12 花を探しに
「へー、それにしても本当にそっくりですね」
「そうなんです。兄弟でも、普通はここまで似ていないものなのに、困ったものです」
ルーカスが会話に割って入った。
「それより透子様。失礼を承知でお訊きしたいことがあるのです」
「私に、ですか? 答えられることならいいんですけど」
ルーカスは少し照れくさそうに言った。
「あの、フィオナのことなんですが……。誕生日が近いじゃないですか。それで、その、なにか欲しがっている物とか聞いていないかと」
「えっ? フィオナさん、誕生日が近いんですか?」
ルーカスは少し目を見開いた。
「来週です。ご存じないのですか?」
その問いにレオンが答える。
「フィオナは、透子様に気を使わせたくなくて話さなかったんじゃないか?」
「そうか、それもそうだな」
ルーカスは透子に改めて訊いた。
「で、透子様。フィオナの欲しいものってわかりますか? フィオナは仕事熱心なので、新しい仕事道具とか考えているんですが」
「う〜ん、フィオナさんなら心のこもったプレゼントはなんでも喜びそう」
透子は少し考える。
でも、男性からプレゼントをもらうなら、やっぱりアクセサリーのほうがうれしいかな?
「フィオナさん、あまり自分のことを話さないのでわかりませんけど、アクセサリーとか喜ぶと思います。あまり派手ではないものがいいんじゃないですか?」
ルーカスとレオンは意外そうな顔で同時に訊き返す。
「アクセサリーですか?」
透子はそんな二人をほほえましく思いながら答える。
「はい。高いものでなくていいと思います。私は指輪がおすすめです。だって、指輪を見るたびにプレゼントしてくれたルーカスさんを思い出すじゃないですか」
すると、ルーカスとレオンは顔を見合わせ、透子に視線を戻して同時に言った。
「なるほど!」
透子はその様子を見て思わず笑った。
「本当にお二人は似ているんですね」
その言葉に二人は顔を見合わせ、恥ずかしそうに頭を掻いた。ルーカスが嬉しそうに言った。
「とにかく、透子様。アドバイスありがとうございます。助かりました」
レオンが嫌そうな顔で言った。
「ルーカス、二度と透子様の邪魔になるようなことはするなよ?」
「わかってる。じゃあこれで失礼いたします」
ルーカスは頭を下げると足早に去っていった。
レオンさんとルーカスさん。すごく仲がいいんだな……。
透子がレオンを見つめていると、レオンは少し恥ずかしそうに言った。
「透子様、弟が失礼いたしました」
「いいえ、大丈夫ですよ。それに私もフィオナさんの誕生日を教えてもらえてよかったです」
「そう言っていただけると助かります。では、部屋へ参りましょう」
「はい、お願いします」
レオンに促され部屋へ向かいながら、透子が自分もフィオナの誕生日になにかお祝いをしてあげたいと考え、立ち止まる。
「レオンさん」
「透子様。どうされました?」
「ごめんなさい、急に立ち止まったりして。私もフィオナさんになにかプレゼントがしたいと思って」
「すみません。ルーカスが余計なことを言ったばかりに」
透子は慌てて顔の前で両手を振る。
「ちがいます。私もなにか日ごろのお礼をしたいと思ってたところなんです。それで、街に買い物に付き合ってもらうことはできますか?」
「はい。それは許可さえ出れば問題ありませんよ」
「本当ですか? 誰に言えばいいんだろ」
「私からも隊長に伝えますが、透子様がフィオナに買い物に出たいと伝えるのが一番いいでしょう」
「わかりました。じゃあフィオナさんに言ってみます。レオンさん。フィオナさんにはプレゼントの件は内緒ですよ」
「はい。もちろんです」
レオンは優しく微笑んだ。
透子は部屋へ戻るとすぐにフィオナに買い物に行きたいことを話した。
するとその日のうちにフィオナが話を通してくれて、許可は簡単に下りた。
護衛までついているのに、外出は案外自由なのかな?
