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式部省の呪詛係  作者: 浮田葉子
第二章 陰陽寮の闇
10/16

一 塗籠の死

 如月(二月)

 立春を過ぎても、京の都は冷え込んでいた。


 その朝、式部省に一通の報告が届いた。


 ——陰陽寮にて、陰陽師が変死。怪異の可能性あり。


 藤原兼遠(ふじわらのかねとお)は、いつものように軽い調子で言った。


「やあ、真薫(ちかゆき)くん。また仕事だよ」

「……陰陽寮、ですか」


 藤原真薫(ふじわらのちかゆき)は、報告書を受け取った。


「うん。陰陽師が死んだって。呪詛返しじゃないか、って話」

 兼遠は、あっけらかんと笑った。

定明(さだあきら)くんも呼んであるから。二人で行ってきて」


「承知しました」



 真薫が怪異雑掌所かいいざっしょうどころを出ると、安倍定明(あべのさだあきら)がすでに待っていた。


「やあ、真薫殿」

 定明は、いつもの軽い調子で手を振った。

「また一緒ですね」


「ああ。今回は、陰陽寮だそうだ」


「陰陽寮……」

 定明の表情が、わずかに曇った。

「僕の職場じゃないですか」


「知り合いか」

「陰陽寮の者なら、大体は知ってます」


 定明は、複雑な顔をした。


「行きましょう。話は現場で聞きます」



 陰陽寮は、太政官の北、中務省の東にある。

 占い、天文、時、暦の編纂を司る役所である。


 真薫と定明が到着すると、陰陽寮の(すけ)が出迎えた。


「よく来てくださった」


 助——賀茂保規(かものやすのり)。従五位下。

 五十代の、厳格そうな顔立ちの男だった。


「早速だが、現場を見ていただきたい」



 案内されたのは、陰陽寮の奥にある塗籠(ぬりごめ)だった。


 妻戸(つまど)を開けると、薄暗い空間が広がる。

 光の届かない、閉ざされた場所。

 几帳(きちょう)で仕切られた奥に、遺体が(むしろ)の上に横たわっている。


賀茂光保(かものみつやす)だ」

 保規は、低い声で言った。

「私の一族の者でもある」


 定明が顔を強張らせた。

 真薫は、冷静に遺体を観察した。


 二十代。

 痩せ型の男。

 顔は蒼白で、目を見開いている。


 そして——。


「首に、痣が……」


 真薫が呟くと、保規が頷いた。


「ああ。絞殺されたように見える」


「……しかし」

 定明が、塗籠内を見回した。

「ここは、密室だったのでは?」


「そうだ」

 保規は重々しく答えた。

「昨夜、光保はこの塗籠に籠もっていた。祈禱(きとう)のためだと言って」


「祈禱?」


「ああ。何やら、重要な呪術を行うと」

 保規は続けた。

「光保は、妻戸の内側から(かんぬき)をかけた。誰も入れぬようにな」


「それで?」


「今朝、いつまでも出てこないので、不審に思って妻戸を叩いた。しかし、返事がない」

 保規の声が、震えた。

「仕方なく、戸を破った。すると……光保が、このように死んでいた」


「密室、ですか」


 真薫は、塗籠を見渡した。


 四方が壁に囲まれている。

 妻戸は一つ。しかも閂がかけられていた。

 完全に閉ざされた空間だ。

 妻戸以外に、人が出入りできる場所はない。


「定明殿」


 真薫が声をかけると、定明は遺体の傍らに膝をついていた。


「……これは」


 定明の声が、珍しく硬い。


「どうした」


「この塗籠、いや、光保殿の身に、陰の気が……凄まじい」


 定明は、額に汗を浮かべていた。


「怨霊、ですか」


「ええ。それも、かなり強い」

 定明は立ち上がった。

「光保殿は、何者かの怨霊に殺されたのかもしれません」



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