第8話 器
=こちらになります=
シュウがそう言うと、映っていた半球の中の都市が消え、2m程の高さの大きな円柱が並ぶ薄暗い部屋へと変わった。それらを取り囲むように、様々な色の灯りが点灯している。誰もいないはずのその空間には、モニターに様々な情報が映し出されている。
=これは実際にこの箱舟の中にある部屋の一部です=
「つまりリアル世界ってことね」
シュウは無言で頷いて、球面ディスプレイに顔を戻した。
=この中で有機体‥‥アーカイブに保存されているDNAデータを元にタンパク質で人間の体を生成します。ですが、あくまで生成するのは体のみ。このサーバーからのAI信号を受信する為の人工脳は別に生成します=
「凄い技術ね。この世界の技術を越えている気がするけど」
=それが、別のサーバーで行われていた時間を高速で進める地域での研究が功を奏しました=
「ああ、あれね」
リシャンは前に、そこに落とされた事がある。
AIアバターの自由意志で文明を発展させた結果、崩壊した世界。そこの時間をリアルより早く進める事によって、通常の何倍もの早さで技術を発展させていた。
そこでリシャンは始めてこの世界の全てが仮想現実だという事に気づかせられた。
そのときの衝撃を思い出し、顔をしかめる。
「時間加速による技術開発の加速か‥‥」
それでも他の箱船世界より進化が遅れていたが‥‥。
=生成完了時刻は10時間後です=
「10時間! 結構、かかるのね」
=それだけ実際の人間の構造は複雑だということです。それに、あなたにぴったりの生体にするにはそれ相応の‥‥=
「分かった、分かったから‥‥」
放っておくと説明を続けるシュウをリシャンは途中で止めた。
「とにかく、あと10時間もしたら、私はその器の中にいるわけね。とりあえずそれだけ分かればいいわ」
リシャンの気楽すぎる言葉に、クロウは肩をすくめるが、こんな言い方をするときのリシャンは、緊張を隠してわざとそんな言い方をしていることを知っていた。
こんなときは、リシャンのその言葉に乗るに限る。
「じゃあ、それまで予習しておきましょう」
「予習?」
「まず、リアルは物理法則が全ての世界ですから、仮想世界のようにはいきません。その辺をきっちり勉強してもらいます」
「‥‥‥‥」
今度はリシャンがため息をついた。