不思議には思ったが、それ以上特に深く考えることはなく、透子は買い物を楽しみにしていた。
こうして透子は次の休日に城下街へ買い物に出ることになった。
当日、フィオナが心配そうに言った。
「透子様。お買い物だなんて、やはり危険ではありませんか? 私に言ってくださればなんでもお取り揃えいたします」
それでは意味がないんです、フィオナさん。
透子は思わず苦笑すると答える。
「フィオナさん、心配性ですね。大丈夫ですよ、レオンさんもいることだし」
それでもフィオナは納得いかない様子で、ため息をついた。
「そうは言っても、透子様はこの美しさです。連れ去られてしまうのではと心配で」
「フィオナさん。私そんなに美しくないですよ。それに、フィオナさんのほうが綺麗だと思います」
フィオナは首を横に振った。
「透子様はわかっていません。この世界にいらしたときもお美しいと思いましたが、日々さらにお美しくなられている。それをご自覚ください」
確かに、フィオナがスキンケアを念入りにしてくれているおかげで、多少肌の潤いが増した。
それに、食生活がしっかり管理されているため、気持ちほっそりしたようにも感じた。だが、それ以外は変わりないように思えた。
「フィオナさん、褒めすぎです」
透子は苦笑した。
フィオナさんって、お姉さんって言うよりお母さんって感じなんだよね。
そんなことを考えていると、程なくレオンが迎えに来た。
「透子様、お待たせいたしました。行きましょう」
「はい。お願いします。あ、すみません。その前に寄りたい場所があります」
「どこですか?」
「中庭に少し寄ってもらえますか? 私まだフルール・サリエンテの花を決めていなくて。お庭の花を見て決めようかなって」
「あぁ、なるほど。わかりました」
「じゃあフィオナさん。行ってきますね」
透子は見送るフィオナに手を振って部屋を出た。
「フィオナさんのプレゼントを選ぶために外出したってバレたら、フィオナさん怒りますかね」
透子がフィオナの不安そうな様子を思い出しながらそう言うと、レオンは微笑む。
「いいえ、そんなことはありません。フィオナのことです。そんなことで怒ったりなんてしません」
「そうですよね。ちょっと安心しました」
「透子様。中庭に着きましたよ。今はたくさんの花が咲いています。ゆっくり観賞なさってください」
「はい。ありがとう」
透子は中庭に出ると、大きく伸びをした。外の空気が気持ちよかった。そうして改めて周囲を見渡す。
中庭の景色は壮観だった。美しく咲き誇る花々に囲まれ、透子はまるで自然の中の楽園にいるような気分になった。
「レオンさん、花の名前はご存じですか?」
「え、花の名前ですか? 申し訳ありません。私はそういうのには疎くて」
「ですよね……」
透子は少しぐらいはヴァレンディアの花のことを調べてくればよかったと思いながら、どこかに花の名前が書かれた札がないか探し、一つ一つの花を観賞していた。
ふと見ると、そこに人が立っていた。
「カイ先生?」
思わず口にすると、カイもこちらに気づき振り向いた。
カイ先生、一人で散歩かな? きっと一人でいたいよね。挨拶もいらないかもしれない。
透子は慌ててお辞儀をすると、邪魔しないようにその場を離れようとした。
「透子、花を見に来たのでは?」
透子は話しかけられるとは思いもせず、内心ぎくりとしたが、それを表に出さぬよう振り返って微笑んだ。
「はい。ですが、カイ先生のお邪魔になるかと」
「私はかまわない」
え? どうしちゃったの? ちょっと気まずいな。
そうは思ったものの、断ればもっと気まずくなると考え、透子はそこにとどまった。
「あの、ではお言葉に甘えて」
透子はなるべくカイの邪魔にならないよう、少し離れて花の観賞を続けた。
「透子。お前は花に興味が?」
不意に訊かれ、透子は驚きながら答える。
「はい。実はまだフルール・サリエンテの花を決めていなくて」
「そうか。ならばこの花はどうだ」




