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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第四章 届かぬ手
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三 父と息子と

 真薫(ちかゆき)定明(さだあきら)の住まいを訪ねる途中、藤原顕実(ふじわらのあきみつ)と鉢合わせた。


「……真薫じゃないか」


 顕実は、少し面倒そうに言った。


「顕実殿」

「どこへ行く」


「定明殿の住まいへ」

「ああ、安倍定明か」


 顕実は、鼻で小さく息を吐いた。


「面倒なところに首を突っ込むなよ。――いや、もう突っ込んでいるのだったか」


「……どういう意味ですか」


賀茂保規(かものやすのり)が死んだだろう」


 顕実は、素っ気なく言った。


「病死、ということになっている」


 真薫は黙って頷く。


「次は、あの男かもしれん」


 さらりと言うが、声は低い。


「知りすぎた者は、邪魔になる」


「……」


「父上は、そういう人だ」


 言い切りだった。


「盤上の駒に情など期待するな。――私は、もうしていない」


 拳が、わずかに握られる。


「私も、見てきた。親子だからな。知っていることもある」


 吐き捨てるように言う。


「父上が、何をしてきたか。――知らされぬことの方が多いがな」


 一瞬の沈黙。


「だからといって、私に何かできると思うなよ」

 先回りするように、顕実は続けた。

「止める気もない。止められもしない」


 それは、半ば自嘲だった。

 顕実は、真薫をじろりと見る。


「……で、お前だ」

「はい」


「最近、動きが目につく」

 ぶっきらぼうな言い方だった。

「余計なところを見て、余計なことを考えている。顔に出ているぞ」


「……」


「別に、内容を聞く気はないぞ」

 すぐに付け足す。

「聞いたところで、面倒だからな」


 だが、言葉は止まらない。


「ただな」


 一拍。


「父上も、お前を見ている」


 顕実は、視線を逸らしたまま言った。


「何をしているかまでは、掴んでいない。――今のところはな」


 真薫は、息を詰める。


「だから」

 顕実は、苛立ったように続ける。

「踏み込みすぎるな。目立つな。――生きていたいなら」


 真薫は、思わず問い返した。


「……なぜ、そこまで」


 顕実は、舌打ちしそうになるのを堪えた。


「さあな」


 肩を竦める。


「昔からの顔見知りだから、かもしれん」


 一瞬、言葉を切り、


「それとも」


 苦笑が浮かぶ。


「お前まで、父上に潰されるのを見るのが……癪なだけか」


 それ以上は言わなかった。


「忠告はした」


 背を向ける。


「聞かなかったことにしてもいい。だが、その時は――自己責任だ」


 顕実は去っていった。


 真薫は、その場に残された。


 顕実は、知らない。

 裏帳簿のことも、そこに書かれた真実も。


 だが、勘だけで、ここまで踏み込んできた。


 それが、何より危うく、そして有り難かった。


「顕実殿……」


 真薫は、小さく名を呟いた。


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