薫(ちかゆき)を見た。


「だから、私は裏帳簿をつけ始めた。有子が集めた証拠に、私の記録を加えて」


 兼遠は、別の手箱を取り出した。

 中には紙の束。


「これが、私の裏帳簿だ」


 真薫は、差し出されたそれを見た。

 そして丁寧に受け取った。


 幾分か古びた感じのその冊子は、十七年前からの記録だった。


 ——紀有子(きのありこ)の死。帝への工作を知られ、謀殺。病死として処理。


 ——源正周(みなもとのまさちか)藤原貴通(ふじわらのたかみち)派の重鎮。讒言により失脚。後に自死。道顕が工作。


 ——藤原胤家(ふじわらのたねいえ)、有力貴族。娘を入内させようとしたが、道顕が妨害。病死とされるが毒殺の疑い。


 ——大納言橘仁斉(たちばなのひとなり)、道顕の政敵。不正を捏造され、流罪。道顕の策略。


 真薫は、息を呑んだ。


 次々と記された名前。

 蹴落とされた貴族たちが並んでいた。

 破滅させられた人々。

 失われた命の数々。


 兼遠の記録してきた裏帳簿。


 道顕は、十七年以上をかけて、多くの人を犠牲にしてきた。

 そして、今の地位に上り詰めた。


 兼遠は、静かに言った。


「道顕様は、権力を得るために、躊躇なく人を消してきた。有子も、その一人だ」


 真薫は、さらに紙をめくった。


 最近の記録。


 ——藤原維時の事件。

 ——藤原行斉邸の事件。

 ——賀茂光保の事件。

 ——道顕の自作自演。

 ——賀茂保規の口封じ。


 真薫が記録してきたことと、ほぼ同じだった。


「兼遠様も、すべてを……」


「ああ。私の立場なら、見えるものも多い。入ってくる情報もね」


 兼遠は、真薫を見た。


「君と同じように、私も記録していた。――いつか、道顕様を引きずり降ろすために」


 兼遠は、真薫の肩に手を置いた。


「君も裏帳簿をつけているだろう?」


 真薫は、驚いた。


「どうして……」


 けれど見抜かれたことに、驚きよりも納得があった。


「君の目を見ればわかる」


 兼遠は、微笑んだ。


「君は、嘘をつくことに耐えられない。だから、必ずどこかに真実を書き残している」


 兼遠は、雨が降りしきる外を見た。


「だから、見守っていた……いや、違うな」


 兼遠の声が、静かになった。

 雨の音に紛れてしまうくらいに。


「君を、試していた」


「……試して?」


「ああ」


 兼遠は頷いた。


「道顕様を追い詰めるには、強い意志が必要だ。途中で諦めるような人間では、戦えない」


 兼遠は、真薫を見た。


「だから、見ていた。君が、保規殿の死を目の当たりにして、どうするか。――君が、折れるか。諦めるか」


 兼遠の目が、鋭くなった。


「もし、君がここで諦めるなら、見限るつもりだった」


 真薫は、息を呑んだ。


「しかし、君は折れなかった」


 兼遠は、微笑んだ。


「記録を続けると決めただろう。それがわかった。道顕様に一矢報いる気概がある。そう思った。だから、私は決めた」


 兼遠は、真薫の肩を叩いた。


「君となら、道顕様と戦える」


 真薫は、兼遠を見た。

 兼遠の目には、強い決意があった。


「兼遠様……」


「真薫くん、協力しよう」

 兼遠は、真薫の手を取った。

「二人の裏帳簿を合わせれば、道顕様を追い詰められる」


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