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一 作られた怪異
弥生。
春の訪れとともに、京の都は今を盛りとばかりに華やいでいた。
しかし、その華やぎの裏で、不穏な噂が流れ始めていた。
——右大臣派の貴族たちが、次々と病に倒れている。
その朝、藤原真薫が式部省に出仕すると、藤原兼遠が待っていた。
「やあ、真薫くん。また仕事だよ」
兼遠は、いつもの軽い調子で言った。
しかし、その目は笑ってはいない。
「今度は何でしょうか」
「右大臣派の貴族が、三人も病気になってね」
兼遠は、報告書を真薫に渡した。
「これ、呪詛だから」
「……呪詛、ですか」
「うん。左大臣派が呪詛をかけたんだって。だから、そう報告書を書いて」
兼遠は、あっけらかんと言った。
「調査は?」
「もちろん、形だけはしてよ。定明くんも一緒に」
兼遠は、真薫の肩を叩いた。
「真薫くん、わかってるよね」
その声には、わずかな重みがあった。
「……はい」
「じゃ、よろしく」
兼遠は、手を振って出て行った。
真薫は、報告書を見た。
——藤原義光邸、怪異の報告。
——藤原泰房邸、同じく。
——源時信邸、同じく。
義光と泰房は藤原氏、時信は源氏。
いずれも右大臣藤原道顕派の中堅貴族だった。
「……またか」
真薫は、小さく呟いた。




