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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第四章 届かぬ手
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六 兄の願い

 翌日、次兄の実薫(さねゆき)が訪ねてきた。


真薫(ちかゆき)

「実薫兄上」


 実薫の顔は、いつになく険しかった。


賀茂保規(かものやすのり)が死んだな」

「……ええ」


「陰陽助だった男だ。病死だそうだ」

 実薫は、真薫を見た。

「本当に、病死だと思うか?」


「……いえ」

 真薫は、正直に答えた。

「口封じだと思います」


「そうだろうな」

 実薫は、溜息をついた。

「お前の相棒、定明(さだあきら)とかいう陰陽師も危ない」


「……知っています」

「保規の部下だったそうじゃないか。次は、あの男かもしれない」


 実薫の声が、震えた。


「そして、お前もだ」

「兄上……」


「お前は、記録をつけている」

 実薫は、真薫の肩を掴んだ。

「保規は呪物を設置しただけで殺された。お前は、もっと危険だ」


 実薫の目が、潤んでいた。


「私は……怖いんだ」

「兄上……」


「弟を失うのが、怖い」


 実薫の声が、掠れた。


「同僚が次々と消えていくのを見るのも、怖い。いつか、お前の番が来るんじゃないかと思うと、夜も眠れない」


 実薫は、真薫を抱き寄せた。

 肩に額を押し当て、呻くように言った。


「頼む。記録を燃やしてくれ」

「――……兄上。……すまない」


 真薫は、小さく言った。


「でも、私は……」

「わかっている」


 実薫は、真薫を離した。


「お前は、そういう人間だ。だから、こんなことになったんだ」


 実薫は、苦笑した。


「せめて、用心してくれ。記録は、絶対に見つからない場所に隠せ」

「……はい」


「そして、もし何かあったら、すぐに私に知らせろ」


 実薫は、真薫の肩を強く掴んだ。


「私が、必ず助ける」


 実薫は、御簾(みす)を押し上げて出て行った。

 真薫は、また一人残された。


 実薫の背中は、どこか小さく見えた。

 真薫は、拳を握りしめる。


「……考えろ」


 小さく呟いた。



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