8 フルール・サリエンテ
カミラはかしこまったお辞儀をした。
「はい。承知いたしました。ではそうねぇ、紫のアマリリスはどうかしら」
そう答え、机のうえにあった小型のアストラル・イメージを操作し、紫のアマリリスを映し出して見せた。
「特に、紫のアマリリスが留里の華やかなイメージにぴったりだと思うの」
映し出された紫のアマリリスを見つめた留里は、ちらりと透子を見るとにやりと笑って言った。
「本当、留里にぴったり! 流石カミラ先生! ありがとう。留里のフルールなんとかはアマリリスにする!」
カミラはにっこりと微笑んだ。
「そうね、留里のイメージフラワーは紫のアマリリスで決まりね」
紫のアマリリス? 確か嫌な花言葉があったはず。
透子は一瞬そう思ったものの、ここが異世界だったことを思い出し、自分の世界とは違うのだろうと考え直した。
それに、ヴァレンディアの花言葉があるなら調べなければならないとも思った。
これからのイメージが決まってしまうなら、さっさと決めてしまうのではなくしっかり考えなくてはならない。
考え込む透子にカミラが声をかける。
「透子、難しく考えなくていいの。好きな花を選べば、自ずと自分に合った花が見つかるわ」
そう言って透子の肩に優しく手を置いた。
「では、今日はお茶会でのマナーを中心に話を進めていくわね」
カミラは作法の基本から説明し始めた。覚えなければならないことは多くとも、今まで全く無関係だったことを学ぶのは透子にとって楽しいことでもあった。
「んー!」
授業が終わり透子は大きく伸びをした。
「疲れちゃったかしら?」
カミラは優しく声をかけた。
「い、いえ。そんなことありません」
「そう? でも、今日はここまでにしましょう。あまり根を詰めてもいけないわよねぇ」
すると留里が嬉しそうに言った。
「やった! やっと終わった。もう留里くたくた。今日はサマンサにネイルしてもらいたいから、早く帰りたかったんだよね」
せっかく教えてくれてるのに、そんな言い方しなくても。透子は留里を冷たい目で見つめた。だが、カミラはそんなことを意に介さぬ様子で微笑んだ。
「そう。なら早く帰らないといけないわね」
そのときドアがノックされ、フィオナとサマンサが部屋へ入ってきた。
「透子様、授業が終わったと連絡をいただきました。今日は私たちが王宮内を案内いたします」
すると留里は嫌そうな顔をした。
「えー、留里はパス。だって留里、お后になるんだよ? 用事があれば誰かに案内してもらえばいいんだし、知る必要ないじゃん。ネイルのほうが大事だし。いいよねサマンサ」
そう言うと、さっさと部屋を出ていく。その後をサマンサが慌てて追いかけていった。
「知っていても損はないのに」
透子がそうつぶやくと、フィオナがくすくすと笑った。
「色々な考え方がありますから。では透子様。ご案内させていただきます」
「はい、お願いします。ではカミラ先生、失礼します」
「はい。また明日ね透子」
そう答え、透子が立ち上がるとフィオナの案内で先日大臣たちと顔合わせをした部屋へ向かった。
「透子様、まずはこのお部屋の案内からさせていただきますね」
「はい、わかりました」
「こちらは大臣会議室です。王宮の重要な政務について話し合う場所になります」
「じゃあ、私たちにはあまり関係ない場所かもしれませんね」
「そうでもありません。現在のシジル・レゾナントである女王陛下も、時々会議に参加されますから。透子様がシジル・レゾナントに選ばれれば、会議に参加することもあると思います」
「えっ! そうなの? でも、歴代のお后たちはこの世界にやってきて、会議に参加して意見してるってことですよね。すごいな。私にできるかな」
「できますとも。だからこそ選ばれたのですから」
「うん。ありがとうございます。とにかく今はできる限りのことをします」
「はい。私たちも応援しております。では、次に参りますね」
なんだか大変なことになってきたかも。
そう思いながら透子はフィオナの後に続く。
部屋を出て長い廊下を進み螺旋階段を下っていくと、玄関ホールに出た。
吹き抜けになっており、天井まで続くステンドグラスからは陽の光が差し込み、天井から下がる大きなシャンデリアがより一層キラキラと輝いていた。
「こちらはエントランスホールです。来賓の方々にお待ちいただく場所になります」
フィオナはそう言うと中央にある扉の前に立ち、ゆっくり扉を開いた。
「こちらは宴の間になっております。舞踏会や様々な式典がこちらで行われます」
促されて中へ入ると、そこは大きなホールになっており、正面奥の高壇には二つの玉座が設えてある。
周囲を見渡すと、等間隔に細かい彫刻が施された柱があり、その間に台座が設置されていた。
「あの台座には何が飾られるのですか?」
「あれはただの台座ではありません。どういった物かお見せしますね。どうぞこちらへ」
フィオナに促され台座の前に立つと、台座からホログラムのように高齢の男性の顔が浮かびあがった。
「これは一体なんですか? それに、この方は?」
「これはアストラル・イメージと言って、霊光を投影するものなのですよ。そして、こちらは第六十四代目の国王陛下になります」
「すごい、なんの仕掛けもないのに……」
「これは、霊術を施した術具になります」
「術具……なるほど。私たちの世界のスマホみたいなものなのかな?」
「すまほ……ですか? 透子様の世界にもアストラル・イメージが?」
「はい。似たような物があります。ここまで立体的で詳細な映像を出せるわけではありませんけど」




