六 見てはならぬもの
翌日、真薫は報告書を書いた。
——賀茂光保、呪詛返しにより死亡。
源公通の怨霊に殺害されたと確認。
陰陽師安倍定明により、怨霊を鎮めた。
これが、表の報告書。
そして、真薫は別の紙にも書いた。
——真相。光保は右大臣道顕の命で、源公通を呪詛により殺害。
その報いとして、公通の怨霊に殺された。
証拠、香炉内の人形代。
裏帳簿。
真実の記録。
しかし、今回は少しだけ違っていた。
真薫は、最後に一行加えた。
——怨霊は、実在した。定明と共に、その姿を目撃。
真薫は、筆を置いた。
「怪異は、存在している……」
呟きが、静かな部屋に落ちた。
数日後、真薫は定明と再び顔を合わせた。
「真薫殿、報告書は書きましたか」
「ああ。“呪詛返しにより死亡”と」
「そうですか」
定明は、微笑んだ。
「あの日、怨霊を見ましたね」
「……ああ」
真薫は、正直に答えた。
「見た。確かに、いた」
「どう思いました?」
「……わからない」
真薫は、空を見上げた。
「私は、証拠と論理を信じてきた。しかし、あれは……説明できない」
「そうですね」
定明は、真薫の隣に並んだ。
「でも、それでいいんだと思います」
「え?」
「世の中には、説明できないものがある。それを認めることも、大切なんじゃないですか」
定明は、明るく笑った。
「真薫殿は真薫殿のやり方で、僕は僕のやり方で。お互い、できることをやりましょう」
「……ああ」
真薫は、小さく頷いた。
「そうだな」
真薫は、手箱を開けた。
中には、三つの裏帳簿。
藤原維時の事件。
藤原行斉邸の事件。
そして、光保の事件。
真実が、そこに記されている。
そして、今回初めて、怪異の存在を認めた記録も。
「いつか……」
真薫は呟いた。
「いつか、この記録が役に立つ日が来る」
そう信じて、真薫は手箱を閉じた。




