第3話 木漏れ日の並木道
春の午後の淡い光が空を薄蒼色に染め、川沿いの堤防道路がゆるやかに奥へと伸びている。
赤く色分けされた自転車レーンと灰色の歩道が並走し、その両脇には青々とした草が茂る。左手には広い河川敷が広がり、枯れ草色の原っぱが静かに風を受けている。右手には桜の街路樹が薄紅色に染まり、風に乗って花びらを歩道に降らせ続けている。その向こうには住宅や建物が連なっているのが見える。
一人の少女がその道を歩いていく。
少女の髪は肩のあたりで切り揃えられており、左右で丸く結い上げられている。幼さを残した髪型だが、整った輪郭と落ち着いた表情のせいか、不思議と子供っぽさは感じさせない。
服装は飾り気のない私服だった。白いブラウスの上から淡いベージュのカーディガンを羽織り、濃い色のロングスカートを合わせている。黒いタイツと革靴まで含めて全体の色味は控えめで、街中にいても人目を引くような派手さはない。
「‥‥いた」
ありふれた風景のその中、並木道の木製のベンチに一人の女性が座っているのを見つけた少女‥‥リシャンはフフ‥‥と小さく笑う。
目当ての女性は長い黒髪で、リシャンより年上に見える。上は生成り色のブラウスで、胸元には繊細なレースがあしらわれている。下には淡いベージュのロングスカートを合わせている。布地には小さな花柄が散りばめられ、風が吹くたびに裾が静かに揺れた。
彼女は膝の上で、小さな本を捲っている。
「こんにちわ」
「‥‥‥‥」
声をかけられて女性は顔を上げた。
木漏れ日の柔らかな光の中、リシャンは女性と目を合わせた。
少し驚いたように顔を上げた女性は、リシャンの顔を見るとすぐに表情を和らげた。
「こんにちわ、また会ったわね。学校は行かなくていいの?」
「まあね」
何度かこの女性とは会っている。何度か話しているうちに、いつの間にか不登校という設定になっていた。
彼女は詩音。近くの喫茶店で働いている、ごく普通の女性だ。
だがリシャンが彼女を見つめる瞳は複雑に揺れている。
彼女とはかつて敵としても味方としても戦った仲だった。
リシャンはこの仮想世界を率いる役目があり、それはこれから遥かな年月を渡っていくということでもある。
リシャンを知る数少ない人物として、共に歩んでいけたら‥‥そう思う気持ちは強烈ではあったが、そんな感傷で彼女を自分の運命の道連れにするわけにはいかなかった。
それでもこうしてたまに会いにくるのは、感情に支配されている自分の未熟さを感じさせずにはいられなかった。




