六 兄の願い
翌日、次兄の実薫が訪ねてきた。
「真薫」
「実薫兄上」
実薫の顔は、いつになく険しかった。
「賀茂保規が死んだな」
「……ええ」
「陰陽助だった男だ。病死だそうだ」
実薫は、真薫を見た。
「本当に、病死だと思うか?」
「……いえ」
真薫は、正直に答えた。
「口封じだと思います」
「そうだろうな」
実薫は、溜息をついた。
「お前の相棒、定明とかいう陰陽師も危ない」
「……知っています」
「保規の部下だったそうじゃないか。次は、あの男かもしれない」
実薫の声が、震えた。
「そして、お前もだ」
「兄上……」
「お前は、記録をつけている」
実薫は、真薫の肩を掴んだ。
「保規は呪物を設置しただけで殺された。お前は、もっと危険だ」
実薫の目が、潤んでいた。
「私は……怖いんだ」
「兄上……」
「弟を失うのが、怖い」
実薫の声が、掠れた。
「同僚が次々と消えていくのを見るのも、怖い。いつか、お前の番が来るんじゃないかと思うと、夜も眠れない」
実薫は、真薫を抱き寄せた。
肩に額を押し当て、呻くように言った。
「頼む。記録を燃やしてくれ」
「――……兄上。……すまない」
真薫は、小さく言った。
「でも、私は……」
「わかっている」
実薫は、真薫を離した。
「お前は、そういう人間だ。だから、こんなことになったんだ」
実薫は、苦笑した。
「せめて、用心してくれ。記録は、絶対に見つからない場所に隠せ」
「……はい」
「そして、もし何かあったら、すぐに私に知らせろ」
実薫は、真薫の肩を強く掴んだ。
「私が、必ず助ける」
実薫は、御簾を押し上げて出て行った。
真薫は、また一人残された。
実薫の背中は、どこか小さく見えた。
真薫は、拳を握りしめる。
「……考えろ」
小さく呟いた。




