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式部省の呪詛係  作者: 浮田葉子
第一章 怨霊の宴
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二 白衣の影

 真薫(ちかゆき)定明(さだあきら)は、まず死者の小桜(こざくら)が倒れた場所を調べた。


 それは、屋敷の北側、侍女たちが寝起きする(つぼね)の一角だった。

 几帳(きちょう)で仕切られた狭い空間。

 (しとね)が敷かれ、衣桁(いこう)に衣が掛けられている。


「ここで、小桜は倒れたのですね」


 真薫が訊くと、案内役の老女房が頷いた。


「はい。夜半に、突然苦しみ出して……」

「症状は」


「高熱です。それと、幻覚。“何かが見える”と言って、怯えておりました」

「何が見えたのですか」


「“女の影”だと……」

 老女房は声を潜めた。

「“白い衣の女が、私を見ている”と、そう言っておりました」


 真薫は局を見回した。

 特に変わった様子はない。

 清潔に保たれた、ごく普通の局だった。


「定明殿」

 真薫が声をかけると、定明は几帳の奥をじっと見つめていた。

「……何か?」


「んー」

 定明は首を傾げた。

「何にもないですね。“気配”ってやつが」


「気配?」


「ええ。怨霊とか物の怪って、独特の空気感があるんですよ。陰の気、っていうか。でも、ここには全っ然ない」


 定明はあっけらかんと言った。


「真薫殿、何か気づきました?」


「……まだ」

 真薫は正直に答えた。

「次に、他の侍女の局を見せていただけますか」



 時雨と若菜は、別の局で寝込んでいた。


 二人とも、高熱にうなされている。

 顔は蒼白で、額には冷たい布が当てられている。


「症状は、小桜と同じですね」


 真薫が呟くと、定明が頷いた。


「ですね。高熱、幻覚、痙攣。教科書通りの“物の怪に取り憑かれました”の雛型(テンプレ)です」


「雛型、ですか」

「ええ」


 定明は軽い調子で続けた。


「でもね、やっぱりおかしいんですよ。物の怪が人に取り憑くと、普通は強烈な陰の気が残るんです。でも、ここには何にもない」


 定明は不思議そうに首を傾げた。


「まるで、物の怪なんて最初からいなかったみたいに」


 真薫は、時雨と若菜の様子を観察した。


 二人とも、苦しそうに呼吸をしている。

 時折、うわごとを言う。


「……女が……白い……」

「……見ている……私を……」


 小桜と同じ幻覚を見ているようだった。


「真薫殿」


 定明が軽い調子で声をかけた。


「はい」


「この侍女たち、何か共通点ってあります?」


「共通点」

 真薫は考えた。

「三人とも、侍女です。そして、症状が同じ」


「他には?」

「……わかりません。もう少し、調べてみます」


 真薫は老女房に訊いた。


「この三人、何か共通していることはありませんか。例えば、同じものを食べたとか」


「さあ……」

 老女は首を傾げた。

「侍女たちは、皆同じ釜の飯を食べますから……」


「では、同じ場所で働いていたとか」


「それも、皆違いますね。小桜は台盤所(だいばんどころ)、時雨は御湯殿(おゆどの)、若菜は塗籠(ぬりごめ)で調度品の掃除を……」


 真薫は眉をひそめた。

 共通点が見つからない。


「定明殿」

「はい」


「屋敷内を、もう少し調べてみませんか」

「ええ、そうしましょう」



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