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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第六章 過去からの谺
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四 十七年前の雨

 (きざはし)に腰掛けて。

 二人きり。


 雨の音が大きくなった。

 時折風に煽られた雨が降りかかる。


 兼遠は、外を見ていた。

 どこかを見ているようで、どこも見てはいなかった。


 その目に映るものは、今は届かない過去の姿だ。


紀有子(きのありこ)

 兼遠は、静かに言った。

「先々帝の中宮に仕えていた女房だ」


「……先々帝の中宮」


「ああ。嘉子(よしこ)内親王様だ」


 兼遠は、続けた。


「有子は、優秀な人だった。聡明で、見識が高く、誰からも尊敬されていた」


 兼遠は、窓の外を見た。


「私にとっては……親しい間柄だった。姉のようにも思っていた人だ」


 兼遠の声が、震えた。


「その有子が、道顕様に殺された。――十七年前のことだ」


 真薫は、息を呑んだ。


「……殺された?」


「ああ」


 兼遠は頷いた。


「当時、道顕様はまだ若かった。しかし、すでに権力を握り始めていた」


 兼遠の声は、雨に溶けそうだった。


「道顕様は、当時中宮職についていて、中宮様の覚えめでたかった。そして、中宮様を通じて、先々帝に影響を及ぼそうとした」


 兼遠は、振り返った。


「有子はそれを知ってしまった」


 暗い目をしていた。


「有子は、証拠を集めた。そして、私に託そうとした」


 兼遠は、目を閉じた。


「しかし……間に合わなかった」


 一瞬、言葉が詰まる。


「――有子は、病死として処理された。実際は、毒殺だった」


 真薫は、何も言えなかった。

 兼遠は、胸元から古い(ふみ)を取り出した。


「有子は、死の直前、私に文を書き残した。これが、そうだ」


 古びた文。

 十七年前の、形見となってしまった品。

 肌身離さず、持ち歩いているのだと、兼遠は言った。


「そして、これが、有子が集めた証拠だ」


 兼遠は、手箱から古びた紙の束を取り出す。


「道顕様の陰謀の記録だ。十七年より前から、ずっと」


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